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相続放棄をすると相続税は増える? 基礎控除額の計算と考え方を確認しよう
相続放棄をする場合の典型例としては、被相続人が遺産を上回る多額の借り入れをしていた場合が挙げられます。それ以外でも、例えば、実家を出た長女が実家に残った長男に配慮して相続放棄するなんてこともあります。特に相続税の申告が必要な場合において、相続人の1人が「相続放棄をしたい」と突然言い出すと、他の相続人は不安になるかもしれません。相続税における基礎控除額は法定相続人の数で変わるからです。しかし、相続税法の取扱いをよく知れば、焦る必要はないことがわかります。今回、改めて基礎控除額の考え方を確認していきましょう。
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1. 相続税の基礎控除額を確認しよう
1-1. 相続税の基礎控除額とは
被相続人から相続、遺贈(遺言による財産の取得)、相続時精算課税制度による贈与により財産を取得した人全ての課税価格の合計額が基礎控除額を超える場合には、相続税の申告をする必要があります。
すなわち、各人の課税価格の合計額が基礎控除額よりも少なければ、相続税の申告は不要となります。
1-2. 基礎控除額の計算式
ここで、基礎控除額の計算式は以下の通りです。
平成27年1月1日以後の相続の場合(※)
基礎控除額=3000万円+600万円×法定相続人の数
※平成27年1月1日より前は、5000万円+1000万円×法定相続人の数となっていましたが、税制改正で基礎控除額が引き下げられ、上記現行の算式となっています。
計算式からわかるように、法定相続人の数によって基礎控除額が変わってくるので、法定相続人の数の数え方がポイントとなります。
2. 基礎控除額の計算式における「法定相続人」とは
基礎控除額の計算式における「法定相続人」とは、基本的には民法に規定する相続人を意味します。そして、民法における相続人は、配偶者と血族相続人に分けられます。
2-1. 配偶者
配偶者は常に相続人になります。ここでいう配偶者には内縁関係やパートナーシップによる関係は含めず、法律上の婚姻関係にある配偶者を指します。配偶者が常に相続人となる(相続権が与えられる)理由は、民法では夫婦別産制といって婚姻期間中に夫が稼いだ所得(給与収入や家賃収入等)は原則全て夫の財産となるため、専業主婦である妻の協力や寄与を考慮して婚姻関係解消時である夫の死亡時に妻に相続権を与えることでバランスを保とうとしていることによります。他にも婚姻関係解消時である離婚時に妻に財産分与請求権が与えられるのも同じ趣旨です。
2-2. 血族相続人
血族相続人には血族の中で相続人となる順位が定められています。
まず、被相続人の子(子が先に死亡している場合には孫)が第一順位で血族相続人となります。
次に、もし第一順位の血族相続人がいない場合には、被相続人の直系尊属(被相続人の父母)が第二順位で血族相続人となります。
最後に、第一順位及び第二順位の血族相続人がいない場合には、被相続人の兄弟姉妹(兄弟姉妹が先に死亡している場合にはその子)が第三順位で血族相続人となります。
以上、民法に規定する相続人を図示すれば以下の通りです。
3. 相続放棄した人を法定相続人に含める理由
上記の通り、基礎控除額の計算における「法定相続人」とは、基本的には、民法に規定する相続人を意味しますが、相続放棄をした人がいてもその放棄がなかったものとして数えることとされています。すなわち、相続放棄をした人も法定相続人の数に含まれます。
このように、相続放棄がなかったものとして法定相続人の数を数える理由(相続放棄した人を法定相続人に含める理由)は、相続放棄が相続人の意思でできてしまう点にあります。すなわち、相続放棄を考慮して基礎控除額の計算式における法定相続人の数を数えることとした場合、ある相続人が相続放棄するかどうかで法定相続人の数が変わり、それにより基礎控除額も変わり、結果的に相続税額を変えることができてしまうわけです。税務上は、こうした恣意性を排除して納税者間の課税の公平を保つ必要があること等を考慮して、相続放棄がなかったものとして法定相続人の数を数えることとされています。
4. その他相続放棄の注意点
4-1. 相続放棄するための手続きと期限
相続放棄するには、自己のために相続の開始があったことを知ったとき(通常被相続人の死亡のとき)から3カ月以内に、被相続人の最後の住所地の家庭裁判所に必要書類を揃えて相続放棄の申述をする必要があります。
参考:裁判所HP「相続の放棄の申述」
したがって、ただ単に他の相続人に「私は相続放棄します。」と伝えてもそれだけでは相続放棄したことにはなりませんので注意が必要です。
とにかく期限が3カ月と短く、必要書類の準備も手間が掛かります。自分でできそうにない場合は、早めに司法書士や弁護士などの専門家に依頼すべきでしょう。
4-2. 死亡保険金や死亡退職金がある場合
例えば、被相続人が生前保険料を支払っていた保険契約で、被相続人の死亡を保険事故として、相続放棄をした人(受取人)に死亡保険金が支払われた場合、この死亡保険金は相続財産とみなされて相続税が課税されます。
ここで相続人が取得した死亡保険金については、以下の計算式の金額が非課税とされていますが、相続放棄をした人が受け取った死亡保険金についてはこの非課税の適用がありませんので注意が必要です。
死亡保険金の非課税限度額=500万円×法定相続人の数(※)
※この法定相続人の数には相続放棄をした人も含めます。
なお、被相続人の死亡退職金についても死亡保険金と同じ算式で非課税の規定がありますが、相続放棄をした人が受け取った死亡退職金については非課税の適用がありませんので注意が必要です。
相続税申告にあたり、相続放棄をした人がいる場合には上記の他にも注意すべき点があります。早めに税理士に相談すべきでしょう。
(記事は2021年11月1日時点の情報に基づいています)
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