相続した株式を譲渡したい 税金はどのくらい? 特例も解説
相続した株式を譲渡した場合、相続税とは別に譲渡所得に応じて住民税や所得税が課せられます。課税金額の計算方法や確定申告が必要なケース、知っておきたい特例について税理士が解説します。
相続した株式を譲渡した場合、相続税とは別に譲渡所得に応じて住民税や所得税が課せられます。課税金額の計算方法や確定申告が必要なケース、知っておきたい特例について税理士が解説します。
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相続した株式を譲渡すると、譲渡益(譲渡所得)に対して税金が生じます。この時の株式譲渡でもたらされた所得は単独で所得額を計算し、一律の税率を乗じて税額を算出します。これを「分離課税」といいます。
私たちが受け取る給料や事業収入、副業収入はすべてを合算して所得を計算し、総額に応じた税率を乗じます。こちらは「総合課税」といいます。株式の譲渡所得と税額は、こういった総合課税の所得とは完全に分けた上で計算しなくてはならないのです。
実際の計算では、株式を「上場株式」と「非上場株式」に分けた上で譲渡所得を計算します。そして、それぞれ「譲渡所得×税率」で税額を算出するのです。
株式の譲渡所得は次の式で計算します。
株式の売却金額(譲渡による収入)-(株式の取得費+株式譲渡にかかった費用)
取得費には、株式を購入時の金額(取得価額)のほか、購入時の手数料や消費税、名義書き換え料を含めます。株式譲渡にかかった費用には、譲渡時の手数料や消費税があります。税率は上場株式・非上場株式いずれも、一律20.315%(所得税・復興特別所得税15.315%、住民税5%)となっています。
株式を譲渡して損失が生じる場合は課税されません。申告の必要もありません。しかし後述するように、申告をした方がお得になるケースもあります。
株式の譲渡所得を計算する上で、一番難しいのが「取得費」です。特に家族から相続した株式だと、取得費が分からないことがあります。
売った株式が相続したものなら、取得費はどう考えれば良いでしょうか。この場合の取得費は、株式をもともと持っていた被相続人が買った時の取得価額になります。
「引き継ぐ時に一度評価しているんだから、相続した時の評価額でもいいのでは?」と思うかもしれません。この相続時の評価額は「相続税を計算するためのもの」です。相続税は資産としての価値に課税します。一方、所得税は「所得」、つまり「利益」に対して課税するのです。税金の種類が違うので、株式の金額に対する考え方も異なります。
取得費は株式の取得にあたって支払った1株あたりの金額に株数を乗じて計算します。計算式にすると次のようになります。
【基本的な取得費の計算式】
1.1株当たりの取得費を次の式で計算する
〔(取得単価×取得株式数)+購入時の手数料等+消費税〕÷株式数
2.譲渡する株式の取得費を次の式で計算する
1株当たりの取得費×譲渡する株式数
株式によっては2回以上に分けて購入していたケースもあるでしょう。このような場合は、1株当たりの取得費を「総平均法に準ずる方法」で計算します。計算式にすると、次のようになります。
【2回以上購入した時の取得費の計算式】
1.1株当たりの取得費を「(A+B)÷(C+D)」で計算する
A:最初に株式を購入した時の購入総額
B:2回目以降に株式を購入した時の購入総額
C:A(最初に購入)の株式総数
D:B(2回目以降に購入)の株式総数
2.今回譲渡する株式の取得費を「1株当たりの取得費×譲渡する株式数」で計算する
もし、過去に譲渡したことがあるのなら、Aはその譲渡の前の購入総額、Bはその譲渡の後の購入総額となります。この取得費の計算は、少し難しいです。
譲渡した株式の取得費が分からないと、譲渡所得は計算できません。このケースでの取得費は取得費は次の手順で探します。
1.株式購入時に証券会社から交付される「取引報告書」で確認する
2.株式の購入先である証券会社に「顧客勘定元帳」で取得費を調べてもらう
金融機関は、この元帳を10年間保存しなくてはならないとされています。そのため、10年以内に故人(被相続人)が取得したものなら、証券会社に問い合わせできるのです。
なお、証券会社によっては10年以上前の記録も保存していることがあります。大昔に買った株式でも聞いてみると良いかもしれません。
3.故人の日記や手帳、預金通帳から取得価額を探す
こういった記録で取得費が分からなくても、取得時期が分かれば大丈夫です。当時の相場からその株式の取得費を算定できます。
4.名義書き換え日を調べて取得時期を把握し、その時期の相場を基に取得費を算定する
株式の発行会社や名義書き換えの受託先である証券代行会社に、株式名簿や複本、株式異動証明書を確認してもらえば株式の取得時期(名義書き換え時期)が分かります。この時期の相場を基に取得費を算出するのです。また、株式電子化後に手元に残った株券の裏面で確認しても構いません。
以上の手順で調べても取得費が分からないことがあります。このようなときは「譲渡対価×5%」を取得費とします。これは、実際の取得費が分かっていて、なおかつその取得費が「譲渡対価×5%」を下回る時でも使えます。
例えば、1株当たり1万円の株式100株分の実際の取得費が2万円だとしましょう。「譲渡対価×5%」で計算すると5万円です。このような時はより譲渡所得を小さくできる5万円を取得費にできます。
ただし、5%で取得費を計算すると、通常、利益は多額になります。できることなら、正確な取得費を探した方がいいでしょう。
相続した株式が上場株式の場合、証券会社での取引口座の種類によって確定申告の要不要が変わります。一方、非上場株式はすべて確定申告が必要です。
上場株式は、「特定口座(源泉徴収あり)」「特定口座(源泉徴収なし)」「一般口座」のいずれかが取引口座です。「特定口座(源泉徴収なし)」「一般口座」は確定申告をする必要があります。
一方、取引口座が「特定口座(源泉徴収あり)」なら確定申告は不要です。しかしそれでも、あえて申告した方が節税になることがあります。次のようなケースです。
上場株式の売却で損失が生じた場合は、分離課税で確定申告をすると節税できます。
例えば、A証券の特定口座で生じた譲渡損を、B証券の特定口座の配当益や譲渡益と共に申告すると、損失と利益を相殺して所得額を下げられます。それでも損失が残るなら、翌年以後、3年間は引き続き確定申告をすれば損失を繰り越せます。結果、繰り越した損失を将来の譲渡益や配当益と相殺できるのです。
相続した株式を譲渡するなら「取得費加算の特例」を使うとよいでしょう。これは、上場株式・非上場株式の両方で活用できます。「取得費加算の特例」とは、譲渡した株式に対応する相続税額を取得費に加算できるという制度です。取得費が増えれば譲渡所得が小さくなります。結果、課税額を抑えられるのです。
ただし、相続税の申告期限の翌日から3年以内に株式を譲渡しなくてはなりません。確定申告も必要です。
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相続の相談が出来る税理士を探す株式に関する税金のルールは複雑です。特に、故人が過去に株を売買していると、取得費の計算がややこしくなります。「計算や申告が難しい」と感じたら、早めに税理士に相談しましょう。この株式の譲渡は所得税の分野なので、相談先となる税理士は相続税よりも探しやすいはずです。
確定申告期限は原則、所得が発生した年の翌年3月15日までとなっています。相談するなら早めにしたほうがいいでしょう。
(記事は2021年2月1日時点の情報に基づいています)
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