空き家の実家を相続 4つの分割法のメリットとデメリットを相談事例を交え解説
両親が亡くなり、実家が空き家になってしまったものの、思い出の詰まっているので売却するのも忍びなく、処分に頭を悩ませる方もいるでしょう。この記事では、相続した不動産の遺産分割の方法と、それぞれのメリット・デメリットを弁護士が解説します。
両親が亡くなり、実家が空き家になってしまったものの、思い出の詰まっているので売却するのも忍びなく、処分に頭を悩ませる方もいるでしょう。この記事では、相続した不動産の遺産分割の方法と、それぞれのメリット・デメリットを弁護士が解説します。
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過去に携わった案件で、大阪の実家にひとりで住む女性が亡くなり、その子ども3人で実家を相続する事例がありました。相談にいらしたのは、長男であるAさんです。
聞くところによると、相続人は長女Bと次男Cを含めた計3人。Aさんは、思い出のある場所なので、できれば3人のうち、誰かが引き継いで実家を残したいと思い、2人に相談しました。
遺産は、この実家と銀行預金2000万円です。2人は、「子どものいるAさんが相続するのがいいのではないか」と言っていました。実家の固定資産税納税通知書を見る、と固定資産税評価額は3000万円です。
しかし、Aさんが実家を相続すると、遺産の半分以上をAさんがもらうことになり、Aさんは「後から不公平だったと兄妹から不満が出ても困る」と感じ、相談にいらしたのでした。こういった場合、どのように遺産分割すればいいのでしょう?
遺産分割とは、相続人が複数いる場合に、どの相続人がどの財産を引き継ぐかを決めることをいい、現物分割・代償分割・換価分割・共有分割の4種類があります。それぞれ、どのような特徴があるのかを解説していきます。
現物分割とは、遺産をそのままの形で分けることを言います。たとえば、実家の土地建物をAさんが引き継ぎ、BさんとCさんは、それぞれ銀行預金1000万円をもらうというような場合です。
現物分割では、相続財産を売却するなどの手間がかからない点がメリットです。また、相続人が代償金などの負担を負うこともありません。
現物分割では、分配する財産の価値が同じではないため、相続人間に不公平が生じ、トラブルになる場合があります。
代償分割とは、相続人間に不公平が生じ協議がまとまらない場合に、現物を取得した人が、他の相続人に対して、代償金を支払う方法です。代償金の支払いにより、相続人への配分額が同等になり、公平を図ることができます。
支払う代償金を明確にするのにあたり、必要なのが不動産の評価です。評価方法には、公示価格を基にする方法、相続税や固定資産税の評価額を使う方法、鑑定などの方法があり、それぞれの評価額は多くの場合一致しません。
というのも、相続税評価額や固定資産税評価額は、それぞれ相続税または固定資産税の額を算定するために、国税庁が設定する価格ですが、相続税評価額は公示価格の8割程度、固定資産税評価額は公示価格の7割程度に設定されています。
また、不動産業者の簡易鑑定や不動産鑑定では、公示価格や周辺の土地の売買事例(時価)などを参考にして、評価額が算出されます。一般的にある程度幅を持たせた数字で出され、市街地では公示価格よりも高額になり、人気のあるエリアの場合は公示価格との開きが大きくなる傾向があります。
代償分割をするには、上記のいずれかの方法により算定した評価額を基準に、代償金の額を算出します。当事者が納得すれば、どの評価方法を使っても構いません。不動産鑑定には数十万円の鑑定費用がかかります。そこでまず公示価格や不動産業者の簡易鑑定で評価額を出し、それでは納得が得られない場合に、不動産鑑定をするということでもよいと思います。
代償分割をする場合、現物を引き継ぐ相続人に支払い能力がなければなりません。また、不動産の評価方法によって、代償金の額に大きな開きが出る場合、評価方法を巡って争いになることがあります。
Aさんは、実家の固定資産税評価額が3000万円なので、BさんとCさんに2000万円ずつ合計4000万円の代償金を支払うことを提案しました。しかし、Bさんから、不動産業者の簡易鑑定によると評価額が5000万円なので、ひとり当たり4000万円の代償金の支払いを求められてしまいました。とてもAさんが負担できる金額ではありません。
困ったAさんが弁護士に相談したところ、弁護士から、調停や審判をして評価方法を決めることもできることについて説明を受けました。しかし、代理人を立てたとしても負担がかかること、兄弟との関係が悪化し修復不能となる可能性もあると忠告されました。
また、空き家は、人が住まずに放っておくと急速に老朽化し、修繕費がかさんだり、崩壊して近隣に迷惑を掛かけたり、社会問題になっているとも聞きます。弁護士からは、これらの問題を考えると、実家を残すことにこだわらず、思い切って換価分割をすることも一案であるとのアドバイスを受けました。
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相続の相談が出来る弁護士を探す換価分割とは、不動産などの現物の遺産を売却して、その売却金を相続人の間で分配する方法です。財産を現金化して分配できるので、代償分割のように相続人が債務を負担することなく、公平に分配することができます。
換価分割では、思い出のある実家を残したいと思っているAさんの希望はかなえられないことになりました。しかし、結局Aさんたちは実家を売却し、銀行預金と合わせて公平に分割することで合意しました。
通常、不動産の売却益(譲渡所得)には税金がかかります。しかし、被相続人がひとりで住んでいた住居(空き家)を相続し、3年以内かつ令和5年12月31日までに売却した場合、譲渡所得から3000万円を控除した額が課税価格となり、税金を安くできる特例があります。
この特例の適用を受けるには、空き家の築年数や売却金額などいくつかの要件を満たす必要があります。
また、この特例は、相続税の小規模宅地等の課税価格の特例と併用することができます。ただし、小規模宅地等の特例の適用を受けるには、その宅地等を相続税の申告期限(相続の10か月後)まで所有していなければならないので、譲渡のタイミングには注意が必要です。
共有分割とは、分割という名称がついていますが、遺産を分割せずに、相続人の共有のままにしておくという方法です。相続直後に、誰がどの財産を引き継ぐかを決められない場合、共有分割をしておき、将来、方向性が決まってから、財産の配分を決めることができます。
不動産を共有にしておくと、誰が管理するか、管理費用や固定資産税をどのように分担するかという問題が生じます。また、共有者が亡くなって二次・三次相続が発生し、その子や孫が共有者となると権利関係が複雑になっていきます。建物の取り壊しや売却など、共有者全員の同意なしに行えないことが、できなくなってしまう問題も生じます。
上記の通り、空き家にしておくと、老朽化による費用の増大や近隣への迷惑にもなりかねません。共有分割をした場合でも、なるべく早く、財産の配分を決めて分割すべきです。
Aさんたちは、まず実家を共有分割にして相続税申告期限まで保有し、小規模宅地等の課税価格の特例を利用。相続税を節税した後、すぐに実家を売却して換価分割したので、空き家の特別控除の特例により所得税も節税できました。
実家を相続し、すぐに利用する予定がなくても、近い将来に利用者がいるのであれば、現物分割や代償分割という方法で実家を残すことを検討しましょう。いっぽうで利用する予定がないのであれば、空き家のまま放置した場合のリスクを考慮し、思い出にこだわらず売却に踏み切って換価分割することも一案です。問題を先送りし、とりあえず共有分割としておくということは、特別な理由がなければお勧めできません。
相続人間で遺産分割協議をしても、意見が対立し、話がまとまらない場合、弁護士に相談することをお勧めします。第三者である弁護士が入ることにより、交渉がスムーズに進む場合もあります。また、協議がまとまらず、調停や審判という手続きへ進む場合にも、弁護士に対応してもらう方が安心でしょう。
(この記事は2021年10月1日現在の情報に基づきます)