目次

  1. 1. 農地の納税猶予とは
  2. 2. 相続税の納税猶予の対象となる農地とは
    1. 2-1. 被相続人が農業の用に供していた農地等
    2. 2-2. 被相続人が特定貸付けを行っていた農地等(平成21年度税制改正)
    3. 2-3. 被相続人が認定都市農地貸付け又は農園用地貸付けを行っていた農地等(平成30年度税制改正)
  3. 3. 相続税の納税猶予の適用要件
    1. 3-1. 被相続人の要件
    2. 3-2. 相続人の要件
  4. 4. 相続税の納税猶予の手続き要件
    1. 4-1. 相続税の申告手続
    2. 4-2. 納税猶予期間中の継続届出
  5. 5. 相続税の納税猶予の打ち切り事由
    1. 5-1. 全額打ち切りの事由
    2. 5-2. 一部打ち切りの事由
  6. 6. 納税猶予税額の免除要件
  7. 7. まとめ

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農地の納税猶予は、①農地を生前に一括贈与した場合の贈与税の納税猶予と②農地を相続した場合の相続税の納税猶予の2つの特例に大きく分けられます。

このうち相続税の納税猶予は、農地の細分化防止、農業後継者による農業継続の税制面からの支援等を背景に、1975年(昭和50年)の税制改正で創設され、その後数度の税制改正を経て現行の制度になっています。

農業を営んでいた被相続人から相続又は遺贈(遺言による財産の譲受け)により農地等(農地、牧草放牧地及び準農地※1)を取得した相続人が、その農地等で農業を継続する場合には、本来の相続税額のうち農業投資価格※2を超える部分に対応する相続税が、一定の要件のもとに納税が猶予されることになります。

図の出典:農林水産省HP:「相続税の納税猶予制度の概要」(https://www.maff.go.jp/j/keiei/koukai/nouchi_seido/zeisei.html)

※1準農地とは、10年以内に農地又は牧草放牧地として農業に供することが適当と市町村長が証明したものです。
※2農業投資価格とは、相続税の納税猶予の適用を受ける農地等の評価額として用いる価格であり、国税庁HP路線図 で都道府県ごとに公表されています(20万円~90万円程度/10アール)。農業継続を前提とした価格ですので、本来宅地比準で評価される農地の評価額よりも低くなっています。参考までに令和2年度の埼玉県の農業投資価格は以下の通りです。

出典:国税庁HP路線価図(https://www.rosenka.nta.go.jp/) 埼玉県の農業投資価格の金額表より抜粋

相続税の納税猶予の対象となる農地は、以下大きく3グループに分けられます。被相続人が農業の用に供していた農地等が原則ですが、一定要件を満たして貸付けられている農地等も対象になります。

被相続人が農業の用に供していた農地等で、次のいずれかに該当するもの。
① 被相続人から相続により取得した農地等で遺産分割がされているもの
② 贈与税納税猶予の対象となっていたもの
③ 相続の年に被相続人から生前一括贈与を受けたもの

被相続人が特定貸付けを行っていた農地等で、2-1. ①②③のいずれかに該当するもの。
特定貸付けとは、市街化区域外の農地(牧草放牧地含む。)を対象とした、農業経営基盤強化促進法等に基づく以下の事業による貸付けをいいます。
① 農地中間管理事業(農地法第3条許可による貸付も含まれる。)
② 利用権設定等促進事業(農用地利用集積計画)

被相続人が認定都市農地貸付け又は農園用地貸付けを行っていた農地等で、2-1. ①②③のいずれかに該当するもの。

認定都市農地貸付け又は農園用地貸付けのどちらも生産緑地地区内の農地が対象です。
認定都市農地貸付け又は農園用地貸付けについて詳細は、以下国税庁HPのパンフレットがわかりやすいのでご確認ください。

国税庁HP「平成 30 年度税制改正により農地等の納税猶予制度が変わりました!!」

相続税の納税猶予の適用を受けるために、(1)被相続人及び(2)相続人が満たさなければならない要件の概要はそれぞれ以下の通りです。

次のいずれかに該当する人であること。
① 死亡の日まで農業を営んでいた人
② 生前一括贈与(贈与税の納税猶予)をした人
③ 死亡の日まで特定貸付け、認定都市農地貸付け又は農園用地貸付けを行っていた人

被相続人の相続人で、次のいずれかに該当する該当する人であること。
① 相続税の申告期限までに農業経営を開始し、その後、引き続き農業経営を行う人
② 生前一括贈与を受けた受贈者
③ 相続税の申告期限までに特定貸付け又は認定都市農地貸付け等を行った人

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相続税の納税猶予の適用を受けるためには、適用要件を満たすだけでなく、以下のような手続き要件も満たす必要があります。

① 相続税の申告書に所定の事項を記載し期限内に提出すること
② 農地等納税猶予税額及び利子税の額に見合う担保を提供すること
③ 相続税の申告書には相続税の納税猶予に関する適格者証明書や担保関係書類など一定の書類を添付すること。
相続税の納税猶予に関する適格者証明書は、農業委員会に申請して発行してもらう必要がありますが、発効までに日数がかかる場合があります。相続税の申告期限に間に合うように早めに申請しましょう。また、他の書類も相続税の申告期限に間に合うように早めに集めておきましょう。

納税猶予期間中は相続税の申告期限から3年目ごとに、引き続いてこの特例の適用を受ける旨及び特例農地等に係る農業経営に関する事項等を記載した届出書(継続届出書)を提出する必要があります。

例えば、以下のような事由に該当した場合には、その農地等の納税猶予税額の全部又は一部に加えて利子税も納付しなければならないので注意が必要です。

① 特例の適用を受けた農地等の面積の20%超を譲渡、贈与、転用、耕作放棄等した場合
② 相続人が農業経営をやめた場合
③ 担保価値が減少したことなどにより、増担保又は担保の変更を求められた場合で、その求めに応じなかったとき
④ 継続届出書を提出しなかった場合 等

① 特例の適用を受けた農地等の面積の20%以下を譲渡、贈与、転用、耕作放棄等した場合
② 特例の適用を受けた準農地について、相続税の申告期限後10年以内に農業の用に供していない場合 等

相続税の納税猶予税額が免除となる要件については、農地等の都市計画区分及び地理的区分によって異なるので注意が必要です(下表参照)。基本的には、農業経営する相続人の死亡をもって免除となるので、終身営農が要件ですが、一部営農期間20年で免除となる農地等もあります。

図の出典:財務省HP「平成30年度税制改正の解説」より抜粋

なお、農業経営を行う相続人が後継者に生前一括贈与した場合も相続税の納税猶予税額が免除となりますが、今度は贈与税の納税猶予を検討することになります。

農地の相続税の納税猶予の適用にあたっては、細かい適用要件の確認とともに手続き要件もあります。相続人自身ですべてやろうとした場合、非常に手間がかかることが考えられます。適用要件の判定を誤る可能性や手続き要件の書類準備不足や漏れ等のリスク、3年ごとの継続届出書の失念リスクも高いので、早めに税理士に依頼・相談した方がよいでしょう。

(記事は2021年5月1日現在の情報に基づいています)

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