目次

  1. 1. 「住所がつながらない」とは? 登記簿と住所が一致しない
  2. 2. 相続登記で「住所がつながらない」場合に必要な書類
    1. 2-1. 住民票の除票
    2. 2-2. 戸籍の附票
    3. 2-3.  登記済証(登記識別情報通知)
    4. 2-4. 相続人全員の上申書
  3. 3. まとめ

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不動産の所有者は登記簿を見れば分かりますが、登記簿においては個人を住所と氏名の一致により特定します(生年月日や本籍地は登記事項ではありません)。つまり、登記手続きにおいては住所と氏名が一致しないと同一人物とは言えません。

例を挙げると、登記簿上の住所がA市である朝日一郎と、住民票の住所がB市である朝日一郎は、たとえ同一人物だとしても登記手続きのうえでは別人として取り扱われるということです。こうした取り扱いは相続登記においても同じです。

下記の図のように、B市に在住していた朝日一郎が死亡して、その相続人が相続登記のために登記簿を調査したところ、登記簿上は『(住所)A市 (氏名)朝日一郎』となっていたとします。この場合、相続登記の申請時に添付する住民票の除票には、『(住所)B市 (氏名)朝日一郎』と記載されているため、登記簿上の朝日一郎とは別人と見なされてしまいます。

登記簿の住所と住民表の住所が違うと別人と見なされる
登記簿の住所と住民票の住所が違うと別人と見なされる

そのため、相続登記の前提として亡くなった朝日一郎と登記簿上の朝日一郎が同一人物であること、つまり朝日一郎がA市からB市へ転居したことを証明する書類を添付する必要があるのです。通常、住民票には前住所(どの市区町村から転入してきたか)の記載がありますので、朝日一郎の住民票の除票に『A市から転入』した旨の記載があれば、その住民票の除票を添付すれば足ります。

転居したことを証明する書類を添付する必要がある
転居したことを証明する書類を添付する必要がある

しかし、朝日一郎がA市⇒C市⇒D市⇒B市と住所移転をしていた場合には、住民票の除票には『D市から転入』した記載のみで、登記簿上のA市はでてきません。また、住民票の除票には保存期間があるために、そもそも朝日一郎の住民票の除票が取得できないこともあります(詳細は後述)。

このような場合を「住所がつながらない」といい、相続登記のために住民票の除票以外の書類を取得する必要があります。

上記のとおり相続登記においては、登記簿上の所有者と故人(被相続人)が同一人物であることを証明するために、次のいずれかの書類を添付する必要があります。

相続登記や住所変更登記で住所がつながらない場合の必要書類

他の市区町村へ転出や死亡などにより住民登録が消除された住民票を「住民票の除票」といいます。被相続人の死亡時の住所が登記簿の住所と一致している場合には住民票の除票(本籍地の記載あり)のみを添付すれば足ります。また、住民票の除票に前住所の記載があり、その前住所が登記簿の住所と一致している場合も住民票の除票のみで足ります。

ここで注意しなければならないのが、住民票の除票の保存期間です。令和元年6月20日に住民基本台帳法の一部が改正され、保存期間が150年に延長されましたが、それ以前は保存期間が5年間とされていました。つまり、平成26年の時点で亡くなってから5年を経過していた方、つまり平成21年以前に亡くなった方の住民票の除票は、すでに市区町村でデータを消去しているため取得できない可能性が高いです。

「戸籍の附票」とは、本籍地の市区町村において戸籍とあわせて編成されるもので、その戸籍が編製されてから(またはその戸籍に入籍してから)現在に至るまで(またはその戸籍から除籍されるまで)の住所が記録されています。

仮に生まれてから亡くなるまでに10回以上の転居をした人であっても、本籍地がずっと同じであればその本籍地で戸籍の附票を取得すると一生分の住所の変遷が分かるのです。1つ前の住所だけが記載されている住民票と異なり、戸籍の附票には住所の変遷が全て記載されていますので、住民票の除票で住所がつながらない場合でも戸籍の附票でつなげることができます。

しかし、この戸籍の附票も住民票の除票と同じく令和元年の法改正までは保存期間が5年とされていたため、平成21年以前に戸籍の全員が除籍になっていたり、改製原附票になっていた場合には取得できない可能性があります。

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住民票の除票や戸籍の附票で住所がつながらない場合、公的な書類で住所のつながりを証明することは不可能になります。そうしたケースでは「登記済証(登記識別情報通知)」を添付して登記簿上の所有者と被相続人の同一性を証明します。

登記済証とは、不動産について所有権移転登記をしたときに法務局から発行される書類で、一般的には“権利証”と呼ばれます。この登記済証は、登記をしたときに所有者本人に対して交付され、いかなる理由があっても再発行がされません。つまり、登記済証は所有者本人だけが持っているものであり、登記手続きにおいて所有者の本人確認の役割を果たします。

相続登記において被相続人の死亡時の住所と登記簿上の住所がつながらなくても、所有者だけが持っている登記済証を相続人が提出しているのだから、登記簿上の所有者の相続人で間違いないだろうということになるのです。このような理由から住民票の除票や戸籍の附票で住所がつながらないときの代替書類として登記済証を添付することが登記実務上認められています。

【関連記事】土地の権利書を紛失しても相続登記はできるか? 必要書類や手続きを司法書士が解説

では、住民票等で住所がつながらず登記済証も紛失してしまっている場合にはどうすればよいのでしょうか。この場合の最終手段が相続人全員からの上申書です。上申書の内容は下記の記載例のとおりですが、「登記簿上の所有者が間違いなく自分の被相続人である」ことを相続人全員が法務局に対して申告します。この上申書には相続人全員が実印を押印し、印鑑証明書もあわせて添付します。

上申書の記載例
上申書の記載例

遺言や遺産分割協議で法定相続人のうち誰か一人が不動産を取得することになっていたとしても、この上申書は法定相続人全員が署名捺印する必要があります。また、この上申書だけでは足りず、あわせて戸籍の附票等の廃棄証明書や不在籍証明書、不在住証明書、固定資産税の課税明細書などの提出を求められる場合もあります。住所がつながらず登記済証も紛失している場合には、一度管轄の法務局に問い合わせることをお勧めします。

不動産を取得してから亡くなるまでに長い年月が経過し、その間に住所が転々と変わることは珍しいことではありません。相続登記をするときに住所がつながらずに相続人が苦労することがないように、ご自身が所有している不動産の登記簿を確認して、住所変更(所有権登記名義人住所変更登記)を行っておくことが大切です。相続登記や住所変更登記で住所がつながらずにお困りの方は、お近くの司法書士に相談してみて下さい。

(記事は2022年11月1日現在の情報に基づきます)

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