相続登記にかかった費用は必要経費にできる? 所得の種類や注意点も確認

不動産を相続した場合に申請が必要な相続登記の際は、登録免許税や司法書士の報酬などがかかります。こうした費用は確定申告において、必要経費にできるのでしょうか。また、どういった注意点があるのでしょうか。具体的な事例も交えながら、税理士の資格も持つ司法書士が解説します。
不動産を相続した場合に申請が必要な相続登記の際は、登録免許税や司法書士の報酬などがかかります。こうした費用は確定申告において、必要経費にできるのでしょうか。また、どういった注意点があるのでしょうか。具体的な事例も交えながら、税理士の資格も持つ司法書士が解説します。
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「相続登記」は不動産登記簿に記録された所有者などが亡くなった場合に、不動産の権利を取得した相続人に名義を変更する手続きです。
所有者などが亡くなった場合、自動的に不動産登記簿は変更されません。相続登記を申請しなければ、被相続人(亡くなった人)が所有者としていつまでも記録に残ります。
現行法では相続登記の手続きに期限は設定されていません。手続きをしなかった場合の罰則もありませんが、2024年4月に義務化されることが決まっています。
相続登記を放置すると、手続きが複雑化することがあります。
相続放棄をしていない相続人については、一般的に、相続登記の前提として遺産分割協議に参加してもらう必要があります。所有者の子が死亡していれば、さらにその下の代に相続権がありますから、次々に相続人が増えてしまいます。当事者の数が多いほど、遺産分割協議は難航します。
また、相続が発生した時点から時間が経過すると、たとえば一部の相続人が認知症になる可能性があります。意思表示ができない場合、原則として代理人がいなければ遺産分割協議などの法的手続きを行うことができなくなります。
以上のように、放置すると手続きが困難になるおそれがあるため、早めに対応したほうが良いでしょう。
なお、相続した不動産を売却したり、担保にして融資を受けたりする場合などは、被相続人名義のままでは手続きが行えません。そのため、相続登記が必須になります。
不動産登記を行う際は、原則として一定の割合で登録免許税がかかります。相続による所有権移転については、固定資産評価額の0.4%を納める必要があります。たとえば評価額が100万円であれば、登録免許税は4000円になります。
また、専門家に依頼する場合は、報酬を支払うことになります。相続登記の申請は主に司法書士が行います。弁護士も行うことができます。行政書士は登記を申請することができません。登記申請の代理人は大半が司法書士です。
報酬は自由化されており、事務所によって異なります。案件の内容にもよりますが、複雑な事案でなければ、司法書士報酬は遺産分割協議書の作成を含めて7~15万円の範囲になるケースが多いと思います。
その他、固定資産評価証明書の取得などにも手数料がかかります。
では、このように相続登記にかかった費用は、確定申告において経費にできるでしょうか。
結論からいうと、業務用資産にかかる登録免許税や登記費用は、相続人の所得計算において必要経費に算入できます。
具体的な事例について説明します。
不動産所得を申告しているケースで考えてみましょう。
不動産所得とは、土地や建物などの不動産の貸付けや、地上権など不動産の上に存する権利の設定及び貸付けなどから生じる所得をいいます。
よくあるのは、被相続人が所有するアパートや土地を賃貸しており、相続人が物件を取得する事例です。相続に伴って、賃貸人が相続人に変更されるため、相続以後は相続人が不動産所得について税務申告を行うこととなります。開業に関する届出も新たに必要になりますので、忘れないようにしましょう。
不動産所得の金額は、総収入金額から必要経費を控除して計算します。式にすると下記のようになります。
総収入金額 − 必要経費=不動産所得の金額
総収入金額には、貸付けによる賃貸料収入の他に共益費なども含まれます。具体的には、名義書換料、承諾料、更新料または頭金などの名目で受領するもの、敷金や保証金などのうち、返還を要しないもの、共益費などの名目で受け取る電気代、水道代や掃除代などです。これらは総収入金額に含めて計算する必要がありますので、注意しましょう。
必要経費にできるものは、不動産収入を得るために直接必要な費用のうち、家事上の経費と明確に区分できるものです。主なものとしては、貸付を行う不動産等に関する固定資産税、損害保険料、減価償却費、修繕費などが挙げられます。
そして、事業主が死亡して相続人が事業を引き継ぐ場合、その賃貸物件の相続登記にかかった費用は必要経費に算入できることとされています。
相続後に不動産所得を申告するにあたっては、相続登記にかかった費用を必要経費に算入して計算を行うよう注意しましょう。
事業所得、雑所得も原則として考え方は同様です。なお、経費計上の勘定科目は、登録免許税は租税公課、手数料は支払い手数料とすることが一般的です。
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相続の相談が出来る司法書士を探す続いて、相続した不動産を売却し、譲渡所得を申告する際の事例です。
譲渡所得とは、土地、建物、株式などの資産を譲渡することによって生ずる所得のことです。事業用の商品や棚卸資産の譲渡による所得は、事業所得になります。
譲渡所得の金額は、以下の計算式で算出します。
収入金額 − (取得費 + 譲渡費用) − 特別控除額=譲渡所得金額
特別控除額のうち、代表的なものは居住用財産を譲渡した場合の特別控除です。マイホームを売ったときは、所有期間の長短に関係なく、譲渡所得から3000万円までの控除が可能です。
そして、取得費に含まれる項目として、土地や建物を購入したときに納めた登録免許税、登記費用、不動産取得税などが挙げられます。これには、贈与、相続または遺贈による取得も含むこととされています。したがって、相続登記にかかった費用は譲渡所得から差し引かれることになります。
また、相続税を支払った場合は、相続税が取得費に加算される特例が設けられており、条件を満たした場合は相続税額のうち一定金額を譲渡資産の取得費に加算することができます。
相続登記費用について、注意点を説明します。
相続税申告については取り扱いが異なります。相続登記費用は被相続人の債務に該当しませんので、相続税を計算する際、債務控除の対象にはなりません。
また、上述した経費算入できるケースでも、複数の不動産の相続登記を行い、一部を売却する場合は、土地と建物の評価を按分して算出する必要があります。
このように、税務申告は複雑で難しいケースが多いので、困ったらお近くの税理士に相談してみましょう。
(記事は2022年8月1日時点の情報に基づいています)
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