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交際相手に財産を残したい! 生前贈与の活用法を弁護士が解説
別れた元妻との間に子どもがいるものの、離婚後に疎遠になり、現在はまったく連絡をとっていない方もいらっしゃるでしょう。長く会っていないことから、子どもよりも現在の交際相手に財産を残したいと思うのは、決しておかしなことではありません。しかし、法律上の親子関係とは切っても切れないものです。ご自身が亡くなったときに財産があれば、子どもが相続することになります。では、現在の交際相手にできるだけ多くの財産を残すにはどうすれば良いか。この記事では、弁護士の視点から生前贈与の活用法等を解説します。
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1. 基本的な対策は、交際相手と婚姻
1-1. 婚姻しない限り交際相手は法定相続人になれない
遺言を残さずに亡くなった場合、遺産を相続する権利がある人のことを法定相続人といいます。法定相続人が誰かというのは民法で定められていて、配偶者は法定相続人と定められています(民法890条)。
配偶者とは、民法上の婚姻関係にある者のことを指します。交際関係にあり、一緒に住んでいるものの入籍していない状態を、法律上は「内縁」と表現したりしますが、死亡時に内縁関係にあったとしても、入籍(婚姻)していなければ、法律上は相続する権利がありません。
内縁関係にあった人が相続する制度として、特別縁故者に対する相続財産の分与というものがありますが(民法958条の3)、これも、すべての法定相続人が相続放棄するなどして、ほかに相続人がいない場合など、極めて限定的な場合しか認められません。
したがって、交際相手に財産を残すために最初に行うべきことは、入籍して法律上の婚姻関係を結び、交際相手を法定相続人にすることです。
1-2. 婚姻すれば1/2の法定相続分が発生する
婚姻していなければ、交際相手には相続する権利が一切ありません。すべての遺産は、子ども等の法定相続人が相続することになります。
しかし、婚姻していれば、配偶者に相続する権利があり、配偶者は子どもと一緒に相続する場合には遺産の2分の1(50%)、故人の親と相続する場合には3分の2(67%)、故人の兄弟姉妹と相続する場合には4分の3(75%)の法定相続分が認められます(民法900条)。
1-3. 婚姻すれば、子どもの遺留分割合を減らせる
婚姻していなくても、全財産を交際相手に相続させるという遺言を残せば、交際相手に全財産を相続させることができます。しかし、この場合には遺留分に注意する必要があります。
遺留分とは、法定相続人の相続分の最低限を保証する制度のことです。法律上、子どもには、法定相続分の2分の1が遺留分として認められています(民法1042条)。
たとえば、1000万円の遺産があるとして、そのすべてを交際相手に相続させるという遺言を残していても、婚姻していない場合には、子どもに100%の法定相続分がありますので、遺留分としてその2分の1(50%)に相当する500万円が保護されることになります。
この場合、子どもが遺留分を求めてきたとすると、交際相手は遺産から500万円を支払う必要があります。しかし、婚姻していれば、子どもの遺留分の割合を減らすことができます。交際相手と婚姻すると、交際相手も法定相続人となり、子どもの法定相続分は2分の1(50%)、遺留分割合はその2分の1の4分の1(25%)にまで減らせます。
上記の例でいえば、子どもの遺留分は250万円となり、交際相手が子どもに支払うべき遺留分を減らせるでしょう。このように交際相手と婚姻すると、子どもの法定相続分、遺留分割合を減らすことができます。
1-4. 婚姻すると遺留分の対象が増えることも
婚姻することで、子どもの法定相続分、遺留分割合を減らせますが、1点だけ留意点があります。それは、婚姻することで遺留分の対象が増えるケースもありうる点です。相続対策として、生前贈与を利用していた場合などで起こりえます。
たとえば、1000万円分の財産を持っている人が、亡くなる2年前に交際相手に1000万円すべてを贈与(生前贈与)したとします。この場合、法定相続人である子どもが遺留分として請求しうるのは、法律上、亡くなる1年前までの贈与に限定されるので(民法1044条1項)、2年前に行った生前贈与1000万円は遺留分の対象とはなりません。
しかし、この交際相手と婚姻していた場合、法定相続人への贈与については亡くなる10年前までの贈与が遺留分の対象となります(同条3項)。そうすると、2年前の1000万円の生前贈与は遺留分の対象となり、交際相手は、子どもに対して、遺留分(4分の1)に相当する250万円を支払う必要があるというケースが起こりえます。
ただ、実際にいつ亡くなるかは誰にも分かりませんので、これはあくまで理論上の話になります。できるだけ交際相手に財産を残すための実際の対策としては、婚姻関係を結ぶことが重要であることに変わりはありません。
2. 生前贈与を活用しよう
2-1. 生前贈与を利用すれば相続の対象となる遺産を減らせる
法律上、子どもの相続する権利(法定相続分)や遺留分を否定するというのは困難です。子どもと疎遠であるという理由だけでは、法定相続分、遺留分を消滅させることはできません。交際相手にできるだけ多くの財産を残す方法として、婚姻関係を結んで法定相続人となるという方法と、生前贈与を活用するという方法が挙げられます。
生前贈与とは文字通り、生前のうちに交際相手へ財産を贈与することを指します。生前贈与を実行することで、遺産となる範囲を減らし、その結果として、子どもの法定相続分、遺留分の総額を減らし、交際相手に財産をより多く残すことができるようになります。
また実際、死後に残された人たちの間で煩わしくなるのが、遺産に預金、不動産、株式等が含まれている場合です。預金の場合は金融機関、不動産の場合は法務局、株式等の場合は証券会社など、遺産の名義変更等を行う場合にはこうした第三者への手続きが必要になりますが、故人の名義変更の場合に、こうした各機関から戸籍の提出と同時に、法定相続人全員が署名捺印した遺産分割協議書等の提出を求められます。
離婚した前の配偶者との間に子どもがいる場合、その子どもは法定相続人となります。たとえば、交際相手と共同で購入した居住用不動産を死後に交際相手が転居するために売却しようと思っても、法務局は交際相手と子どもの双方が売却の移転登記を行う旨の遺産分割協議書を提出しなければ登記を行ってくれません。
つまり、死後に交際相手が単独では売却できず、その子どもとの間で遺産分割協議書を作成する必要が出てきてしまうのです。その子どもが相続放棄してくれれば良いのですが、権利主張された場合には、いくらか代償金を支払って子どもの相続権を買い取るといった交渉をする必要が生じます。残された交際相手の負担を減らすためにも、生前贈与を活用するのが有効といえるでしょう。
2-2. 法律上は生前贈与についての制限はなし
当然のことながら、自分の財産をどのように処分するかというのは、その人の自由です。交際相手への贈与という方法で財産を処分することも当然認められており、法律上は何らの制限もありません。ただし、贈与はあくまで契約の一種ですので、「贈与を受ける」という交際相手の受贈の意思(承諾)が必要です。
2-3. 贈与税を意識して生前贈与を実行しよう
贈与について、法律上は制限がありませんが、金額によっては課税される可能性があります。現行の税制上は、年間110万円までの贈与が非課税とされています。
年間110万円~310万円までの贈与が10%、310万円~410万円が15%と、贈与の額が上がるにつれ、税率も上がります。生前贈与を実行する場合には、贈与税を意識して、できれば年間110万円以下の非課税の枠内、あるいは、税率の低い範囲で少しずつ行うようにしたほうが良いでしょう。
2-4. 財産の種類によっては贈与の手続きが必要
贈与するかを決めることについて、法律上の制限はありませんが、実際に贈与するものによっては手続きが必要になるものがあります。たとえば、不動産であれば所有権移転登記手続きを行っておく必要があります。
登記しないと贈与が無効というわけではありませんが、第三者に対抗できないことになってしまいます。また、株式・社債等の有価証券の贈与も手続きが必要です。株式はその種類によって必要な手続きが異なります。
上場株式の場合には、証券会社の所定の手続きをとる必要があります。上場はされていないけれども、譲渡するためには会社の承諾を得なければならない株式もあり、その場合には、会社に対して、交際相手への株式譲渡を承認するように要求する手続きをとる必要があります。
2-5. 贈与は撤回できない
生前贈与は、交際相手にできる限り多くの財産を残す、相続開始後の交際相手の負担を減らすなどのメリットがありますが、デメリットもあります。それは、贈与は実行してしまうと取り消したり解除したりすることができないという点です(民法550条)。
交際相手との関係が悪化し、別れることになったとしても、贈与の有効性が否定されるわけではありませんので、贈与した分を交際相手から取り返すのは困難です。生前贈与を行う場合には、この点も意識しておきましょう。
3. 遺言を作成しよう
3-1. 遺言がなければ法定相続分に基づいて相続する
婚姻、生前贈与のほかにも遺言書を作成するという方法があります。先に指摘したように、婚姻していない場合には交際相手には法律上は相続する権利がありません。
婚姻していたとしても、離婚した配偶者との間に子どもがいる場合の法定相続分は2分の1(50%)です。これに対して、遺言書であれば遺産をすべて(100%)、交際相手に相続させるという、包括遺贈の旨の遺言をすることができます。
3-2. 遺言は法定相続人の遺留分に配慮を
交際相手にすべての財産を相続させるという遺言を残したとしても、子どもには遺留分という権利があります。実際に遺留分の権利行使をするかどうかは子どもの意思次第ですが、交際相手を不要なトラブルに巻き込まないためにも、子どもの遺留分にも配慮したうえで遺言書を作成するようにしましょう。
3-3. 遺言書に持戻し免除の意思も盛り込む
交際相手への生前贈与を行っている場合には、遺言書の内容に持ち戻し免除の意思表示を入れるようにしましょう。持ち戻しとは、故人(被相続人)の相続人への生前贈与等を相続財産(遺産)の範囲に含めて遺産分割を行うようにする制度(民法903条1項)ですが、民法では、故人が持ち戻しを拒否する意思を示した場合には、その意思を尊重する旨が定められています(同条3項)。
この持ち戻しを拒否する意思のことを、「持ち戻し免除の意思表示」といいます。たとえば、故人が生前に交際相手と婚姻し、10年の間に年100万円ずつ、合計1000万円を贈与していたとし、死亡時の遺産が600万円だったとします。
この場合、故人による持ち戻し免除の意思表示がなければ、生前贈与の1000万円を加えた1600万円が相続財産(遺産)とみなされ、交際相手は既に法定相続分800万円(50%)を超える生前贈与を受けていることになります。そのため、遺産の600万円を相続する権利はなく、遺産の600万円はすべて子どもが相続することになります。
しかし、この場合に持ち戻し免除の意思表示をしておけば、生前贈与の1,000万円は相続財産に含まれず、遺産600万円に対して、交際相手にも法定相続分が認められることになります。
ただし、この持ち戻し免除は、遺留分には適用されません。上記の例で、たとえば遺言書で遺産をすべて交際相手に相続させるという遺言と持ち戻し免除の意思表示があったとしても、遺留分の計算では、生前贈与の1000万円と遺産600万円の合計1600万円をもとに行います。子どもには遺留分割合(4分の1)による遺留分が認められ、子どもは交際相手に対して、遺留分として400万円を請求できます。
4. 相続対策については専門家に相談を!
4-1. 遺産の対象・法定相続分・遺留分に明確なアドバイス
弁護士等の専門家に相談すれば、なにが遺産となるのか、その遺産に対する法定相続人は誰で、どれだけの法定相続分があるのか、また、各法定相続人の遺留分はどれくらいあるのかを正確に算定してもらえます。
4-2. 活用法、実行方法にアドバイス
専門家であれば、上記の遺産の対象・法定相続分・遺留分をもとに、現状行うべき対策として、生前贈与を実行すべきかどうか、実行するとしてどのように行えば良いのか等について適切に助言してくれます。
4-3. 遺留分に配慮した遺言書もアドバイス
遺言書を作成するに際して、子ども等の法定相続人の遺留分に配慮してどのような遺言書を作成すべきかについても、適切にアドバイスしてくれます。交際相手にできるだけ財産を残してあげたい、死後に子どもと交際相手の間でもめ事になるようなことは避けたいといった場合には弁護士等、相続の専門家にご相談ください。
(記事は2022年1月1日時点の情報に基づいています)
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