まずは相続内容の点検と相続人の状況を確認

死後の節税は相続財産の内容と相続人の状況で決まります。具体的な事例を挙げてみましょう。

相続財産が自宅不動産4000万円(建物1000万円、敷地3000万円)、預貯金4000万円だったとします。子2人で均等に相続するなら基礎控除額は4200万円で課税される遺産総額は3800万円になります。一人当たりの相続税額は235万円です。

ただ、これは何の節税策も検討しなかったときの税額です。もしどちらか一方の子が生前から故人と同居しており、そのまま家に住み続ける予定なら自宅の敷地には小規模宅地等の特例を適用し、評価額を8割下げられるでしょう。相続する子どもが未成年者や障害者に該当するなら税額控除で納税額を低く抑えられます。さらに、今回亡くなったのが母で、前回の父の死亡に伴う相続から10年経っていないのなら相次相続控除が使えます。亡き母が納付した相続税の一部を差し引いて納税額を節約できるのです。

この他、故人のローンや未払税金、葬式費用の見落としがあるかもしれません。相続が始まった後の節税では、相続内容の点検と相続人の状況をていねいに確認する必要があるのです。

相続税の計算の流れを押さえよう

死後の節税策に触れる前に、相続税の計算の流れを押さえましょう。相続税は次の順番で計算していきます。

  1. 財産を取得した人ごとに課税価格を計算
  2. 全員の課税価格を合計し、正味の遺産総額を算出
  3. 課税の対象となる正味の遺産総額(課税遺産総額)を算出
  4. 相続人1人あたりの法定相続分の課税遺産額を計算
  5. 法定相続分に応じた仮の相続税額を計算
  6. 相続税額を全部合計
  7. 取得した財産に応じた本当の相続税額を計算

相続財産の内容は1で、相続税の配分は7で知ることができます。相続税が生じるのは3の段階です。ここでは正味の遺産総額から基礎控除額「3000万円+600万円×法定相続人の数」を差し引きます。この計算の結果がプラスになったら相続税の申告・納税の義務が生じます。つまり節税を検討する必要があるわけです。

死後でも使える節税策はこの2つ

相続が始まった後でできる節税策は「正味の遺産額を抑える」「税額控除を検討する」の2つです。以下、それぞれについて見ていきましょう。

【節税策1】正味の遺産額を抑える

相続税は正味の遺産額が計算のベースとなります。これを合計した正味の遺産総額が大きければ相続税は高くなります。逆にこの金額が小さければ税額も低くなるのです。したがって個々の正味の遺産額を抑えられれば節税できます。ここで節税するには、次の4つに重点をおいて相続内容を確認することが大事です。

・正確に土地の評価を行う
相続税では相続財産を時価評価します。ただ、中には評価が難しい財産があります。その代表格が土地です。土地は地目ごとに評価しますが、様々な注意が必要です。路線価エリアにある宅地は「路線価×補正率×地積」で評価計算を行います。このとき宅地の抱える事情や面積を正しく把握しておかないと評価額が高すぎたり低すぎたりしてしまいます。節税するなら土地の現況を正確に調べることが重要です。

・小規模宅地等の特例
自宅やアパート、自社ビルの敷地は小規模宅地等の特例で評価額を下げることができます。用途に応じて200㎡・330㎡・400㎡を上限に、50%か80%の評価減が可能です。ただし「メリットが大きい分要件が細かい」という難点があります。特に近年の税制改正で要件が変わっているので、活用する際は丁寧な確認が必要です。他、遺産分割協議の成立と期限内申告が前提であることも留意しましょう。

・死亡保険金・死亡退職金の非課税枠
死亡保険金・死亡退職金はともに相続税法のみなし相続財産に当たります。本来の相続財産ではありませんが相続税の課税対象です。ただ、相続人の生活原資になる点からそれぞれ「500万円×法定相続人の数」という非課税枠が設けられています。しっかりと気づいて適用すればかなり大きな節税になります。けれど生命保険金には要注意です。契約内容によっては本来の相続財産に該当し、非課税枠が使えなかったりします。「保険料の負担者と被保険者=被相続人、受取人=相続人」であることを確認しましょう。

・債務と葬式費用を確認する
債務と葬式費用は課税価格の計算上、プラスの相続財産から差し引きます。債務になるものは相続開始時に金額が確定した借金や未払費用です。ただし所得税や固定資産税などの税金は例外です。故人の死亡時に金額がわからなくても相続人が支払うなら債務に含めてよいこととなっています。なお、お墓などの非課税財産の未払代金は含めません。また、団信で返済が免除される住宅ローンも債務になりません。

葬式費用は葬式費用やお布施の他、遺体の回送費用などが含まれます。ただし葬式関連なら何でも控除できるわけではありません。香典返しや初七日などの法事費用は差し引けません。

【節税策2】税額控除を検討する

節税策としてもう一つ挙げられるのが税額控除です。それぞれが実際に相続した分に応じて計算した相続税額から一定額を差し引きます。税額控除が使えるかどうかは相続人や受遺者の状況次第です。要件の抜け漏れや誤解がないよう慎重に判断しなくてはなりません。
税額控除で主だったものは次の5つです。

・配偶者の税額軽減
故人の配偶者だけが使える税額控除です。配偶者が実際に引き継いだ正味の遺産額から、1億6000万円か法定相続分相当額のどちらか多い方の金額を差し引きます。残った金額に課税するというわけです。この制度は小規模宅地等の特例と同様、遺産分割協議の成立と期限内申告が前提になります。

・未成年者控除
相続人が20歳未満のときに適用できる税額控除です。「(20-相続開始時の相続人の年齢(1年未満切捨))×10万円」で計算します。なお、相続放棄をしても控除可能です。

・障害者控除
相続人が85歳未満の障害者であるときに適用できる税額控除です。「(85-相続開始時の相続人の年齢(1年未満切捨))×10万円」で計算します。もし相続人が特別障害者ならば、この計算式の「10万円」は「20万円」になります。未成年者控除と同じく、相続放棄をしても控除可能です。

・相次相続控除
前の相続から10年経過していないうちに今回の相続が始まったときに使える税額控除です。被相続人が前回の相続で納付した相続税の一部を相続税額から差し引けます。なお、この制度は今回の相続で財産を引き継いだ相続人だけが対象です。相続放棄や欠格・廃除で相続権を失った人には適用されません。

・贈与税額控除
生前贈与加算の対象となった贈与や相続時精算課税制度の生前贈与で納めた贈与税があるときに適用できる税額控除です。相続税の計算上、相続財産に持ち戻された生前贈与に関し納めた贈与税の額を相続税額から差し引けます。ただし加算税・延滞税・利子税は控除できません。

本当の節税策はオーダーメイド

以上が死後でも使える相続税の節税策です。上記の他、配偶者居住権の活用や農地の納税猶予といった制度も節税策として使えます。しかし実際の相続は家族ごとに異なります。すべての節税策を必ず活用できるわけではありません。またどれを使うべきかの判断も一般の方には難しいでしょう。こういった点を踏まえると「本当の節税策はオーダーメイド」だと言えます。申告期限までの10か月間で自分たちにふさわしい節税策を見つけるのは簡単ではありません。早めに経験豊富な税理士に相談し、手を借りるのがベストでしょう。

(記事は2020年11月1日時点の情報に基づいています)