相続税申告でタンス預金はバレるのか? 時効は? 税務署のペナルティーも解説
相続財産の中には自宅に保管しているお金、いわゆる「タンス預金」が含まれることがあります。こういった第三者が知らないお金は、相続税の時効が成立すれば申告しないで済むのでしょうか。税務署にバレるリスクやペナルティーも含め、専門家が解説します。
相続財産の中には自宅に保管しているお金、いわゆる「タンス預金」が含まれることがあります。こういった第三者が知らないお金は、相続税の時効が成立すれば申告しないで済むのでしょうか。税務署にバレるリスクやペナルティーも含め、専門家が解説します。
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タンス預金とは、数十万円、数百万円などのまとまった現金を自宅に保管しておくことをいいます。日本では昔からタンスに貴重品をしまっていたことから「タンス預金」と名付けられましたが、保管場所は机の引き出しや押し入れでも同様です。
タンス預金は自宅で保管している資金なので人目にふれることがありません。タンス預金から子どもや孫に贈与すれば、税務署にバレず、相続税や贈与税も免れると思うかもしれません。しかし、タンス預金から贈与すれば贈与税が、タンス預金のまま持ち主が亡くなれば相続税がかかります。単にお金の保管場所が銀行か自宅かの違いですから、申告や納税は必要です。
後に詳しく説明しますが、タンス預金による脱税が発覚すると重いペナルティーが科されることになります。
タンス預金をためていて、相続税がどうなるのかと不安を覚えている人もいるでしょう。税理士に相談すれば必要な対応策をアドバイスしてもらえます。
税の申告には「時効」があります。時効とは、法理上正当な状態でなくても、長年続いた状態を正しい状態と認めることを言います。申告漏れや未納、課税逃れでいうと、過去に不法な行為があっても、一定期間が過ぎれば本来受けるはずの処罰が免除されることとなります。
「タンス預金をすれば、時効の成立で申告・納税から逃げ切れる」可能性を考えてみましょう。
相続税の申告・納税の時効は、「善意なら5年、悪意なら7年」です。起算日は「相続税の申告期限」、つまり「相続開始を知った日の翌日から10か月目」となっています。文字通りに考えると、6~8年弱タンス預金を隠し通せれば申告・納税の義務を免れるのです。
なお「善意」「悪意」は法律用語です。善意は「(ある事実を)知らなかったこと」、悪意は「(ある事実を)知っていたこと」を指します。ここでの「ある事実」とは、「相続税の申告・納税をする義務があるという事実」です。
「相続税の申告・納税の義務について悪意があった」とは、「わざと無申告にした」「申告しなければいけないとは分かっていたが、申告期限を忘れた」「相続財産を隠した」などです。単に忘れていただけでも「悪意」と判断されるようなケースでは、逃げきるまでに7年10か月かかります。
「数年バレない自信があるので相続税から逃げ切れる」と思いたいところですが、実際には難しいでしょう。なぜなら税務署は容易に相続財産を把握できるからです。
後でもお話ししますが、税務署は国民の所得や財産状況を把握する独自の管理システムを構築しています。また、親族が市区町村に提出した死亡届の情報は、税務署に通知されます。ここから故人の財産状況の見当をつけるのです。
「それなりに財産があるのに相続税の申告がされていない」となれば、税務署は「相続税についてのお尋ね」という文書を出し、相続人に確認します。これは通常、相続が発生してから半年から8か月後くらいです。お尋ねを出しても申告がなければ税務調査になります。
こういったことから、タンス預金が相続税から逃げ切るのは難しいのです。
タンス預金は高確率で税務署にバレます。次のような仕組みがあるからです。
KSKとは国税庁と全国の国税局、税務署を結ぶネットワークです。税務署は、この仕組みで国民の収入や財産を把握しています。KSKでは、申告・納税の事績や様々な情報を一元管理しています。納税者ごとの詳細なデータを検索することもできるのです。
税務調査では「質問」「実地調査」が行われます。質問では、被相続人については生い立ちや経歴や趣味、交友関係、蓄財の方法などを、相続人については経歴や職業、現在の収入などを聞くことが多いです。雑談で始まりますが、さりげない一言や質問からタンス預金がバレることがあります。
実地調査では通帳や印鑑などが調べられますが、対象は被相続人のものだけではありません。相続人のものも見られます。他に、通帳を保管している家具の引出や家庭内の金庫、銀行にある貸金庫も調査対象です。
実地調査で実態が把握しきれなければ、「反面調査」を行います。取引銀行や、被相続人と生前に交流のあった個人を訪ね、情報の入手を図るのです。「怪しい」と見たら、徹底的に調べます。
税務調査では、預貯金の記録は最短でも過去10年分を調べます。たとえば100万円を超えるような多額の引き出しがあるのに、支出目的が不明で合理的な説明がされなければタンス預金の可能性が疑われます。
申告しなかったタンス預金がバレると、次のペナルティーを負う破目になります。
無申告加算税は申告期限までに確定申告をしなかったときに科されます。税率は、納付すべき税額のうち50万円までは15%、50万円超の部分については20%です。なお、2023年度税制改正により、2024年1月1日以降、50万円超300万円以下の部分は20%、300万円超の部分は30%となります。
ただし、期限後1カ月以内に申告したり、税務調査の通知前に自主申告すれば軽減されます。逆に、悪質だと判断されれば、代わりに重加算税がかかります。後述しますが、重加算税はより重いペナルティーです。
既に申告した税金が少なすぎたり、還付額が多すぎたりするときに発生します。税率は追納する税金のうち50万円までは10%、50万円超の部分は15%です。
ただし、税務調査の通知前に自主申告をすれば科されません。
延滞税は、法定納期限までに納税されないときのペナルティーです。納期限の翌日から完納されるまでの日数に応じ、該当する税率を納付すべき税額に乗じて計算します。2023年分の税率は、次の通りです。
悪質なごまかしや隠ぺいがあると見られると、無申告加算税や過少申告加算税に代えて重加算税が科されます。過少申告加算税の代わりなら35%、無申告加算税の代わりなら40%です。
この他、脱税だと判断されると、追徴課税だけでは済まずに刑事罰を受ける可能性があります。相続税法第68条では「偽りその他不正の行為により相続税又は贈与税を免れた者は、10年以下の懲役若しくは1,000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」と定められています。
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相続の相談が出来る税理士を探すタンス預金には他にもデメリットがあります。一つは滅失リスクです。自宅に多額の現金を置いていると、空き巣などに狙われ盗難の被害にあう恐れがあります。また、家が火事に遭ったり、台風や豪雨で浸水したりすれば、現金が消失してしまうかもしれません。
もう1つは、申告の要不要を判定しにくい点です。「正味の遺産総額」が「基礎控除額」以内に収まっていれば、申告は不要ですが、一般の人にはなかなか判断できません。土地や建物、美術品といった財産の評価額はすぐに分からないからです。
これに加え、タンス預金という「現金だけどすぐにいくらか把握できないもの」があると、余計に判断を誤りやすくなります。「うちは大して財産がないし、すべて合計しても基礎控除額以下だから大丈夫」と思っても、タンス預金を加えて正しく計算したら実は基礎控除額を超えていた、ということもあります。この状況を税務署から指摘されたら、相続税に加え、無申告加算税や延滞税を納めることになるのです。
被相続人が認知症であったとすれば、タンス預金をどこに保管したかも分からなくなり、そもそも存在すら忘れてしまうことがあります。後に見つかって遺産分割のやり直しをすることになったり、最悪の場合はそのまま紛失してしまうかもしれません。
過少申告と思われた場合の税務調査は、相続税の申告をした翌年か翌々年です。無申告の場合は相続が発生してから半年~8か月後くらいに税務署から「相続税についてのお尋ね」という文書が届きます。それでも返信や申告がなければ税務調査が入る可能性が生じます。
生活費の延長線上として数十万円自宅に保管する、という程度ならあまり気にすることはありません。一般的には預貯金の口座から100万円を超える使途不明の出金があれば、税金逃れを疑われ税務調査が入りやすくなります。タンス預金そのものが違法なわけではなく、相続が発生したときにきちんと申告すればいくらタンス貯金をしても問題はありません。
すべての財産を洗い出して申告の要不要を判定するのは、とても大変です。そして、相続税の申告は相続開始を知った日以後10か月以内と決まっています。タンス預金を含む相続財産の申告・納税作業は、一般の人に荷が重すぎるかもしれません。
タンス預金の扱いに悩んだり、申告の要不要の判定に困ったりしたら、税理士に相談しましょう。
(記事は2023年7月1日時点の情報に基づいています)
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