目次

  1. 1. 相続税の電子申告のしくみ
    1. 1-1. 相続税の電子申告とは
    2. 1-2. 電子申告に必要な事前手続き
    3. 1-3. 相続税の電子申告の流れ
  2. 2. 窓口申告との違いは? 電子申告四つのメリット
    1. 2-1. 自宅にいながら24時間申告ができる
    2. 2-2. 紙の添付書類を提出しなくていい
    3. 2-3. 自宅から納税ができる
    4. 2-4. 相続税申告書を電子データとして保存できる
  3. 3. 相続税の電子申告の注意点
    1. 3-1. 計算機能はついていない
    2. 3-2. 相続税の修正申告はできない
    3. 3-3. 複数の相続人がいるとより煩雑に
  4. 4. 相続税の電子申告は税理士向け

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最初に相続税の電子申告のしくみについてお伝えします。

電子申告は、国税庁が運営しているe-Tax(国税電子申告・納税システム)を経由したインターネット上の申告・納税手続きを言います。相続税においては、電子申告が可能となったことにより、「相続税の申告書」や「配偶者の税額軽減額の計算書」といった一般的な申告で使われる帳票がオンラインで作成・提出できるようになりました。なお、相続税の電子申告の対象となるのは、平成31年(2019年)1月以降に生じた相続に関するものです。それより前のものについては従前通り、紙の申告書で行います。

ただ、今すぐ電子申告ができるわけではありません。事前に以下の準備を行う必要があります。

1.利用環境の確認

e-TaxソフトはWindows OSにのみ対応しており、Mac OSでは使用できません。相続税の電子申告を行うなら、対応可能なOSを用意しなくてはなりません。

2.電子証明書の取得

e-Taxでは、申請等のデータが利用者本人の作成・送信によるものであることを確認するため、電子証明書が必要になります。この電子証明書を国税庁が定める発行機関で交付を受けます。

参考:国税庁ウェブサイト「電子証明書の取得」

3.e-Taxの開始届出書の提出・利用者識別番号の取得

所轄の税務署に「電子申告・納税等開始届出書」を提出し、利用者識別番号を取得しなくてはなりません。これは、書類を税務署に直接提出・送付するか、e-Tax上のウェブサイトからオンラインで提出するかのどちらかになります。

なお利用者識別番号は、直接提出・送付なら当日あるいは後日、オンラインなら登録完了時に「利用者識別番号等の通知書」が交付されます。

一般の方が相続税の電子申告を行うとき、手続きの流れは次のようになります。

1.相続人のうち1人の代表者がe-Taxのソフトかe-Tax対応の民間のソフトを使って相続税の申告書を作成する
2.1.の内容を他の相続人にメールかSNSで送付する
3.1.の申告データを受け取った他の相続人たちは自分のe-Taxソフトに取り込む
4.相続人それぞれが申告書データに電子署名し、必要なデータを添付した上で送信する
5.送信完了確認後、相続人それぞれが納税をする

では、電子申告にはどのようなメリットがあるのでしょうか。従来の窓口での申告との違いを踏まえると次の四つが強みだと言えます。

電子申告の最大の強みは24時間申告ができるという点です。従来の申告方法は、税務署の窓口に直接赴くか、郵送するかのいずれかでした。どちらの方法も平日日中に限られるため、忙しい人には大きな負担です。しかし、電子申告ならば時間を気にせずいつでも申告が行えます。

相続税e-Tax画面の入力画面
相続税e-Tax画面の入力画面

従来の申告方法では紙の添付書類をたくさん提出しなくてはなりませんでした。しかし、電子申告ならば、PDFで添付書類を送信することで紙の書類提出を省略できます。

通常、相続税の納税は税務署か金融機関の窓口で行わなくてはなりません。しかし、電子申告ならば、これらの場所に出向かなくても、インターネットバンキング等を使って自宅からそのまま納税することができます。

紙の申告書でもっとも怖いのが紛失です。収受印が押されたものは代替品がないため、過去の申告内容を確認したいときや税務調査があったときは困ってしまいます。

しかし、電子申告を行えば相続税の申告書を電子データとして保存することができます。紛失リスクがなくなる上、管理・共有をしやすくなります。

便利な相続税の電子申告ですが、次のような注意点もあります。

相続税の電子申告用のe-Taxソフトには財産評価の自動計算機能や自動転記機能がついていません。手計算や民間の相続税のソフトで課税価格や税額を計算し、その結果をe-Taxに清書するような作業を行うことになります。

所得税の確定申告では国税庁の確定申告サイトで必要事項を入力すれば自動的に申告書が作成されます。しかし、同じような感覚で相続税の申告書を作成することはできないのです。

相続税の申告を行った後、「本来申告すべき課税価格や税額はもっと多かった」といった理由で修正申告を行うことがあります。この修正申告は電子申告ができません。紙の申告書を税務署の窓口に提出することになります。

相続税の電子申告に必要な事前準備は、複数の相続人がいると手間と時間がかかります。また、電子申告自体も、相続人全員がしくみを理解していないと活用できません。相続人の中にITが苦手な人や高齢の人がいると、相続税の電子申告はかなりハードルの高いものとなります。

この他「オンラインで添付書類を送信できないときは紙で提出する」点も留意しておいた方がよいでしょう。電子申告で便利になったといえども万能ではないのです。

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相続税の電子申告の仕組みを概観すると、相続税の電子申告は一般の納税者向けとは言えません。なぜかというと、心理的・経済的な負担が大きいからです。

相続税で電子申告をするには、課税価格や税額を手で計算するか、専用の相続税のソフトを数万円から数十万円で購入して作業することが必要です。相続税の申告を何度も経験するわけではない一般人に、このような負荷は担えるものではありません。そのため、相続税の電子申告は、事業として繰り返し行う税理士向けのものだと言えます。

ただ、税務署の人手不足という現状やコスト削減の必要性を考えると、今のシステムがずっと続くとは感じられません。今後、状況に応じて改善され、いずれは納税者にとって使いやすい仕組みとなるのではないかと思われます。

(記事は2020年4月1日時点の情報に基づいています)

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