贈与登記の基礎知識 必要書類や費用、手順や税金について司法書士が解説
生前対策や終活の一環として不動産の贈与が行われることがあります。不動産の贈与があった場合には、贈与を原因とする所有権移転登記、(以下、便宜上「贈与登記」と呼びます。)を申請することになります。では、贈与登記の申請にはどのような書類が必要となるのでしょうか。贈与登記を申請する際の必要書類や手順、費用を司法書士が解説します。
生前対策や終活の一環として不動産の贈与が行われることがあります。不動産の贈与があった場合には、贈与を原因とする所有権移転登記、(以下、便宜上「贈与登記」と呼びます。)を申請することになります。では、贈与登記の申請にはどのような書類が必要となるのでしょうか。贈与登記を申請する際の必要書類や手順、費用を司法書士が解説します。
目次
「相続会議」の司法書士検索サービスで
「贈与登記」とは、贈与によって不動産の所有者が変わった場合の名義変更手続きのことです。不動産を次世代に引き継ぐために、生前贈与するということもあるでしょう。贈与は財産をあげる人(贈与者)ともらう人(受贈者)の契約で成立します。これは不動産の贈与も同じです。贈与者と受贈者の合意があれば不動産の所有権は移転します。
なお、相続による不動産の名義変更手続きは「相続登記」といいます。相続の場合には、所有者が死亡すると法律の規定に従って「相続人」へ引き継がれますので、贈与のような契約は必要ありません。
相続登記についてはこれを義務化する法律が成立し、2024年4月1日に施行されましたが、贈与登記にはこのような法律はなく法的義務ではありません。ですから、贈与登記を申請しなくても贈与が無効になるわけではありません。贈与登記を申請するか否かは当事者の判断に任されています。
ただし、義務がないからといって贈与登記せずに放置していると次のようなトラブルが生じるかもしれません。例を挙げて説明します。
AさんがBさんに不動産を贈与しましたが、贈与登記を申請していませんでした。Aさんは登記簿上の名義が自分になっていることを利用して、Cさんにこの不動産を売却しました。売買による所有権移転登記が申請され、登記簿上の名義がCさんになると、その不動産はCさんのものとなります。贈与契約書を交わしていたとしても、贈与登記を申請していなければ、Bさんは自分が所有者であることをCさんに主張できません。
Dさんは父親であるEさんから不動産の贈与を受けましたが、贈与登記を申請しないうちに父親のEさんが亡くなってしまいました。Eさんの相続人にはDさんのほかに姉のFさん、弟のGさんがいます。遺産分割の際に「この不動産は父の生前に自分がもらった」とDさんが主張しても、登記をしていないとFさんやGさんから贈与を否定されて、相続財産の一部とみなされてしまう可能性があります。
このように贈与登記を申請しておかないと、後々トラブルにつながる可能性があります。贈与を受けた際には自分の権利を守るためにも早めに贈与登記を申請することをおすすめします。
不動産の登記は、司法書士に依頼するのが一般的ですが、時間的余裕があり、対象不動産の権利関係が複雑でない場合など、自分でできるケースもあります。では、贈与登記はどのような手順で申請するのでしょうか。必要書類や費用も含めて確認していきましょう。
贈与登記は、対象不動産の所在地を管轄する法務局に対して申請します。なお、申請にあたってはいくつか事前準備が必要です。手順は以下のとおりです。
贈与登記の申請には贈与契約書以外に下記の書類が必要になります。
【贈与者】
【受贈者】
登記済権利証は、通称「権利証」と呼ばれる書類で、所有権を取得する登記などが完了した際に法務局から発行されていたものです。所有者しか持ち得ないものとされています。法改正により、平成17年以降は登記済権利証に代わり、「登記識別情報」が発行されています。12桁の符号で、この情報(符号)を知っていることが所有者であることの証明となります。
印鑑証明書は発行から3カ月以内のもの、固定資産評価証明書は贈与登記する年度のものが必要になります。
贈与登記の申請は自分で行うこともできますが、法律的な知識が必要で、必要書類の収集など大変な手間がかかります。不安があれば、登記の専門家である司法書士に相談しましょう。
贈与登記にかかる主な費用としては、登録免許税と司法書士報酬の2つがあります。司法書士に依頼せずに自分で登記申請を行う場合には登録免許税のみとなります。なお、登記事項証明書や印鑑証明書と言った各種証明書の発行手数料、贈与契約書に貼付する印紙代なども必要ですが、これらは合わせても2000~3000円程度です。
登記申請の際には登録免許税を納める必要があります。贈与登記の登録免許税は固定資産税評価額の2%です。たとえば、固定資産税評価額が3000万円の土地の贈与であれば60万円の登録免許税がかかります。
登記申請を司法書士へ依頼した場合には、司法書士の報酬も発生します。やや古いデータではありますが、平成30年に日本司法書士会連合会が実施した報酬に関するアンケートによると、贈与登記の司法書士報酬の相場は4万円程度であることが読み取れます。
ただし、司法書士報酬は完全に自由化されており、権利関係が複雑だったり贈与の対象となる不動産の数が多かったりする場合には報酬も相場より高くなることがあります。そのため、正式に依頼する前に報酬規程表を確認するか見積書を作成してもらうと良いでしょう。
なお、司法書士の報酬については、日本司法書士会連合会の司法書士の報酬のページにてご確認ください。
全国47都道府県対応
相続の相談が出来る司法書士を探す不動産の贈与を受けると登録免許税とは別にいくつか税金が課されます。贈与の対象となる不動産の評価額が高額であれば税額も高くなりますが、控除の特例や軽減措置があるため、その税額を試算するには専門的な知識が必要になります。
以下、贈与にかかる税金について概略を記載します。詳しくは国税庁のホームページや税理士に確認することをおすすめします。
贈与税は、贈与を受けた財産の価額(評価額)の年間合計額が基礎控除額(110万円)を超える場合に、その超える金額について、その財産をもらった人(受贈者)に課税されます。
贈与税は他の税金と比較すると税率が高く、基礎控除後の評価額が200万円以下の場合でも10%、1000万円以下で40%、3000万円を超えると55%にもなります。不動産の贈与の場合には、不動産の評価額に伴い税額も高くなることが多いので注意が必要です。
ただし、贈与税についてはその税額を軽減するさまざまな制度があります。たとえば、夫婦間で居住用の不動産を贈与した場合は婚姻期間が20年以上の夫婦であれば基礎控除の110万円に加え、最大2000万円まで非課税となる配偶者控除があります。また、贈与税と相続税の課税を一体化して遺産相続時に税額を精算する相続時精算課税という制度もあります。生前対策として不動産の贈与を検討する際は、一度税理士に相談してみると良いでしょう。
不動産取得税とは、土地や家屋などの不動産を取得した人に対して、都道府県が課税する地方税です。不動産の「取得」には、売買による取得だけではなく、贈与による取得も含まれます。不動産取得税の税額は、固定資産税評価額の4%とされていますが、土地と住宅用家屋の場合は3%に軽減されます(令和9年3月31日までの軽減措置)。
また、宅地については課税標準額が2分の1になったり、一定の要件を満たす住宅の敷地については税額を控除できたりと、さまざまな軽減措置があります。
不動産の贈与を受けると受贈者が所有者になりますので、贈与を受けた翌年からは受贈者に対して固定資産税と都市計画税が課税されます。贈与を受けた不動産の課税標準額の1.4%が固定資産税、0.3%が都市計画税となります。
贈与登記を自分で申請するときには、対象不動産の権利関係の確認や贈与契約書の作成など法律的な知識が必要になります。また、登録免許税のほかにも贈与税、不動産取得税などの税金が生じますので、どのくらいの税金を納める必要があるかを検討することも大切です。
書類に不備があって贈与登記がやり直しになってしまったとか、贈与したら思っていた以上に税金がかかってしまったということがないように、不動産の贈与を検討する場合は司法書士や税理士などの専門家にサポートしてもらうことをおすすめします。
(記事は2024年6月1日時点の情報に基づいています)
「相続会議」の司法書士検索サービスで