目次

  1. 1. 相続税申告が不要になるケースとは
  2. 2. 相続税の計算方法
    1. 2-1. 相続人や受遺者それぞれの「正味の遺産額」を計算
    2. 2-2. 正味の遺産額を全員分足し合わせ「正味の遺産総額」を算出
    3. 2-3. 正味の遺産総額から基礎控除を差し引く
    4. 2-4. 仮の相続税額を計算
    5. 2-5. 相続人ごとの相続税額を算出
  3. 3. 相続税額0円でも相続税申告が必要なケース
  4. 4. 相続税申告が不要か確認するときの注意点
    1. 4-1. 「亡くなった人の財産だけ」で考えない
    2. 4-2. 判定を間違えるとペナルティがかかる
  5. 5. まとめ 正しく判定するなら税理士に相談を

遺産を相続したときに相続税申告が不要になのは、正味の遺産総額が基礎控除額未満の場合です。

相続税の基礎控除
相続税の基礎控除がわかる図版。基礎控除額のボーダーラインは「3000万円+(600万円×法定相続人の数)」で計算します

基礎控除額とは、「正味の遺産総額がここまでなら相続税はかからない」というボーダーラインです。「正味の遺産総額-基礎控除額」が0円以下ならば、相続人・受遺者全員、相続税の申告は不要です。

このケースにも当てはまらないのであれば、被相続人の死亡(相続開始)を知った日の翌日から10カ月以内に相続税の申告と納付を税務署に対して行わなくてはなりません。

相続税の計算方法を確認しましょう。相続税は「相続財産×相続税率」で算出するものではありません。少し複雑です。次のステップで計算していきます。

この正味の遺産額は、次の(1)→(2)の順に計算します。

(1) 相続や遺贈で取得した財産の時価+死亡保険金・死亡退職金などみなし相続財産の価額-墓地や仏壇など非課税財産の価額+相続時精算課税制度の対象となる生前贈与財産の価額-債務及び葬式費用の額(ここで赤字になったら「0円」とする)

(2) (1)+被相続人の死亡(相続開始)以前3年以内に生前贈与された財産の価額=正味の遺産額

なお、生前に贈与された財産は贈与時の時価で、それ以外の相続財産は相続開始時の時価で評価します。評価方法は、相続税法や財産評価基本通達に定められています。

2023年度の税制改正大綱では、生前贈与した額を相続財産に加える対象が死亡前3年から7年になるなど、相続に関連する課税ルールの見直しがありました。詳しくは以下の記事をご参照ください。
2023年度税制改正大綱を解説 相続時精算課税に年110万円の控除を新設 生前贈与の持ち戻し期間が7年に延長へ

ここで注意しておきたいのが死亡保険金と死亡退職金です。この2つにはそれぞれ「500万円×法定相続人の数」という非課税枠があります。正味の遺産総額の算出の際は、この非課税枠を差し引きます。

先ほどの「正味の遺産総額」から、基礎控除額を差し引きます。ここで0円以下となった場合は、相続税申告が不要となります。

基礎控除額は他の様々な控除や特例制度と異なり、すべての相続に適用されます。基礎控除額は次の計算式で算出します。

基礎控除額=3000万円+600万円×法定相続人の数

法定相続人とは、民法が定める相続人のことです。死亡・欠格・廃除で相続権を失った人は除きますが、相続放棄をした人は法定相続人の数に含めます。法定相続人については、「配偶者は常に法定相続人になるが、子や両親、兄弟姉妹といった被相続人の血族は、民法で誰が相続人になるかが決まっている」といったルールがあります。

【関連記事】法定相続人とは?範囲と相続順位、相続割合を詳しく解説

法定相続分は法定相続人と同様、民法で次のように定められています。

  • 配偶者と子が相続人の場合…配偶者1/2、子1/2
  • 配偶者と父母が相続人の場合…配偶者2/3、父母1/3
  • 配偶者と兄弟姉妹が相続人…配偶者3/4、兄弟姉妹¼

正味の遺産総額から基礎控除を差し引いた金額を法定相続分で按分し、仮の相続分を計算します。

さらに、仮の相続分に相続税率と控除額を当てはめ、仮の相続税額を計算します。相続税率と控除額は2015年1月1日から現在まで、次のようになっています(国税庁のサイトを参照)。

【引用元】相続税の税率(国税庁)

算出した仮の相続税額を、すべて合計します。その合計額を相続人・受遺者それぞれの相続分で按分します。計算式は以下になります。

仮の相続税の合計額×各相続人・受遺者の正味の遺産額÷正味の遺産総額

按分した金額に次の項目を加算・減算し、相続人・受遺者それぞれの事情に合わせた実際の納税額を算出します。

【加算】

  • 相続税額の2割加算

【減算】

  • 相続開始以前3年以内の生前贈与分の贈与税額控除
  • 配偶者の税額軽減
  • 未成年者控除
  • 障害者控除
  • 相次相続控除
  • 外国税額控除
  • 相続時精算課税制度による贈与分の贈与税額控除

国税庁のサイトでも、相続税申告が必要かどうかを判定するシート「相続税の申告要否検討表」を提供しているので、活用してみましょう。

【関連記事】【保存版】7ステップの相続税の計算式 税率は個人が相続した財産額で決まらない

「相続税が0円なら申告不要」と考えがちですが、そうではありません。次の2つの制度を適用した結果、納税額が0円になった場合は相続税の申告が必要です。

  • 小規模宅地等の特例
  • 配偶者の税額軽減

この2つは、いずれも相続税の申告をしないと使えません。また、遺産分割協議が完了していることも必要です。つまり、遺産分割協議を済ませて相続税の申告を行わないと納税額は0円になりません。

10か月以内に遺産分割協議がまとまらないのであれば、未分割のまま、いったん法定相続人が法定相続分で相続したと仮定して、相続税の申告と納税を行います。この時、相続税の申告書とともに「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出します。

この後、3年以内に遺産分割をまとめ、実際の相続分で申告をやり直せば、小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減の適用を受けることができます。納め過ぎた相続税があった場合は、還付されます。

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相続税の申告が必要かどうかを確認する時は、次の点に注意が必要です。

相続税の申告が不要かどうかを判定する際、つい「被相続人の保有していた財産」だけに意識が向きがちです。しかし、相続税の計算の流れで説明した通り、次のものも相続税の課税対象となります。

  1. 被相続人の死亡(相続開始)以前3年間に生前贈与された財産
  2. 相続時精算課税制度の対象となった生前贈与財産
  3. 死亡保険金・死亡退職金などみなし相続財産

1と2は、贈与税を納めていなくても相続財産に含めなくてはなりません。特に2は、かなり昔に贈与を受けたものだとうっかり見逃してしまいます。

現預金や不動産といったプラスの財産と借金や未払費用・税金といったマイナスの財産を確認するのは大事ですが、「被相続人の財産以外のもの」にも意識を向けるようにしましょう。

判定の結果、「相続税の申告が不要」となっても安心はできません。「実は申告が必要だった」と申告期限後に判明し、慌てて申告すると、無申告加算税や延滞税といったペナルティがかかります。

「正確に判定できれば問題はないのでは?」と思うかもしれません。しかし、現預金以外の財産の評価は難しいものです。特に土地は形状や地域で大きく評価額が変わります。また、評価の計算式も複雑です。余計な支出を防ぐために、何度も確認する必要があります。

「うちは財産がないから」という場合も、自宅という相続財産があります。都市圏であっても地方であっても、正確な評価はなかなか難しいものです。また、被相続人の死亡直後だと、忙しさや焦りで財産をうっかり見落とすかもしれません。正しく判定を行うなら、税理士に相談することをお勧めします。

(記事は2023年1月1日時点の情報に基づいています)