相続税の「按分割合」とは? 節税につながる端数処理の方法を解説
相続税の計算で必ず出てくるのが「按分割合」。小数点以下の端数が生じた場合、その処理法によっては相続税が節税できる場合もあります。按分割合とは何か? 少しややこしいですが、端数を処理する上での工夫などについて元国税専門官のライターが解説します。
相続税の計算で必ず出てくるのが「按分割合」。小数点以下の端数が生じた場合、その処理法によっては相続税が節税できる場合もあります。按分割合とは何か? 少しややこしいですが、端数を処理する上での工夫などについて元国税専門官のライターが解説します。
目次
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相続税の計算において特徴的なのが、「複数の人の税額をまとめて計算する」という点です。相続人や受遺者(以下「相続人」)が複数いる場合、被相続人が残した遺産などから「相続税額の総額」を求め、その金額を相続人ごとに分ける計算を行います。このときに登場するのが、「按分割合」です。按分割合とは、相続税の総額のうち、各相続人がそれぞれ負担する割合を指し、以下の算式で求められます。
按分割合=各相続人の課税価格/課税価格の合計額
なお、上記の課税価格とは、「相続や遺贈によって取得した財産の価額」「相続時精算課税適用財産の価額」「相続開始前3年以内の贈与財産の価額」を合計し、「債務・葬式費用」を差し引いた金額です。
相続税の計算に按分割合が用いられるのは、「各人の相続の多寡に応じて税負担を調整する」という目的のためです。相続税は被相続人の相続財産の金額などをベースに計算されますが、按分割合が計算に加味されることで、各相続人はそれぞれの相続財産以上に相続税を負担することがなくなります。
なお、按分割合を計算すると、割り切れないのが一般的です。小数点以下の端数の取り扱いや相続税申告書への記載については、後ほど解説します。
相続税計算は、「法定相続分の割合」と「按分割合」を使う場面がそれぞれあり、複雑です。計算のステップを以下にまとめましたので、按分割合がどこで登場するかに注目してください。
ステップ1
課税価格の合計額から基礎控除額を引いた「課税遺産総額」に、相続人の法定相続分を掛けます。法定相続分は相続人の構成により決まり、たとえば妻と子2人が相続人という場合、妻は1/2、子はそれぞれ1/4ずつの法定相続分となります。
ステップ2
ステップ1で計算した金額に、相続税の税率を掛けて税額を計算します。税率は、法定相続分に応じた金額によって、10〜55%の範囲で適用されます。
ステップ3
ステップ2の税額を合計し、「相続税の総額」を求めます。
ステップ4
相続税の総額に、各人の按分割合を掛けます。本記事で解説している「按分割合」が登場するのがこのタイミングです。
ステップ5
2割加算や、配偶者控除などの税額控除による調整を行い、各自の納付税額を求めます。最終的に納税する金額を把握するには、ここまで計算しなくてはなりません。
次に、相続税を計算する際、按分割合に端数が出たときの処理を説明します。按分割合は、遺産分割の内容などにより変動し、多くの場合、割り切れません。
相続税の申告書では、按分割合は小数点以下第10位まで記載できるようになっていますが、ここで注意したいのが、「各相続人の按分割合の合計を1にしなくてはならない」という点です。
つまり、按分割合が割り切れない場合、各相続人の按分割合をすべて小数点以下第10位で一律に四捨五入したり、切り捨てたりすると、合計が「1.00」にならないおそれがあります。そこで国税庁では、法令解釈通達において、以下のとおり取り扱いを示しています。
法令解釈通達 相続税法第16条《相続税の総額》関係 16-1
「法第17条に規定する「財産を取得した者に係る相続税の課税価格が当該財産を取得したすべての者に係る課税価格の合計額のうちに占める割合」に小数点以下2位未満の端数がある場合において、その財産の取得者全員が選択した方法により、各取得者の割合の合計値が1になるようその端数を調整して、各取得者の相続税額を計算しているときは、これを認めて差し支えないものとする。
なお、上記の方法を選択した者について相続税額を更正する場合には、その選択した方法によって相続税額を計算することができるものとする。」
この法令解釈通達の内容を簡単にまとめると、「小数点以下第2位未満の端数については、相続人全員の合意によって調整できる」ということです。たとえば相続人が3人いたとして、按分割合がそれぞれ0.333333…だった場合、「0.331、0.331、0338」でも、「0.333、0.333、0.334」でも問題ありません。一方、小数点第2位までは調整ができないため、「0.3、0.3、0.4」といった割合に調整するのは不可能です。
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相続の相談が出来る税理士を探す先ほど紹介した法令解釈通達にあるとおり、按分割合は、小数点以下第2位未満に限っては恣意的に調整することが可能です。ただし、「認めて差し支えないものとする」と定められていることから、自動的に相続人に有利な計算がなされるわけではなく、相続人が自らルールを活用してはじめて節税に役立てることができます。
たとえば、配偶者控除や小規模宅地の特例などを使って税額が低くなる人は、それらの特例のメリットを最大限活用するために、あえて按分割合を上げるという方法が考えられます。逆に、2割加算が適用される孫養子などの場合は、按分割合の端数を切り下げたほうがいいでしょう。
今回の記事でご紹介したとおり、相続税を計算するとき、「按分割合」を考慮することは重要です。たとえば相続税の総額が1億円なら、端数が0.005変わるだけで税額は50万円変わりますから税額への影響は侮れません。また、按分割合の小数点以下の桁数を少なく整理することで、相続税の計算誤りを防ぐという副次的な効果も期待できます。
ただし、按分計算の端数調整の影響を知るには、実際に相続税の総額を計算する必要があります。早めに相続税対策を練るためにも、財産確認などを急ぎ、必要に応じて税務署や税理士などに相談をすると良いでしょう。
(記事は2021年2月1日時点の情報に基づいています)
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