目次

  1. 1. 個人間における不動産の低額譲渡
    1. 1-1. 売主に譲渡所得税が課税される
    2. 1-2. 買主に贈与税が課税される
  2. 2. みなし贈与の注意点
    1. 2-1. 贈与の意思について
    2. 2-2. 著しく低い価額の判断基準について
    3. 2-3. 時価の算定方法について
    4. 2-4. 買主が資力を喪失して債務弁済が困難な場合の取扱い
  3. 3. 「みなし贈与」算定は税理士に確認を

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個人間での不動産の低額譲渡について、父が祖父から相続した土地(時価6000万円)を子どもに時価の半値の3000万円で譲渡するといった設例で解説します。

売主である父には、譲渡所得税(別途住民税)が以下の通り課税されます。

譲渡価額(3000万円)-取得費(3000万円×5%)=譲渡所得(2850万円)
譲渡所得(2850万円)×税率(20.315%)=譲渡所得税・住民税(約579万円)

計算の前提
✔ 先祖代々の土地で取得費が不明のため、概算取得費5%を適用する。
✔ その他、特例の適用ないものとする。
✔ 所有期間5年超の税率として所得税及び復興特別所得税15.315%+住民税5%を適用する。

売主の譲渡所得の計算は、時価6000万円ではなく、あくまでも実際に買主から支払いを受けた譲渡価額3000万円で行います。

買主である子供からすれば、時価6000万円の土地がその半値である3000万円で手に入ったので、時価6000万円と譲渡価額3000万円の差額3000万円分支払わなくて済んだことになり、その分、得したように思えます。

しかし、このように、譲渡価額が時価よりも著しく低い価額の場合、買主は売主から時価と譲渡価額の差額分の贈与を受けたものとみなされてしまいます。実務上これを「みなし贈与」と呼びます。

時価(6000万円)-譲渡価額(3000万円)=贈与とみなされる金額(3000万円)
贈与とみなされる金額(3000万円)-基礎控除(110万円)=課税価格(2890万円)
課税価格(2890万円)×税率(45%)-控除額(265万円)=贈与税(約1036万円)

計算の前提
✔ 買主がその年中に贈与により取得した財産は他にないものとする。
✔ 相続時精算課税制度の選択はしていないものとする。
✔ 親子間贈与につき、税率は特例税率の要件をみたすものとする。

買主における「みなし贈与」による贈与税の計算例は上記の通りですが、この「みなし贈与」について、いくつか注意点がありますので以下解説します。

今回の設例でも、父と子供の間で土地の時価と譲渡価額の差額3000万円について贈与契約書を作成おらず、口頭での贈与契約も成立していないので贈与税が課税されるのはおかしいと思われる方も多いかと思います。

しかし、「みなし贈与」の規定は当事者間に贈与の意思がなくても適用されてしまいますので注意が必要です。「みなし贈与」は、法形式は贈与ではなく売買であっても、税務上贈与があったものとみなす取扱いになります。

上記の通り「みなし贈与」の規定は、譲渡価額が時価よりも「著しく低い価額」の場合に適用されます。そこで実際に時価に比べてどれくらい低い価額なら「著しく低い価額」となるのかが気になる方も多いかと思います。

しかし、時価の何割以下だと「著しく低い価額」に該当するといった明確な判断基準は税法上規定されていません。

過去の裁判例では、土地について、「相続税評価額と同水準か、それ以上の価額を対価として土地の譲渡が行われた場合、原則として『著しく低い価額』による譲渡とは言うことができず、例外として何らかの事情によりその土地の相続税評価額が時価の80%よりも低くなっており、それが明らかであると認められる場合に限って『著しく低い価額』による譲渡になり得ると解すべきである(東京地裁平成19年8月23日判決)』といった判例があり1つ参考になります。

ただし、どんな場合でも土地の相続税評価額を譲渡価額とすれば「著しく低い価額」に当たらないと判断するのは妥当でないというように、この裁判例に対しては批判も多く存在します。

上記の通り「みなし贈与」の計算にあたっては、譲渡された財産の時価を算定する必要があります。設例では土地の時価6000万円としていますが、この6000万円をどのようにして算定するかが問題となります。

時価の算定方法については税法上明確に規定されていませんが、親族間での不動産売買における時価の算定方法としては実務上、以下の2つの方法が考えられます。

  1. 不動産鑑定士による不動産鑑定評価額
  2. 相続税評価額÷0.8

①の不動産鑑定評価を取るには不動産鑑定士に報酬を支払う必要がありますので、実際には簡便的に時価を求められる②の方法を採用している場合が多いのではないかと思われます。

②の方法は相続税評価額が時価の80%水準であるという前提に基づく算式ですが、相続税評価額が常に時価の80%水準とは限らないので注意が必要です。例えば、首都圏の商業地などでは、相続税評価額が時価(実際の市場での取引価格)の約70%~60%程度の場合も多く見られます。このような場合には②の方法で時価を求めることはできません。

「みなし贈与」の規定は、以下の要件をともに満たす場合には、贈与により取得したとみなされる金額のうち、その債務を弁済することが困難である部分の金額については適用されません。

要件1:買主が資力を喪失して債務の弁済が困難であること
要件2:買主の扶養義務者から当該債務の弁済に充てるために財産の譲渡が行われたものであること

簡単に言えば、子供が債務超過である場合にその債務の弁済のために親が財産を子供に時価よりも低い価額で譲渡しても、その時価と譲渡価額の差額のうち債務超過部分の金額までは「みなし贈与」による贈与税の課税はないということです。

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個人間における不動産の低額譲渡に関して、主に買主側の「みなし贈与」についてその注意点を中心に解説しました。特に、実際の譲渡価額が「著しく低い価額」に該当するか否かの判断や時価の算定方法など難解な部分が多いので、実際に親子間で不動産の売買を行う予定のある場合や既に行ってしまった場合には、「みなし贈与」の課税リスクに関して税理士に確認した方がよいでしょう。

なお、冒頭の二重課税ではないかといった疑問に対する回答としては、売主側の譲渡所得税と買主側のみなし贈与課税は課税される人も異なり、かつ課税対象となる金額も異なりますので二重課税にはなっていません。

(記事は2020年4月1日現在の情報に基づいています)

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