目次

  1. 1. 使用貸借とは
  2. 2. 使用貸借の借主が亡くなったら立ち退かなければならないのか?
  3. 3. 使用貸借の貸主が亡くなったら土地の相続税評価額はどうなる?
    1. 3-1. 借主が個人のケース
    2. 3-2. 借主が法人のケース
  4. 4. 使用貸借の貸主が亡くなったらその土地に小規模宅地等の特例は使える?
  5. 5. 土地の使用貸借にまつわるトラブルや相続税対策は専門家に相談を!

「使用貸借(しようたいしゃく)」の意義については民法593条で以下のとおり規定されています。条文から「無償で」借りる契約であることが読み取れます。

民法593条 使用貸借

使用貸借は、当事者の一方がある物を引き渡すことを約し、相手方がその受け取った物について無償で使用及び収益をして契約が終了したときに返還をすることを約することによって、その効力を生ずる。

ただし、民法595条1項では、使用貸借契約の借主は借用物の通常の必要費を負担すると規定されています。過去の判例によれば、不動産の使用貸借の場合、特別の事情がない限り、その不動産の固定資産税や都市計画税は通常の必要費にあたると解されています。したがって、土地の借主がその土地の固定資産税や都市計画税相当額(またはそれ以下の金額)を貸主に支払っている場合は使用貸借となります。

では、固定資産税や都市計画税よりも少しだけ多めの地代を支払えば使用貸借ではなく賃貸借と認められるかというと、そうとも限りません。支払地代、固定資産税や都市計画税との大小関係だけでなく、賃貸借契約書の有無、貸主と借主の関係等を総合的に勘案して固定資産税や都市計画税よりも多少多めの地代を支払っていても、賃貸者とは認められず使用貸借と認められる場合もあります。

建物所有目的で土地を無償で借りている借主(建物所有者)が死亡した場合、建物を相続した借主の相続人は引き続き無償でその建物に住むことができるのでしょうか?

民法597条3項によれば、使用貸借は借主の死亡によって終了すると規定されています。この民法の条文どおりであれば、借主死亡により使用貸借契約は終了し、建物を相続した借主の相続人は貸主から建物収去や土地の明け渡しを迫られたら、建物を収去して立ち退かなければならないと考えられます。

しかし、例外的に立ち退かなくて良い場合もあります。

たとえば、以下東京地裁平成5年9月14日判決では、使用貸借契約の借主が死亡した場合でもその相続人に使用貸借の継続が認められています。もちろん事実認定による部分もありますので、他の事例でも同様に使用貸借の継続が認められるとは言い切れません。ただし、民法の原則的な取り扱いに対する例外的な対処として参考になる事例だと思われます。

東京地裁平成5年9月14日判決 裁判所の判断より抜粋

土地に関する使用貸借契約がその敷地上の建物を所有することを目的としている場合には、当事者間の個人的要素以上に敷地上の建物所有の目的が重視されるべきであって、特段の事情がない限り、建物所有の用途にしたがってその使用を終えたときに、その返還の時期が到来するものと解するのが相当であるから、借主が死亡したとしても、土地に関する使用貸借契約が当然に終了するということにはならないというべきである。

建物所有目的で土地を使用貸借により貸している貸主(土地所有者)が死亡した場合、その土地の相続税評価額はどうなるのでしょうか?

結論としては、借主が個人か法人かで評価方法が異なります。

たとえば、被相続人(亡くなった人)の土地を子が無償で借りて建物を建てているケースがあります。

このような個人間における建物所有目的の土地の使用貸借の場合、土地の相続税評価額は自用地評価額となります。自用地評価額による評価とは、土地の評価にあたって使用貸借契約に基づき他人の建物が建っているからといって何割か減価することはできないということを意味します。

使用貸借契約によって建物が建っている場合は、自用地評価額によって評価される
使用貸借契約によって建物が建っている場合は、自用地評価額によって評価される

では、使用貸借ではなく賃料を支払う賃貸借にしたらどうなるかというと、土地の相続税評価額は、自用地評価額から借地権の評価額を控除した価額となります。一見すると賃料を支払えば土地の相続税評価額を簡単に下げることができそうですが、使用貸借契約から賃貸借契約に変更したタイミングで貸主から借主へ借地権の贈与があったとみなされて借主に贈与税が課税されてしまいます。

たとえば、被相続人(亡くなった人)の土地を被相続人の同族会社が無償で借りて建物を建てているケースも少なくありません。

こうしたケースの場合は、税務署に「土地の無償返還に関する届出書」(以下「無償返還届出書」と略す)を提出しているか否かによって土地の評価方法が異なります。

① 無償返還届出書を提出しているケース

無償返還届出書を提出している場合には、土地の相続税評価額は自用地評価額となります。

税務署に無償返還届出書を出している場合も、自用地評価額となる
税務署に無償返還届出書を出している場合も、自用地評価額となる

② 無償返還届出書を提出していないケース

無償返還届出書を提出していない場合、土地の相続税評価額は、自用地評価額から借地権の評価額を控除した価額となります。

無償返還届け出署書を出していない場合、自用地評価額から借地権の評価額を引いた価額になる
無償返還届け出署書を出していない場合、自用地評価額から借地権の評価額を引いた価額になる

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たとえば、長男が建物所有目的で父所有の土地を無償で借り、その建物に住んでいたとします。そして土地所有者である父が死亡し、長男が土地を相続した場合、この土地は特定居住用宅地等に該当し小規模宅地等の特例を使うことはできるのでしょうか?

使用貸借の貸主が亡くなった場合、その土地が小規模宅地等に該当するかどうかは被相続人との間で生計を一にしていたかどうかによって変わる
使用貸借の貸主が亡くなった場合、その土地が小規模宅地等に該当するかどうかは被相続人との間で生計を一にしていたかどうかによって変わる

結論としては、長男が父と生計を一にしていたかどうかによって特定居住用宅地等に該当するかどうかが異なります。長男が父と生計を一にしていた場合は特定居住用宅地等に該当しますが、生計を一にしていない、つまり別生計である場合は特定居住用宅地等に該当しません。

使用貸借の借主が死亡した場合に貸主から建物収去や土地の明け渡しを迫られたとき、貸主と争う場合には当然弁護士に相談すべきでしょう。

すでに述べたとおり、使用貸借の貸主が死亡した場合の土地の相続税評価額は借主が個人か法人かにより取り扱いが異なりますし、小規模宅地等の特例の適用にあたっても、借主が生計を一にしている親族かどうかの判断によって結果が異なります。貸主の生前に相続税対策をする場面や、貸主の相続税申告の場面では、これらの判断を誤る可能性が高いので、税理士に相談するのが妥当といえます。

(記事は2021年5月1日時点の情報に基づいています)