目次

  1. 1. ローンは「当然分割」|遺産分割の対象にはならない
    1. 1-1. 「当然分割」とは?
    2. 1-2. 法定相続分に応じた債務の支払いは、原則として拒めない
  2. 2. 遺産分割協議でローンを1人に集中させた場合の効果
  3. 3. 遺言書でもローンの相続方法は指定できない
  4. 4. 債権者との関係でも、ローンを1人の相続人に集中させる方法は?
    1. 4-1. 免責的債務引受
    2. 4-2. 相続放棄
  5. 5. 被相続人が住宅ローン債務を負っていた場合の取扱い
    1. 5-1. 団体信用生命保険により、返済が免除されることが多い
    2. 5-2. 住宅ローンが債務不履行となった場合、抵当権が実行される
  6. 6. まとめ|相続時のローン調査は慎重に

被相続人が亡くなった際、銀行・消費者金融・親族・知人などに対してローン債務を負担している場合があります。
このとき、ローン債務は相続人間で「当然分割」されるため、遺産分割の対象にはなりません。

当然分割」とは、遺産分割等を経ることなく、法定相続分に従って、相続債務を共同相続人間が分割承継することを言います。

【判例】
「債務者が死亡し、相続人が数人ある場合に、被相続人の金銭債務その他の可分債務は、法律上当然分割され、各共同相続人がその相続分に応じてこれを承継するものと解すべきである」(最高裁昭和34年6月19日判決)

例えば、被相続人が亡くなった時点で、金融機関Xに対して1000万円のローン債務を負担していたとします。
仮に法定相続人が子A・Bの2人だけの場合、AとBは相続開始の時点で、自動的に500万円ずつのローン債務を承継します。

ローン債務の当然分割の効果は、相続開始の時点で自動的に発生します。
したがって各共同相続人は、後述する免責的債務引受または相続放棄が行われない限り、債権者が相続開始後に行う法定相続分に従った請求を拒むことはできません。

被相続人のローン債務については、遺産分割協議において、相続人間での負担割合を定めることが多いです。

しかし法的には、前述のとおり、ローン債務は遺産分割の対象とならずに「当然分割」されます。そのため、相続人は債権者に対して、相続人間で取り決めた負担割合に従って請求するよう求めることはできません。

ただし、ローンの負担割合に関する合意は、合意の当事者である相続人同士の間では有効です。
よって相続人は、債権者からの請求に応じてローン債務を支払った後、合意した負担割合に従って、相続人間で適宜求償による精算を行うことになります。

被相続人のローン債務は、遺産分割の対象にならないのと同様に、遺言書によって相続方法を指定することもできません。
遺言書による相続方法の指定は、遺産分割と同じく、相続人同士の内部の問題に過ぎず、債権者とは関係がない事柄だからです。

したがって、仮に遺言書の中でローン債務の割り振りが記載されていたとしても、債権者はその内容にかかわらず、各共同相続人に対して、法定相続分に従い請求を行うことができます。

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被相続人のローン債務は「当然分割」されるのが原則ですが、「免責的債務引受」または「相続放棄」を通じて、ローンを1人の相続人に集中させることもできます。

免責的債務引受」とは、旧債務者・新債務者・債権者の3者間で締結される、旧債務者の債務を新債務者が引き継ぐ内容の契約です。
相続人のうち1人を新債務者、残りの相続人を旧債務者として、債権者との間で免責的債務引受契約を締結すれば、ローン債務を1人の相続人に集中させることができます。
免責的債務引受には、債権者の同意が必要です。

債権者としても、別々に債権を取り立てる手間が省けるメリットがあります。
そのため、新債務者となる相続人の資力が十分であれば、債権者が免責的債務引受に応じる可能性は十分あるでしょう。

相続放棄」とは、被相続人の資産・債務を一切承継しない旨の意思表示です。
相続放棄をした者は、当初から相続人にはならなかったものとみなされるため(民法939条)、ローン債務の当然分割の効果も遡って消滅します。
このことを利用して、1人を除いた共同相続人が相続放棄を行うことで、相続人1人にローン債務を集中させることができます。

相続放棄をするには、原則として相続の開始を知った時から3カ月以内に、家庭裁判所に申述書等を提出することが必要です(民法915条1項)。

被相続人が住宅ローン債務を負担した状態で亡くなった場合、住宅ローンの相続に関しては、団体信用生命保険や抵当権との関係で特有の注意点があります。

団体信用生命保険」とは、住宅ローンの返済中に債務者が亡くなった場合などに、ローン残高全額に相当する保険金が支払われる保険制度です。
被相続人が住宅ローンを借り入れる際、団体信用生命保険に加入した場合、被相続人の死亡によって、住宅ローン債務全額が免責されます。この場合、住宅ローン債務は相続されず、相続人が返済を継続する必要はありません。

多くの場合、住宅ローン借入時の団体信用生命保険加入は必須とされています。しかし、「フラット35」など一部の住宅ローン商品については、団体信用生命保険の加入が任意とされている点に注意が必要です。

住宅ローン債権を担保するため、住宅の土地・建物には抵当権が設定されています。
被相続人が団体信用生命保険に加入していないケースで、相続人が住宅ローン債務を期限どおり支払わなかった場合、債権者の金融機関が抵当権を実行する可能性があります。
抵当権が実行された場合、住宅の土地・建物は競売にかけられてしまうので注意しましょう。

被相続人が亡くなった時点で負担していたローンは、相続の対象となります。そのため、相続人としては、被相続人のローンの有無を慎重に調査したうえで、免責的債務引受や相続放棄を含めた対応を検討しましょう。
ローンの相続に関してわからないことがあれば、弁護士などの専門家へご相談ください。

(記事は2022年2月1日時点の情報に基づいています)