目次

  1. 1. 学費が特別受益になる要件
  2. 2. 学費が特別受益になるかどうかの判断基準
    1. 2-1. 親の資力や社会的地位
    2. 2-2. 支出された金額
    3. 2-3. 他の子どもたちとのバランス
  3. 3. 学費が特別受益になるか学校のパターン別に紹介
    1. 3-1. 中学や高校の学費
    2. 3-2. 大学、予備校の学費
    3. 3-3. 大学院、留学の学費
  4. 4. 学費が特別受益になるか争われた裁判例
    1. 4-1. 長男のみ医学部へ進学
    2. 4-2. 大学院や留学費用
    3. 4-3. 子どもたちの進学先によって学費に差額が生じたケース
  5. 5. 学費の特別受益でもめたら弁護士へ相談を

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特別受益とは、贈与や遺言によって一部の相続人が受け取った特別な利益をいいます。特別受益は資金援助による相続人同士の不公平をなくすための民法の制度であり、特別受益が認められると、相続開始時の遺産に特別受益分を足して、合計を法定相続分に準じて分割することになります。そして、その相続人の相続分から特別受益分が減額されます。

特別受益になるのは以下のような贈与や遺贈です。

  • 相続人に対し「婚姻、養子縁組、生計の資本」として財産が贈与された場合
  • 相続人に対し、遺言によって財産が遺贈された場合

親が生前、子どものために支出した学費も特別受益となる可能性がありますが、そのためには学費が「生計の資本としての贈与」に該当しなければなりません。

ただし、親は子どもへの扶養義務を負っており、義務の範囲であれば特別な受益とはいえません。学費支出が「扶養義務の範囲内」と認定されると、特別受益は認められなくなります。

学費が特別受益となるのは「扶養義務の範囲を超えた生計の資本としての贈与」が行われたケースです。

学費が特別受益になるかどうかはどのように判断するのでしょうか? 具体的な基準を見てみましょう。

親の資力、経済状況、社会的地位は非常に重要な判断要素となります。

家庭の状況からして「相当」といえる程度の教育であれば、高額な高等教育であっても特別受益になりません。一方、家庭の状況からしてかなり無理をした支出であれば特別受益になる可能性が高くなります。

実際に支出された学費の金額が大きければ、特別受益として認められやすくなります。

複数の子どもがいて、特定の子どもにだけ高額な学費を支出しているなど、差額が大きければ特別受益が認められやすくなります。全員似たようなレベルの教育を受けていれば、特別受益にはなりません。

以下では学校の種類別に、学費が特別受益になる可能性があるのか、見てみましょう。

小中学校は義務教育ですから扶養義務の範囲であり、特別受益になりません。

昔は高校の学費が特別受益と認められるケースもありましたが、今は高校進学がほぼ一般的になっています。高校までの学費は現代社会において特別受益にならないと考えましょう。

大学や予備校にかかった学費は特別受益になる可能性があります。

(具体例)

ごく一般的なサラリーマンの家庭で長男が私立の医学部に進学するのに5000万円かかり、次男は高卒の場合、長男に特別受益が認められる可能性が高くなります。

大学院や留学にかかった費用も特別受益になる可能性があります。

(具体例)

一般的な収入の家庭において、兄は大学院に進んでその後留学し、6000万円以上の学費がかかったけれど、妹は短大を出て就職した場合などには兄に特別受益が認められる可能性が高くなります。

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実際に、学費が特別受益になるかどうか争われた裁判例を3つ、見てみましょう。

親が開業医のケースで長男のみが医学部に進学した事例で、長男に特別受益が認められるかどうかが争われました(京都地方裁判所平成10年9月11日)。

裁判所は以下のような事情から、特別受益に該当しないと判断しました。

  • 親が開業医であった
  • 親は長男による家業承継を希望していた
  • 他のきょうだいも大学教育を受けていた

この事例では、親自身が開業医で十分な資産があり、他のきょうだいとのバランスも崩れていなかったために特別受益性が否定されたと考えられます。

もしも一般家庭であったり、他のきょうだいが大学に進学していなかったりしたら、長男に特別受益が認められた可能性があります。

相続人のうち1人だけが2年間の大学院や10年に及ぶ留学費用を出してもらったケースです(名古屋高等裁判所令和元年5月17日)。

裁判所は、以下のような事情から「特別受益に該当しない」と判断しました。

  • 被相続人の家庭では総じて教育水準が高く、能力に応じた高等教育を受けても特別とはいえない
  • 大学院に進学し、留学した相続人が学者や通訳者、翻訳者として成長するために時間と費用がかかることを被相続人が許容していた
  • 相続人は被相続人へ出してもらった学費の相当額を返還している
  • 被相続人には経済力があり、他の相続人やその妻(嫁)に対しても高額な時計や宝飾品、金銭を贈与していた
  • 他の相続人も大学に進学し、短期留学していた

この事例でも、「被相続人の経済力が高かったこと」や「他の相続人も十分な利益を受けている」ことなどが考慮されています。

もしも被相続人が相当無理をして学費を出していたり、他の相続人が高卒で就職していたりしたら、大学院や留学費用が特別受益と認められた可能性もあります。

子どもたちがそれぞれ大学や師範学校などの高等教育を受けましたが、公立や私立などの違いもあって学費に差額が生じたケースです(大阪高裁平成19年12月6日)。

裁判所は以下のように述べて特別受益性を否定しました。

「大学や師範学校等の高等教育を受ける中で、子どもの個人差もあり、公立、私立などが分かれて費用に差が生じても、通常、親の子に対する扶養の一内容として支出されるものと評価できる」

つまり、子どもの個性に応じた教育をつけて結果的に費用に差異が生じても、扶養義務として合理的な範囲なので、生計の資本としての贈与には該当しないということです。

この事例では子どもたちがそれぞれ進学していましたが、もしも1人だけ高卒であったなどの事情があれば、特別受益が認められた可能性もあります。

学費が特別受益になるかどうかについては、ケースバイケースの判断が必要です。法的知識のない人には正しい判定が難しくなるでしょう。

また、他の相続人に「学費が特別受益になる」と主張すると、本人が否定して大きなトラブルに発展するケースも少なくありません。学費が特別受益になるか迷ったときには、トラブルを大きくしないためにも早めに弁護士に相談してみるようおすすめします。

(記事は2021年11月1日時点の情報に基づいています)

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