目次

  1. 1. 事例:再婚したい父の相続対策
  2. 2. 親が再婚すると相続はどうなるか
    1. 2-1. 法定相続
    2. 2-2. 遺言による相続
  3. 3. 親が再婚した場合の相続トラブル
    1. 3-1. 遺産相続そのもののトラブル
    2. 3-2. 再婚相手の子どもとのトラブル
    3. 3-3. 再婚相手による財産隠匿などのトラブル
  4. 4. 争族回避に生前贈与で対策
    1. 4-1. 生前贈与をする人は少ないもののメリットも多い
    2. 4-2. 生前贈与のメリット
    3. 4-3. 生前贈与による対処法の注意点
  5. 5. まとめ

高齢化社会の進展に伴い、元気な高齢者が増えています。高齢の親が再婚をするということは誰しも起こりうることです。まずは、モデルケースを見て、この問題について考察していきましょう。

<モデルケース>
依頼人Aさんの相談内容は以下の通りです。
「賃貸マンションオーナーである父が、80歳を超えて再婚を考えているようです。父の死後、2分の1の財産がよく知らない人に渡ることは避けたいものの、高齢である父の『再婚したい』という願いも叶えてあげたいと思っています。何かいい策はないでしょうか?」

父親の気持ちを考えると再婚を応援したいところですが、父親が亡くなってから見ず知らずの再婚相手との相続トラブルに巻き込まれるのは避けたいところ。このようなケースの場合、穏便かつ問題にさせないためには何をしておけばよいのでしょう。

まずは、「親が再婚した後に亡くなると、相続はどうなるか」といった点から解説していきましょう。亡くなった親が遺言を残しているか、そうでないかによって結論が異なります。

親が遺言を残さずに亡くなった場合には、民法で定められたルールにしたがって遺産相続するのが原則です。このような相続を「法定相続」と呼びます。

上のモデルケースで相続人が子ども1人と再婚相手1人であれば、法定相続による相続の割合は以下のとおりです。

  • 再婚相手 2分の1
  • 子ども  2分の1

これに対し、亡くなった親が遺言を残していた場合には、遺言が優先となります。ただし、遺言は相続人の「遺留分」を侵害できない点に注意が必要です。

遺留分とは、遺言等の内容に関わらず相続人(被相続人の兄弟姉妹をのぞく)に最低限保障される遺産をいいます。遺留分の割合は民法で定められています。

上のモデルケースで相続人が子ども1人と再婚相手1人である場合、それぞれの遺留分は以下のとおりです。

  • 再婚相手 4分の1
  • 子ども  4分の1

仮に父親が「再婚相手に全財産を相続する」との遺言を残していた場合でも、子どもは遺産の4分の1に相当する金銭の支払いを再婚相手に請求することができます。したがって、親が再婚したとしても再婚相手に全財産を取得されるわけではありません。

もっとも、これとは反対に「再婚相手から遺留分を請求されること」も考慮しておく必要があります。

たとえば、相続トラブルを避けるために「子どもに全財産を相続する」という遺言を父親に残してもらったとしても、それだけでは再婚相手から4分の1の遺留分を請求される可能性があります。

上記のような遺言によって相続の対策をするのであれば、父親が再婚してから亡くなるまでの間に、再婚相手に遺留分の放棄をしてもらわなければなりません。遺留分の放棄は、家庭裁判所に申立てをする必要があります。

なお、法定相続と遺言相続のいずれであっても、相続人全員が同意すれば遺産分割協議により民法や遺言と異なる内容の遺産分割をすることができます。

親が再婚した場合に考えられる相続トラブルは以下のとおりです。

モデルケースのように親が再婚すると、親の財産の一部が再婚相手に渡る可能性があります。

遺産が先祖代々の不動産や事業用の財産など、売却が難しいものの場合、再婚相手と子どもの共有のままになってしまうこともあります。しかし、遺産を共有した場合には、財産の管理や利用に支障が生じることもあるでしょう。

モデルケースで再婚相手に子どもがいた場合でも、その子どもには父親の遺産について相続権がないというのが原則です。

ただし、父親が再婚相手の子どもと養子縁組をすると、その子どもも相続権を持つことになります。そうなると、相続人の範囲が想定以上に広がり、相続トラブルが発生する確率も高くなると考えられるでしょう。

父親の再婚相手が財産を管理していた場合には、再婚相手が父親の財産を費消した、隠匿するといった最悪の事態も起こりえます。

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親の再婚相手との相続トラブルを回避する方法としては、上で説明した遺言による対策以外に生前贈与による対策があります。

再婚相手との相続トラブルを回避するため生前贈与という選択はあるものの、実際に実行する人はあまり多くないようです。

生前贈与をすると税金が高いというイメージを持つ方が多いという点が、生前贈与する人が少ない理由のひとつといえるでしょう。しかし、次に説明するようなメリットもあります。

上のモデルケースで生前贈与を活用する対策を講じる場合、賃貸マンションのようなかたちで、子どもが父親の資産の贈与を受けることになります。

生前贈与を受ければ相続分にかかわりなく、父の財産のすべてを引き継ぐことができます。ただし、生前贈与によって父の財産を確実に受け継ぐためには以下の点に注意が必要です。

生前に父親の財産の贈与を受けると、相続の際に「特別受益(一部の相続人だけが受けた生前贈与などのこと)」として持戻しされる可能性があります。ごく簡単にいうと、生前贈与を受けた人が相続で受け取る財産を減らされるということです。これでは、生前贈与をしてもらってもあまり意味がありません。

そこで、生前贈与による対策を講ずる場合には、必ず贈与者である親から「持戻し免除(生前贈与したものは、相続の対象としない)」の意思表示を受けておくことが必要です。持戻し免除の意思表示の方法は法定されていませんが、証拠を残しておくために、遺言書など書面の形式で行うとよいでしょう。

また、相続人に対する生前贈与を婚姻や養子縁組、生計の資本として行った場合、相続開始(父親の死亡)前10年間分が遺留分侵害額請求の対象となります。このため、できるだけ早めに生前贈与を受けることも大切です。

さらに、「当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知りながら行った贈与」は10年より前でも遺留分算定の基礎に含まれます。

このため、再婚相手に遺留分を請求されないようにしたければ、最低限、親が再婚する前に生前贈与を受けたほうがよいでしょう。なお、生前贈与の金額によっては贈与税が発生するため、事前に税理士にも相談しておくと安心です。

父親の再婚相手との相続トラブルは、再婚相手に連れ子がいたり、父親の財産が複数あったりと複雑な事例であることが大半です。生前に相続について対策をしたいという場合には、相続に詳しい弁護士や税理士などの専門家に相談することをおすすめします。

生前に対策を行わず親が亡くなった後に相続トラブルが発生すると、解決までに数年を要するなど非常に大きな負担となることもあります。できるだけ親が元気なうちにトラブルの芽を摘みとっておきましょう。

(記事は2022年1月1日時点の情報に基づいています)