目次

  1. 1. 相続税の課税逃れを防ぐのが贈与税の役目
  2. 2. 贈与税がかかる「贈与」の範囲は広い
  3. 3. 暦年課税制度と相続時精算課税制度
  4. 4. 不動産の贈与税を計算する
  5. 5. 不動産を生前贈与するメリットとデメリット
  6. 6. 贈与税の配偶者控除(通称「おしどり贈与」)
  7. 7. 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税

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贈与税とは、個人から財産を贈与により取得した人に対して、その財産の時価を基に課税される税金です。生前に全財産を相続人らに贈与して相続税の課税逃れを防ぐのが贈与税の役目であり、相続税に比べて基礎控除もかなり小さく、税率の累進度合いも高くなっています。

民法549条によれば、贈与契約が有効に成立するには、財産をあげる人の「あげる」という意思表示と、もらう人の「もらいます」という受諾の両方が必要とされています。例えば、親が認知症で正常な判断ができない状態にもかかわらず、子どものうち1人が親の不動産を本人に贈与する旨の贈与契約書を勝手に作成しても、他の子どもから「親の贈与の意思表示がないのでその贈与契約は無効だ」と主張され争いになる可能性もあります。

贈与税について考える以前にそもそも贈与契約が有効に成立するか、「贈与」の意義に注意が必要です。贈与税がかかる「贈与」としては、上記民法上の贈与だけでなく、税法上贈与とみなされる「みなし贈与」というものがあります。例えば、親の持つ不動産(市場価値3000万円)を子どもが1000万円で買った場合、子どもが時価と購入金額の差額2000万円を親から贈与されたとみなして子どもに贈与税が課されてしまいます。

また、贈与税は財産をあげた人ではなくもらった人が払う税金です。例えば、親が子どもに不動産を贈与したものの、子どもに贈与税を払うだけの現金がなく、親が代わりに子どもの贈与税を払ってあげたら、その贈与税相当額を親が子どもに贈与したことになり、再度贈与税の課税対象となってしまいます。このように、贈与税がかかる「贈与」の範囲はかなり広いので注意が必要です。

贈与税は、毎年1月1日から12月31日までの間に贈与により取得した財産に対して課される税金ですが、その計算方法には暦年課税制度と相続時精算課税制度の2つがあります。両制度を比較すると以下の通りですが、いずれにしても財産をもらった人が贈与税額を計算し(又は、税理士に依頼し)翌年の3月15日までに税務署に申告して納税する必要があります。

一般税率と特例税率の違いは、国税庁のホームページ「贈与税の計算と税率(暦年課税)」をご確認ください。

2023年の税制改正によって、暦年課税制度と相続時精算課税制度の内容が変更されました。暦年課税制度では、2024年1月1日以降の贈与から生前贈与加算の対象期間がこれまでの3年から7年に段階的に延長され、2031年1月1日以降は完全に7年になります。相続時精算課税制度では2024年1月1日以降、特別控除の2500万円とは別に年間110万円までの基礎控除が設けられました。詳しくは以下の記事を参照下さい。
【関連】相続時精算課税制度とは?【改正内容を図解】年110万円非課税 2500万円まで贈与税もかからない

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不動産を生前贈与した場合の贈与税の計算方法について、簡単な設例を用いて紹介します。

親が住んでいる以下の中古住宅(土地建物)を子どもへ贈与する場合を想定しています。
(数値はあくまでも仮定のものです)

贈与税の計算例

不動産を贈与により取得した子どもには、贈与税だけでなく不動産取得税や登録免許税といった税金もかかってきます。

〈不動産取得税の計算例〉
建物の固定資産税評価額1000万円×税率3%(※1)=30万円
土地の固定資産税評価額3000万円×1/2(※2)×税率3%(※1)=45万円
不動産取得税:合計75万円
※1 令和3年3月31日までに取得した土地、住宅用家屋は税率3%とされています(本則4%)。
※2 令和3年3月31日までに宅地を取得した場合、課税標準額が1/2とされています。なお、計算例では考慮外としていますが、一定の耐震基準を満たした中古住宅の不動産取得税の軽減措置などもあります。

〈登録免許税の計算例〉
建物の固定資産税評価額1000万円×税率2% = 20万円
土地の固定資産税評価額3000万円×税率2% = 60万円
登録免許税:合計80万円

贈与の一番のメリットは、自分の意思で好きな相手に好きなタイミングで財産をあげられる点です。遺言を書いて財産を特定の相続人に移転することも可能ですが、法的に問題のない遺言を作成し準備する手間がかかりますし、相続人全員の合意があれば遺言と異なる遺産分割もできてしまいます。

一方デメリットは、特に不動産の贈与の場合、評価額が大きく、贈与税も高くなってしまいがちです。上記計算例で見た通り、贈与税以外にも不動産取得税や登録免許税もかかってきます。相続により取得した場合、不動産取得税は非課税、登録免許税は税率0.4%となりますので、贈与の方が相続よりこれら税金の負担は重いです。しかし、以下のような贈与税の各種特例を活用することで、相続財産が減少し、相続税対策になる場合もあります。

婚姻期間が20年以上の夫婦の間で、居住用不動産又は居住用不動産を取得するための金銭の贈与が行われた場合、基礎控除110万円のほかに最高2000万円まで控除できるという特例があります。通常相続開始前3年以内の贈与に関しては相続財産に足し戻されて相続税の課税対象とされてしまいますが、本特例により控除される部分は加算対象外とされています。

このようにおしどり贈与は一見するとかなりメリットが大きいように見えますが、相続税にも配偶者の税額軽減として、1億6千万円と配偶者の法定相続分相当額のどちらか多い金額まで相続税がかからないという制度があります。したがって、相続税の配偶者の税額軽減の制度を使ってもなお多額の相続税が発生する見込みの資産家等であれば検討の余地はあるかと思われますが、そうでない方は、わざわざ生前におしどり贈与を使う必要があるのか等よく検討して実行する必要があります。なお、おしどり贈与の特例と相続時精算課税制度(特別控除2500万円)の併用はできません。

平成27年1月1日から令和3年12月31日までの間に、父母や祖父母など直系尊属から、住宅取得等資金の贈与を受けた場合において、一定の要件を満たすときは、一定の非課税限度額までの金額について、贈与税が非課税となる特例があります。通常相続開始前3年以内の贈与に関しては相続財産に足し戻されて相続税の課税対象とされてしまいますが、本特例により非課税とされる部分は加算対象外とされています。不動産そのものの贈与に対する特例ではありませんが、適用要件を満たせばまとまった住宅取得等資金を贈与税の課税なく贈与できます。なお、当該特例は、相続時精算課税制度(特別控除2500万円)との併用も可能です。

不動産の生前贈与は、贈与税以外の税金にも注意しなければならず、各種特例を使ってまで生前贈与してもあまり相続税対策にならない場合もあります。今やろうとしている不動産の生前贈与が本当に自身の相続税対策として有効なのか。自身でその見極めが難しい場合には贈与する前に専門家に相談した方がよいでしょう。

(記事は2020年12月1日時点の情報に基づいています)

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