目次

  1. 1. 相続税の申告の税理士報酬の目安
  2. 2. 相続税の税理士報酬が加算される要因
    1. 2-1. 相続人の数が多い
    2. 2-2. 複雑な評価の必要な財産がある
    3. 2-3. 特例を適用する
    4. 2-4. 相続税の申告期限間際に依頼
  3. 3. 相続税の報酬をどうシミュレーションすべきか
    1. 3-1. 国税庁「相続税の要否判定検討表」を使う
    2. 3-2. 検索したサイトでシミュレーションする
    3. 3-3. 実際に相談に行って見積もってもらう
  4. 4. 相続税の報酬シミュレーションの注意点
    1. 4-1. 見積もりと実際のコストが変わることもある
    2. 4-2. 値段だけで決めない
  5. 5. 実際に税理士に会うのが最良

相続税の申告を税理士に依頼すると、報酬がかかります。この金額の目安で多いのが、「遺産総額×0.5%~1%」です。「相続税専門」「資産税専門」を掲げる税理士事務所のウェブサイトでもよく目にします。

ただ、実際にこの金額で収まるかというと、そうでもありません。プラスの報酬がかかるのが一般的です。なぜなら、相続税の業務は「申告だけ」ではないからです。

申告の前に、事前の確認や資料集めが必要です。計算にも時間がかかります。依頼主の相続の事情が複雑であればあるほど手間は増えます。きちんと見合った報酬額を計算しないと、税理士は赤字に陥ってしまうのです。

どのようなときに税理士報酬は高額になるのでしょうか。主に次のようなケースが挙げられます。

相続人の数が多いと、その分、作成する申告書の数が増えます。つまり、計算の手間もその分だけ増えるのです。

「相続税の計算の基礎になる課税価格(正味の遺産総額)は同じなんだから、大した違いはないでしょう?」と思うかもしれません。しかし相続人の事情は人それぞれです。特に次のような制度は、相続人の置かれた状況をていねいに確認しないといけません。

  • 債務控除
  • 葬式費用の控除
  • 贈与税額控除(暦年課税制度・相続時精算課税制度)
  • 配偶者の税額軽減
  • 未成年者控除
  • 障害者控除
  • 相次相続控除
  • 外国税額控除

この他、後述する「小規模宅地等の特例」でも相続人の状況確認が必要となります。相続人が多ければ多いほど、作業が増えるのです。

相続税の申告の過程では、「財産評価」という作業を行います。財産が現預金や上場株式だけといった評価のしやすいものだけならそれほど手間はかかりません。

しかし、遺産の中に評価しにくい財産が含まれていることがあります。特に次の2つは評価の難しい財産の代表格です。

1.非上場株式

上場株式も非上場株式も、それぞれ評価の仕方が決まっています。上場株式の評価方法はわりとシンプルです。
【参考】株式を相続する方法 評価額の算定で揉めないために

一方、非上場株式の評価の仕組みは上場株式よりも複雑です。相続した人の株主としての立ち位置や発行会社の規模により評価方法が細かく分かれます。

【参考】株式の相続税を評価する方法 種類によって計算は複雑

「確認をていねいに行わないと評価を間違えてしまう」というとても難しい財産です。

2.土地

土地は基本的に「路線価方式」「倍率方式」で評価します。どちらで評価するかは国税庁のウェブサイトにある「路線価図・評価倍率表」で確認してから判断します。

【引用元】令和3年分(最新)路線価図・評価倍率表(国税庁)
【引用元】令和3年分(最新)路線価図・評価倍率表(国税庁)

「たったこれだけ?」と思うかもしれませんが、実際はもっと複雑です。

評価計算は、地目や地形で異なります。例えば自宅やビルが建っている土地と農地とでは評価の仕方が異なります。また、地形がいびつな土地や災害が生じたエリアの土地だと、補正率を加味して評価しなくてはなりません。

つまり、細かく確認をしないと正しい評価ができないのです。

相続税法には納税額を抑えられる特例があります。その1つが「小規模宅地等の特例」です。
【参考】小規模宅地等の特例の計算の方法 評価額を8割下げる条件や注意点

相続税の軽減措置「小規模宅地等の特例」を受けるには 同居の有無などポイント紹介

「自宅なら80%も評価額を減らせる制度」として一般の方にも知られています。しかし、中には判断が難しいときがあります。

例えば次のようなケースです。

  • 自宅の持ち主が老人ホームに入居した後に死亡した
  • 自宅の持ち主夫婦とその子どもの一家が二世帯住宅で暮らしていた
  • 別居の親族が亡くなった人の自宅を相続した

小規模宅地等の特例の要件は非常に細かいため、専門的な知識や経験がないと判断を誤ります。間違えて適用すれば、追加の納税とペナルティがかかってしまいます。

相続税の申告期限は「相続の開始があったことを知った日の翌日から10カ月以内」と決まっています。たいていの方は、四十九日が終わって以降、税理士に申告を依頼します。しかし、中には申告期限近くになってから申告依頼をする人もいるのです。

期限間際の申告では、残り少ない日数で膨大な確認作業と申告を行わなくてはなりません。そのため、税理士は割り増し料金を請求せざるを得なくなるのです。

何となく目安がわかっても、やはりコストはある程度正確に見積もっておきたいものです。そこで、いくつか報酬をシミュレーションする方法をお伝えします。

国税庁は財産を相続した人向けに、相続税がかかるかどうかを判定できるシートを配布しています。

【引用元】相続税の申告要否検討表(平成27年分以降用)(https://www.nta.go.jp/about/organization/sapporo/topics/souzokuzei/pdf/003.pdf)
【引用元】相続税の申告要否検討表(平成27年分以降用)(https://www.nta.go.jp/about/organization/sapporo/topics/souzokuzei/pdf/003.pdf)

ここに相続財産を一通り書き込み、「遺産総額×0.5~1.0%」で計算すれば報酬の目安が見えてきます。

この他、このシートを使わずとも国税庁「申告要否判定コーナー」でも大まかなシミュレーションができます。

国税庁以外でも、相続税の報酬額をシミュレーションできるサイトがいくつかあります。「相続税 報酬 シミュレーション」で検索し、上位に表示されたいくつかのサイトで計算すると、おおよその金額が見えてくるかもしれません。

もっとも確実なのは、実際に税理士に相談に行き報酬額を見積もってもらう方法です。相続人の数や相続財産の内容から、より的確に計算してもらえます。

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相続税の申告報酬はシミュレーションできますが、次のような注意点もあります。

シミュレーションはシミュレーションに過ぎません。後から相続財産が見つかれば、修正申告で別途報酬がかかることがあります。また、報酬計算のシステムも事務所ごとに異なります。想定通りにならない可能性がある点は留意しておきましょう。

「遺産総額×0.5%~1%」だとしても、元々の遺産総額が大きいので、たいていの報酬はかなり多額になります。できれば安い方を選びたいのが人間ですが、値段だけで決めるのが正解だとは限りません。

見積もり時点では安くても、あとから「成功報酬」として追加で請求するところもあります。逆に報酬の高いところは、後から相続財産が見つかることを考慮し、修正申告となっても追加請求をしなかったりします。「安いのがベスト」とは言えないのです。

この他、「誠実に相続人と向き合ってくれるか」も重要なポイントです。値段以外の要素にも目を向け、気持ちよくお金を払って依頼できるかどうかを考えましょう。

今回、相続税の申告報酬のシミュレーションについてお伝えしました。いくつかシミュレーションの方法をご紹介しましたが、ベストなのは、何人かの税理士と対面して決めることです。

会って話をすれば、「納得のいく回答が得られるか」「相性が合うか」なども確認できます。面談をしていくうちに「この人にこそお願いしたい」という税理士に出会えるはずです。

10カ月という短い期間で決めるのは大変ですが、依頼する前に実際に税理士に会ってみることをお勧めします。

(記事は2021年12月1日時点の情報に基づいています)