賃貸アパート経営を引き継ぐなら相続より生前贈与?メリットデメリットを解説
親が、経営する賃貸アパートを子へと引き継ぐ場合、相続ではなく、生前贈与を選ぶ方も少なくありません。では、どのような場合にアパートを贈与するとメリットがあるのでしょうか。今回は、アパートの建物を生前贈与するときのメリットやデメリット、注意点について解説をします。
親が、経営する賃貸アパートを子へと引き継ぐ場合、相続ではなく、生前贈与を選ぶ方も少なくありません。では、どのような場合にアパートを贈与するとメリットがあるのでしょうか。今回は、アパートの建物を生前贈与するときのメリットやデメリット、注意点について解説をします。
贈与とは、個人が自分の財産を他人に無償で与える旨の意思を示し、相手方がそれを受け入れるという双方の合意によって成り立つ契約のことをいいます。ここで、贈与する人を贈与者といい、贈与を受ける人を受贈者といいます。なお、贈与は口頭でも書面でも成立します。
贈与には、生前贈与と死因贈与があります。
生前贈与は、文字通り当事者が生きているときに効力が生じる贈与のことです。
それに対して、死因贈与は、贈与をする人が亡くなることによって効力が生じる贈与をいいます。
一般的には贈与というと、ほとんどが生前贈与のことを指しています。そのため本記事では、贈与も生前贈与を指すものとします。
生前贈与にかかる贈与税には、「暦年課税」と「相続時精算課税」の2つがあります。
暦年課税とは、ひとりの人が1年間に受けた贈与の合計額が基礎控除(110万円)を超えた場合に、その超えた部分に対して贈与税をかける方法です。
税額は贈与税の税率表に基づいて計算をしますが、贈与額が基礎控除を超えると、段階的に税率が高くなる超過累進税率となっています。
なお、1月1日現在で20歳以上の人が直系尊属(父母や祖父母)から贈与を受けた財産を特例贈与財産といい、それ以外の一般贈与財産と比べて低い特例税率が適用されます。
相続時精算課税では、2,500万円までの贈与については贈与税を納めず、2,500万円を超える部分に対して20%の贈与税を納めます。贈与した財産は、相続時に他の相続財産に加えて相続税を計算し、相続税額からすでに支払った贈与税は差引くことができます。
なお、一度相続時精算課税を選択すると、暦年課税に戻すことはできないため、十分に検討して選択することが大切です。
一般的にアパートは高額な財産です。そのため基礎控除が110万円の暦年課税よりも、贈与時に2,500万円まで贈与税がかからない相続時精算課税を利用したほうが、効果は大きいと考えられます。
ただし、前述のとおり、相続時精算課税により贈与した財産は、相続時に相続財産と合算して相続税を計算するため、暦年贈与よりも相続税額が高くなる可能性もあります。そのため、税理士など専門家のアドバイスを受けながら選択をするようにしましょう。
アパートを生前贈与する場合は、建物だけを贈与するケースが一般的です。
理由は、もともと家賃収入を生むのはアパートの建物だからです。土地は家賃を生みませんが、建物と一緒に土地まで贈与すると、贈与税が増えてしまいます。
また、建物は建築してから年数が経過するにしたがい評価額が下がっていきます。評価額が2,500万円に満たないアパートの建物であれば、贈与時には贈与税を払わずにすみます。
なお、建物だけを贈与した場合、土地は相続財産として遺産分割の対象になるため、遺言書に、土地はアパートを贈与した子に相続させる旨を書いておくことも必要です。
同じ価値の現金とアパートを贈与した場合、アパートの建物は現金よりも評価額が低くなるので、贈与税も少なくてすみます。
現金はその金額そのものが贈与税の対象となりますが、アパートの建物の評価額は、固定資産税評価額と同じです。
アパート取得時の固定資産税評価額は、時価のおおむね50~60%程度と低く抑えられています。さらに、アパートは贈与税の評価上、貸家として扱われ、固定資産税評価額から借家権割合30%を差引くことができます。
〔例〕5,000万円の現金と建築費5,000万円の新築アパートを贈与した場合の比較
・現金の贈与税評価額=5,000万円
・アパートの贈与税評価(固定資産税評価額は時価の60%とする)
固定資産税評価額 =5,000万円×60%≒3,000万円
貸家の評価額=3,000万円×(1-30%)=2,100万円
アパートは、現金よりも評価額が2,900万円も低く抑えられています。
また、固定資産税評価額は年数が経つと徐々に減少していくため、古いアパートでは、さらに評価額が低くなります。
これは、アパートの生前贈与の大きなメリットといえます。
親がアパート経営を続けると家賃収入が貯まっていくので、親の財産はますます膨らんでいきます。その結果、相続財産も増加し、相続税は高くなります。
アパートを生前贈与すると、贈与した後の家賃収入は子が受け取るようになります。そのため、親の財産の増加を抑えることにつながります。
たとえば、毎年200万円の利益があるアパートを子に贈与し、10年経過した場合に、親は贈与しないと増えるはずだった2,000万円の財産が増えずにすみ、子は2,000万円を手にすることができます。
このように、子が親の生前から家賃収入を得ることにより、相続税の納税資金として準備しておくこともできます。
親の所得が高い場合、累進課税により所得税も高額になりがちですが、アパートを生前贈与することにより、親の所得の一部を子に分散し、親の所得を減らすことができます。
子の所得にもよりますが、アパートを生前贈与して親と子の税金の合計額が低くなるようであれば、所得分散の効果があります。
相続後に財産分割をすると、相続人同士で遺産争いになる可能性があります。しかし、アパートを生前に贈与してしまえば、少なくともそのアパートは、親が引き継がせたい子に渡しておくことができます。
特に兄弟間で経済格差が生じている場合には、経済力が弱い子にアパートを贈与することで、生活費の手助けをしてあげることもできます。
多くのメリットがあるアパートの生前贈与ですが、デメリットや注意点もあります。
アパートが建っている土地は「貸家建付地」といい、相続税を計算する際に、自宅などの「自用地」よりも相続税の評価が引き下げられています。
貸家建付地の相続税評価額は、次の計算式により算出します。
貸家建付地の評価額=自用地評価額×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)
*借地権割合は土地の所在ごとに国が定めています。
*借家権割合は全国どこでも30%(=0.3)です。
*賃貸割合は入居率のことです。入居率100%の場合は1、入居率50%の場合0.5となります。
たとえば、自用地評価額1億円、借地権割合70%、借家権割合30%、賃貸割合100%(満室)の土地の相続税評価額は、
貸家建付地評価額=1億円×(1-0.7×0.3×1)=7,900万円
と2,100万円引き下げることができます。
入居者のいるアパートの建物を、親が子に生前贈与し、土地を子が無償で借りる場合、その土地は貸家建付地のまま引き継がれます。
しかしながら、貸家建付地の適用は、入居者が変わらないことが条件となっています。
贈与後に入居者が入れ替わると、貸家建付地評価ではなく自用地評価になるため相続税評価額が上がってしまいます。贈与後に入居者が入れ替わることはよくあるため、自用地評価になってしまう可能性は高いといえます。
ただし、サブリースを利用していれば、途中で入居者が入れ替わっても、オーナーにとっての入居者は常に同じサブリース会社であるため、貸家建付地としての評価が引き続き適用されます。(サブリースについては、佐藤益弘さんが詳しく書いています。)
負担付贈与とは、受贈者に一定の債務を負わせることを条件に行う財産の贈与をいいます。アパートを贈与する際に、親が借りているアパートローンも一緒に負担させる場合は負担付贈与になります。
負担付贈与を受けたときの贈与税の計算では、贈与財産の時価から債務を差し引いた額に対して贈与税がかかります。
この場合の時価とは、建物の固定資産税評価額ではなく、通常の取引価額のことです。当然、取引価額は固定資産税評価額よりも大幅に高いため、贈与税も増えてしまいます。
また、負担付贈与の場合、贈与者も債務をまぬがれたとして所得税が課せられます。
負担付贈与は、トータルとしてデメリットが多いため、アパートの生前贈与をする場合は、ローンがないアパートを贈与財産として検討しましょう。
アパートの入居時に、賃貸オーナーは入居者から敷金を預かることが一般的ですが、敷金は入居者の退去時に返還義務があります。
そのため、親が子にアパートを贈与する際に、敷金も引き継ぐと負担付贈与とみなされてしまいます。
対応方法として、敷金を引き継ぐ場合は、敷金と同額の現金も一緒に贈与して、差引きゼロとして引き継げば、負担付贈与をまぬがれることができます。
アパートを贈与すると所有権移転登記などの諸費用がかかります。登記費用にかかる登録免許税は相続の場合、固定資産税評価額の0.4%ですが、贈与の場合は2%かかります。
特に注意をしたいのは、不動産取得税がかかることです。相続によりアパートを引き継いだ場合、不動産取得税は課税されませんが、贈与の場合は建物の固定資産税評価額の3%が課税されます。
アパートの生前贈与を行う場合、なかなか個人では手続きをすすめることは困難です。税理士や司法書士など専門家のサポートを受けながら贈与することになると、当然報酬が必要になります。他の諸費用とともに、あらかじめ把握しておくことが必要です。
アパートの生前贈与を受けなかった他の子が、不公平感を感じる場合もあります。最悪の場合、相続トラブルに発展する危惧もあります。
そのため、親は他の子に対しても配慮が必要です。たとえば生前贈与を受けなかった子に対しては、他の財産を贈与したり、遺言により相続時に多く財産を引き継がせるようにすることなどです。
相続対策は、税金などの経済的なメリット・デメリットによって行うことも多いのは事実ですが、何よりも相続人が円満に財産を引き継ぐことが大切です。
アパートの生前贈与には、さまざまなメリットがある一方、デメリットや注意点も数多くあります。
・生前贈与と相続を比較
・暦年課税と相続時精算課税を比較
・他の相続人とのバランス
など、専門家の意見も取り入れながら、相続をさまざまな角度から比較したうえで、最適な選択をすることをおすすめします。
前回は、アパートやマンションの経営を相続した際に法人化するメリットやデメリットについて書きました。
「相続会議」では、引き続き相続と不動産土地活用について記事を執筆していきたいと思います。
(記事は2022年8月1日時点の情報に基づいています)