故人の生前にもらった特別受益

まず「特別受益」について説明します。簡単に言えば、生前に被相続人から相続人がもらったお金や物は「遺産の前渡しを受けたもの」と考えて、遺産に戻したうえで各相続人の具体的な相続分を決定しようとする制度です。

正確には、共同相続人の中に被相続人から遺贈または一定の目的での贈与を受けた者がいる場合に、公平の見地からこの贈与の価額を具体的相続分を算定する際に考慮するものです。

特別受益を加味した具体的な相続分の計算方法は次の通りです。

相続財産の価額に当該遺贈などの目的物の価額を加え、その合計額を相続財産とみなして(みなし相続財産)、これに法定相続分を乗じて各共同相続人の具体的相続分を算出します。その際、当該遺贈などを受けた相続人については、当該遺贈などの目的の価額を控除します。

では、特別受益の主張をされたらどうやって反論すれば良いのでしょうか。贈与があったとしても特別受益とならないケースもあります。また計算方法が難しいため、相手の計算が間違っている可能性もあります。

特別受益の主張に対する反論方法や、もめてしまったときの解決の流れ、有利に解決する方法を解説していきます。

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そもそも特別受益がない

特別受益だと主張されたものが、実は「そもそも特別受益に当たらない」というケースも多いのです。例を以下に紹介します。

特別受益になる基準とは

まず、特別受益の対象となるのは、民法上「遺贈、婚姻もしくは養子縁組のための贈与、生計の資本としての贈与」とされています。

生前贈与が特別受益になるかは、それが「相続財産の前渡しと評価できるか」により、贈与の額、その趣旨、時期などから総合的に判断されます。

では、具体的に特別受益に該当するか否かについて、ケース別で紹介していきます。

(1) 生命保険金請求権の取得

被相続人を保険契約者兼被保険者とする生命保険の受取人に指定され、被相続人の死亡により生命保険金請求権を取得することは、原則として特別受益には当たりません。生命保険金の受け取りは贈与や遺贈に当たらないからです。

しかし、例外的に、生命保険金の受け取りが、特別受益に準じて持ち戻しの対象となることがあります。

特別受益に準ずるか否かの判断については、保険金額、保険金額の遺産総額に対する比率を基本的な考慮事項とし、被相続人との同居の有無、被相続人との身分関係などの生活実態の諸事情を考慮する必要があります。

一律には言えませんが、裁判所判断の前例を参考にすると、保険金額が遺産総額の6割を超える場合には、特別受益に準ずると判断される可能性があります。

(2) 婚資など(挙式費用、持参金など)

持参金や支度金は「婚姻」のための「贈与」として特別受益となりますが、それほど高額なものでない場合には特別受益にはならないと考えられます。

結納金や挙式費用もまた特別に多額でなければ一般的には特別受益にはならないと考えられています。

また、相続人全員に同程度の贈与がある場合には、後に述べる「持ち戻し免除の意思表示」があったものと考えて持ち戻さなくてよいことになります。

(3) 高等教育のための学資など

従来は、原則として特別受益となると考えられていましたが、大学進学が一般化してきている状況から、親子である場合には教育費の総額にかなりの不均衡が生じている場合(私立の医学部など特別に多額のもの)などを除き、特別受益に当たらないと考えてよいでしょう。

(4) 死亡退職金、遺族給付

死亡退職金や、遺族給付金については、法令や就業規則などにより支給されるもので、被相続人の意思が入り込む余地がない場合、贈与とは同視できないことから、原則として特別受益には当たりません。

しかし、生命保険金請求権と同様に、相当に高額であるなどの場合には特別受益と判断される可能性があります。

これまで説明してきたように、特別受益に当たるかどうか判断する基準は贈与の金額や、趣旨、その時期などを踏まえる必要があり、専門的な判断が必要な場面だと考えられます。安易に決断をしないようにしましょう。

計算が間違っているケース

特別受益が主張された場合、計算が間違っている場合もあります。特に気を付けたいのが、贈与財産の評価基準時や評価方法です。

贈与財産の評価基準時について

贈与財産の価額について、遺贈の場合には、遺贈の効力が相続開始時に生じるため、遺贈された財産の価額は相続開始時の価額とすればよいです。

次に、生前贈与については、相続開始時から相当前にされた贈与であっても持ち戻しの対象に含まれるため、贈与時から相続開始時までの間の贈与財産の価額の変動などが問題となることがあります。

贈与財産の価額の算定時については、相続開始時を基準とする考え方が主流となっています。

金銭の場合には、昭和30年の100万円と現在の100万円では価値が異なるため、消費者物価指数を用いて現在の価値に換算します。金銭以外(不動産など)の場合には、相続開始時の評価額で評価することになります。

例えば、生前にある自宅(当時の価値は1000万円)の贈与を受けていた場合、被相続人の死亡時点には自宅の評価が500万円となっていた場合には、贈与を受けた時点の1000万円ではなく、相続開始時点である500万円が基準となります。

贈与財産の評価方法について

財産の評価方法については、実勢価格(市場価格)で評価します。不動産の場合には、固定資産税評価額、相続税評価額、公示価額などを参考に、相続人で実勢価格を計算することがあります。しかしこのような数字を見慣れていない方は、どのように計算をすればいいか分からず、計算を間違えてしまうこともあります。

相手方の主張する金額を鵜呑みにせず、専門家のアドバイスを聞くなど適正な評価がなされているかを注意する必要があるでしょう。

他の相続人にも特別受益がある場合

あなたの特別受益を主張している他の相続人にも生前の贈与がある場合もあります。そのような場合には、あなただけではなく他の相続人の特別受益を主張することで、みなし相続財産が増える結果、あなたの具体的な相続分も増えることがあります。

持ち戻し免除の意思表示が行われている

また、「持ち戻し免除」があれば、特別受益があっても持ち戻し計算がされない場合があります。

持ち戻し免除とは

「持ち戻し」とは、先に説明した「みなし相続財産」を算定するための計算上の扱いのことです。この持ち戻しに関して、民法は被相続人が、受贈者などに特別な利益を与える趣旨で贈与などをする場合に「持ち戻しを免除する」との意思表示をすることができると定めています。

この持ち戻しの免除とされた贈与については、具体的相続分を算定する際に考慮されなくなります。

したがって、特別受益の主張がなされた場合には、持ち戻しの免除の意思表示がなされたことを反論として主張することができます。

特別受益の「持ち戻し免除」とは? 効果・方法を改正相続法に沿って解説

意思表示の方法

持ち戻しの意思表示の方法に制限はなく、生前の意思表示でもよく、遺言でもよいとされているので、被相続人には生前に、書面や遺言で持ち戻しの意思表示をしてもらうとよいでしょう。

また、持ち戻しの免除の意思表示は、明示の物がなくても黙示の意思表示が認定されることも多くあります。

黙示の意思表示と認定されるのは「経済力がない相続人の将来を慮っての贈与・生命保険の受取人指定、特別に寄与があった相続人への贈与」などが挙げられます。

また、この持ち戻し免除の意思表示については、民法の改正もあり、20年以上連れ添った配偶者への居住用不動産贈与の場合には持ち戻し免除意思が推定されることとなり、配偶者の居住権が保護されるのと共に、配偶者の貢献に応じた遺産分割が実現されたものといえるでしょう。

特別受益でもめた際の解決の流れ

特別受益について、共同相続人間で合意が取れない場合には、家庭裁判所に遺産分割調停の申し立てをすることとなります。また、この遺産分割調停の中で解決しない場合には、遺産分割の審判の中で判断されることとなります。

まとめ 特別受益かどうかの判断は難しいため弁護士に相談を

特別受益が成立するかの判断を自身ですることは難しいため、弁護士に依頼することで適切な反論をしてもらえるでしょう。

また、特別受益に関する合意が成立せず、調停や審判になった場合にも、弁護士に依頼しておくことで、不慣れな裁判所などのやり取りを適切に処理してくれるでしょう。

遺産分割に関する争いは、身近な人たちとの間で生じることが多く、弁護士に依頼し対応してもらうことで、遺産分割がまとまるまでの日々のストレスから解放されるなどメリットは多いものです。

特別受益の主張をされると遺産分割協議がまとまらずもめてしまう可能性が高くなります。早めに弁護士に相談して法的に適切な分け方を確認してみましょう。

(記事は2021年11月1日時点の情報に基づいています。)