目次

  1. 1. 相続人の関係が希薄になるほどもめやすくなる
  2. 2. 「相続放棄してくれ」と兄から依頼 調べると4億円超の財産
  3. 3. まずは不安を解消する目的で相談だけにでも来てほしい

――弁護士に相談するのは一般の人にとってはなかなかハードルが高いものですが、普段、相続の相談に応じている中で、大事だと思うことは何でしょうか。

もう少し早く相談について考えておいて欲しかったな、と思うことがよくあります。例えば、これから相続人に財産を引き継いでいく親の世代、つまり被相続人になる方は、やはり遺言を書いておくことが大切です。遺言があれば、もめることなく遺産分割がスムーズにできます。長男にはこの財産、長女にはこの財産をあげたいという意思が残されていると、あまりもめる余地はありません。

相続人もその遺言を見れば、亡くなった親の意思を尊重しようという気持ちになります。私が相続について相談を受ける中で、相続の中で一番大事だと思っているのは、遺言を書くことだと思っています。私のところに家族が亡くなってから相談に来られる案件は、だいたいもめそうになっているケースが多い。その前に何をすればよかったのかというとやはり、遺言があればよかったのになと思うことがあります。

――もめるのは、亡くなった人の子ども同士が多いのですか。

そうですね。子ども同士のもめ事が一番多いと思います。子ども同士といっても、亡くなった親は相当な年齢ですので、子どもも高齢者です。きょうだいの間でだれかが亡くなっていると、その亡くなった人の子どもが相続する代襲相続が発生します。相続人同士の関係性が遠くなるほど、もめ事が起きやすい印象があります。

また、亡くなった方に子どもがいないと、亡くなった人の配偶者ときょうだいが相続人になります。きょうだいも高齢ですので、既に亡くなっている人もいます。すると、その子どもたち同士、つまりいとこ同士で相続の話し合いをする必要が出てきます。ますます関係が遠くなります。すると、きょうだいの間でだったらできた「親の面倒をよくみていた人にちょっと多めに遺産を渡しましょうか」といった話し合いがつかない分、もめやすくなりますね。

――相続人同士の関係が遠くなると、「相続する権利があるならもらいたい」と主張しやすくなり、配慮もなくなるのでしょうね。

そう思います。関係の近いきょうだいだったら、「兄さんがこの家のお墓の面倒をみてくれるのなら少し多めに相続してもらおう」という話になりますが、関係が遠くなるとそうした配慮もなくなります。相続するものが不動産だと、分けづらいうえに土地の価格が高くなります。すると、土地を相続する人が、ほかの相続人に不動産の代わりに払う代償金を払う必要がありますが、払えずにもめやすくなります。

親の生前からきょうだいの折り合いが悪く、亡くなった方の面倒を兄の家族で見ていたような場合、弟の次男がそれを快く思っていないため「兄が親の財産を持っているんじゃないか、使っているんじゃないか」と疑うようになるともめやすい。使途不明金問題が発生したり、使い込みを疑われたりします。親の遺言が出てくる場合もありますが「兄が無理やり書かせた」などという話になってさらにもめることもあります。

私は、どんなケースでも相続で心配なことがあれば弁護士に相談したほうがいいと思っています。最近あったケースでは、兄が親の面倒をみながら、親の財産も管理してきた。ただ、弟は親の財産の中身が分からず、きょうだい仲が良くないこともあり、なかなか親に会いに行けないという事情があった。相談してきたのは弟の方でした。

親は不動産もたくさんあったが、借金もたくさんあった。親が亡くなった後、兄から「借金も多いから相続放棄してくれないか」と提案されました。その際、弟の方が相談に来ました。こちらで調べてみると、借り入れは確かにありましたが、不動産が多かったので、不動産の価値を調べてみると、借金を差し引いても4億円もプラスになることがわかりました。

「これは相続放棄する必要はない」と判断して、結局調停となりました。結果、相当な金額をもらって和解が成立しました。あのまま相続放棄していたら、大変なことになっていたなと思います。不動産以外にもいろいろな財産があることがわかり、きょうだいだけではとても話し合いがまとまらなかったのではないかと思います。

――そのまま手続きするよりも専門家の目で確かめることで、わかることも多いのですね。

不動産は専門的に調べないとその価値はわかりません。不動産の分け方に不安がある場合には相続に詳しい弁護士に相談しておくべきです。収益不動産を持っていると、不動産価格の算出方法も相続人の立場によって違いが出てきます。収益不動産があるという方は、ぜひ相談に来ていただきたいです。第三者が間に入ることによって冷静になれることもあります。相手方もそうでしょう。

――東京ならではの地域性はありますか。

主な財産は不動産一戸と預貯金だけというケースが多いですね。不動産だけの場合でも東京だと億単位になったりするので、相続する人がほかの相続人に代償金を支払えないケースもあります。特に代償金をどう定めるのかという点については争いになりやすいです。

――弁護士への相談は、なかなかハードルが高いと感じる人も多いようです。

もっと気軽にまずは相談だけ、という程度でいいので来ていただいたほうがいいです。中には長年、もめた状態のまま解決できないまま時間が経過して相談に来る人がいます。もう少し前に不安を解消するという目的で来て欲しいと思います。

家族の問題は、まずは家族で話すことが大切です。相談に来たら必ず依頼しなければいけないわけではありません。こちらの解決案を提案はしますが、「まずはご家族で話してみてください」といつも言います。一回相談してアドバイスだけでも聞いてもらって、悩んだら改めてきてもらえばいいのです。

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――実際に弁護士に依頼しようかどうか検討する場合、事前に弁護士費用は分かりますか。

弁護士事務所にもよると思いますが、私どもは見積もりを出しています。不動産をめぐるもめごとで、土地を取得することができた場合には弁護士報酬はいくらになるということがわかるようにします。不動産がたくさんある時は、評価を分かりやすく示しています。報酬も分かりやすくすることを心がけています。この案件で、相続財産がいくら得られたら、弁護士報酬はこれぐらいかかる、ということをわかりやすく提示するようにしています。

――では、弁護士に相談するタイミングはどんな時がいいのでしょうか。

自分の気持ちの整理さえつけば、いつでもいいと思う。一つのタイミングは四十九日が終わって、相続人同士で遺産の話が出た時に相談しにくるのがいいと思う。相続税の申告の期限は亡くなったことがわかってから10カ月以内と決まっていることもあるので、不安なことがある場合はまず相談に来て欲しいです。

――相談に来る前に用意しておいたほうがいいものはありますか。

遺産が一覧になった目録があると助かります。ざっくりと、ここに土地があります、ということが書かれているだけでも助かります。あとは、家族関係が分かっていることが前提です。親に離婚歴などがある場合にも必ず教えてください。相続人が増える可能性もあるからです。

――普段、依頼者からかけられた言葉で印象的なものはありますか。

相続の依頼は、気持ちに寄り添わないといけないことも多く、単に法律論だけを説明すればすむということではないと思っています。「先生が入ってくれたおかげで、進まなかったものが進みました」などと言われるとやはりうれしいですね。そういう言葉をかけてもらうと、その人の役に立てたなと思うとやりがいを感じます。

――依頼する弁護士はどのように選べばよいでしょうか。アドバイスをいただけますか。

相続には不動産がつきものです。不動産は現金などと違い、相続人どうしで分けづらいものでもあります。私なら、やはり土地に詳しくない弁護士には相続は任せたくないと思います。弁護士であっても、土地の評価などに詳しい人がいいでしょう。あとは、相続税のことが絶対に分からないとだめ。控除とか居住用の不動産の譲与所得の控除とか、知っている弁護士がいい。相続税と土地に詳しくないとダメだと思います。弁護士が依頼者の相談で気づけないと、税理士につなぐこともできません。私の場合、相続税が問題になると分かっていたら、依頼者が来る時に知り合いの税理士にも同席してもらうこともあります。

相続税の申告は故人が亡くなってから10カ月以内、準確定申告は4カ月以内に申告する必要があるので、税理士とも連携できる弁護士であることも望ましいです。

相続の相談の場合、依頼者は感情面でのコントロールが必要になる場面も少なくありません。そのためにも相談する弁護士とは話が合う人じゃないと不満が募ります。話が合い、話していて安心できる人に依頼することも大事にしてください。

【弁護士法人アクロピース】2018年設立。東京都北区赤羽、埼玉県大宮市、千葉県柏市の3拠点がある。これまでのべ500件を超える相続案件を受託している。

(記事は2022年9月1日現在の情報に基づきます)