親だけが頑張るのではなく、家族で話しながら引き継ぎを

  • これまで、ソーゾク博士に解説してもらい、相続では家族間のコミュニケーションが大切だと分かりました。もしコミュニケーションが欠けると、実際の相続の時にどんな問題が起こり得るのですか。

    父・一郎
  • 複数の不動産を保有している地主の方を例に挙げましょう。遺産がたくさんあり、子どもをはじめ、周りの人たちは「当然、相続対策をしているのだろう」と思っていました。しかし、全く対策をとっておらず、家族は、土地の名義変更や相続税の納付で非常に苦労されました。

    ソーゾク博士
  • それは大変ですね。やっぱり、相続を事前に話し合えていない家庭が、まだまだ多いのでしょうか。

    母・正子
  • 相続でもめた経験があっても、財産を残す立場になると「うちの家族に限っては大丈夫」と考えている人も少なくないと思います。相続には、家族の財産の守り方を話し合うという側面があります。このため、本人だけで頑張らず、家族で話しながら引き継いでいくのも、あり方の一つです。

    博士

子は親に困り事がないかどうか耳を傾けて

  • 親しい家族でも、なかなか話題にしにくいように感じるなぁ。

    一郎
  • そうですね。相続の話は亡くなることを前提にしているので、いきなり始められませんね。子どもの立場からは、まずは、親が困っていることがないかどうかをよく見て、話を聞いてみてください。困りごとに耳を傾けることで、生前の財産管理についても親子で考えることにつながるかもしれません。

    博士
  • 家族で一緒に管理する方法を考えるんですね。

    一郎
  • 会話を交わす中で、少しずつお金の流れを把握していけます。相続は生活の延長線上にあるもの。まず暮らしの中のお金に関することから共有していけば、相続の備えにたどり着くでしょう。そのためにコミュニケーションが必要なんです。

    博士
  • 相続の時に家族で話し合ったり、もめたりすることに比べれば、ちゃんと話し合って進められるかも。

    正子
  • 相続の現場を見ていると、家族それぞれが、異なる思いを抱えています。それが、相続をきっかけに表出するケースが多いんです。ちょっとした誤解や勘違いから衝突して、話がこじれることもよくあります。そういう事態を回避するため、家族間で日頃からお互いに気遣い、できるだけ話す機会を増やすことが大事です。その結果、将来の相続でも話し合いがスムーズに進み、全員が納得する結論を導きやすくなるでしょう。その積み重ねが、円満な相続につながり、相続をきっかけとして家族の絆が、より深まることが期待できます。

    博士

■コミュニケーションによる備え

・会話を交わす中で、親のお金の流れを把握する
・日ごろから家族同士の気遣いが必要

(今回のソーゾク博士=三菱UFJ信託銀行/MUFG相続研究所の主任研究員・玉置千裕さん、構成=相続会議編集部)

(記事は朝日新聞土曜別刷り紙面「be」に掲載した内容を基に掲載しています。2022年4月1日時点での情報に基づきます)