目次

  1. 1. 相続した美術品の評価方法はパターン別
    1. 1-1. 目的によって扱いが異なる
    2. 1-2. 自宅用でも美術品の価格によって評価の出し方が分かれる
  2. 2. 納税猶予することも
    1. 2-1. 特定の美術品に係る相続税の納税猶予とは
    2. 2-2. 納税猶予の計算方法
    3. 2-3. 納税猶予の納付
    4. 2-4. 納税猶予の免除
  3. 3. 相続した美術品の注意点
    1. 3-1. 鑑定料は惜しまずに
    2. 3-2. 特定美術品の納税猶予は手続きが大変
  4. 4. まとめ|高価な美術品の相続は税理士に相談を

亡くなった人(以下「被相続人」という)の相続税を計算するとき、現預金や不動産、株式などの財産の他に被相続人が絵画や骨とう品などの美術品を所有していれば、相続財産に含めて相続税を計算します。相続人が美術品の鑑定を取った結果、高額な美術品と判明し、相続税の納税額に大きく影響を与えてしまうケースはよくあります。

美術品の評価方法は大きく2つに大別されます。

1.美術品の販売業者が所有している美術品

美術品の販売業者が所有している美術品はたな卸資産として評価します。たな卸資産の評価方法は美術品の内容によっていくつかに区分されますが、確定申告で計上している帳簿価額を評価額とすることもできます。

2.自宅に飾っている美術品
自宅に飾っている美術品は売買実例価格や精通者意見価格などを参考にして評価します。

売買実例価格とは、インターネットなどの情報や市場での実例を用いて買い取ってもらったときに換金してもらえる価格のことをいいます。例として以下のような方法で評価します。

  • 同様の物が売られていればその販売価額
  • 買い取りを行った会社などの査定価格
  • 購入価格が判明していればその価格(購入時から年数が経過しているものを除く)

精通者意見価格とは、その分野の専門家による鑑定結果によって得られた価格のことをいいます。

先述のとおり、自宅に飾っている美術品の評価は売買実例価格や精通者意見価格などを参考に評価しますが、一般的に比較的安価なものは売買実例価格で評価します。美術品の専門家により鑑定をしてもらったほうがより正確な評価額が出ますが、かえって評価額よりも鑑定料のほうが高かったりします。また、1点あたりの評価額が5万円以下であれば、書画・骨とうとして評価するのではなく、家庭用財産に含めて計上することができます。

高価な美術品ほど市場や実例が存在しなく、1点物の美術品になるとインターネットなどで適切な評価を導き出すことは困難です。そのため、数百万円になるような美術品は専門家にきちんと鑑定をしてもらった精通者意見価格にしましょう。

平成30年度の税制改正において「特定の美術品に係る相続税の納税猶予」という制度が創設されました。この制度は、一定の条件を満たした美術館などに特定美術品(重要文化財の美術工芸品及び登録有形文化財[建造物を除く]のうち一定の美術工芸品)の寄託契約を締結し、保存活用計画の認定を受け、その美術館に寄託していた被相続人に相続が発生した場合において、その特定美術品を相続した相続人(以下「寄託相続人」という)が寄託を継続したときの制度です。そして、その制度の要件を満たした場合、その寄託相続人が納付すべき相続税額のうちその特定美術品に係る課税価格の80%に対応する相続税の納税を猶予することができます。

納税猶予を適用した寄託相続人の相続税は以下のように計算します。

  1. 納税猶予制度を適用しないで通常どおり相続税を計算
  2. 寄託相続人以外の課税価格はそのままとしたうえで、寄託相続人は特定美術品のみを相続したものとして寄託相続人の相続税を計算
  3. 寄託相続人以外の課税価格はそのままとしたうえで、寄託相続人は20%の評価額で特定美術品のみを相続したものとして寄託相続人の相続税を計算
  4. 納税猶予される金額は上記2と上記3の差額になります。そして、上記1で計算した相続税から納税猶予された金額を控除した金額が寄託相続人の納付すべき相続税になります

納税猶予の制度はあくまでも相続税が猶予されているのであり、下記のような要件に該当すると納税猶予が終了してしまいます。そして、さかのぼって猶予された相続税と利子税を納めなければなりません。

  • 特定美術品を譲渡した場合
  • 特定美術品が滅失、紛失等をした場合
  • 寄託契約が終了、保存活用計画の期間が満了したのち新たな認定を受けなかった場合
  • 重要文化財の指定解除、登録有形文化財の登録抹消、保存活用計画の認定取消しの場合
  • 寄託先の美術館が廃止された場合(別の美術館に寄託した場合を除く)

一方で下記に該当した場合は、猶予されていた相続税は免除されます。

  • 寄託相続人が死亡した場合
  • 寄託している美術館に特定美術品を寄贈した場合
  • 特定美術品が災害により滅失した場合

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1点数百万円の美術品は税務調査の標的になりやすく、評価額の妥当性について問題になるケースがよくあります。そのため、数百万円以上の美術品は安易に売買実例価格で評価するのではなく、鑑定料を惜しまずにきちんと専門業者に評価してもらうほうが得策です。

特定美術品の納税猶予を適用する場合、被相続人が生前に美術館や文化庁に手続きを行うことから始まり、相続が発生した場合は特定美術品の寄託を維持しつつ、納税猶予の要件を満たしているかを確認するために届出書の提出が定期的に発生しますので、手続きが大変になります。

しかし、特定美術品を所有している人は納税猶予を適用するか否かで相続税が大きく変わってきます。そのため、特定美術品を所有している人は早めに相続に詳しい税理士に相談して対策をすると良いでしょう。

美術品は購入することで資産隠しができるため、相続対策として高価な美術品の購入を促す一部の業者がいます。ただし、税務調査では美術品の無申告はほぼ指摘されます。税務署にとって、預金の動き、被相続人の趣味や税務調査時の家庭の状況、その他のヒアリングなどから美術品の有無を把握することは難しいことではありません。もし税務調査時に美術品の無申告が判明した場合、多額の罰金を支払う可能性があります。そのためにも美術品はきちんと申告することをお勧めします。

美術品を相続する場合、相続税の申告期限までに国や地方公共団体へ美術品を寄贈することで美術品の非課税や、納税資金として美術品を物納することもできます。いずれにしても美術品を相続する場合はさまざまな方法があり、どの方法を選択するかにより大きく納税額が変わってきます。高価な美術品を所有している場合は相続に詳しい税理士に早めに相談しましょう。

(記事は2022年1月1日時点の情報に基づいています)