タンス預金は時効で相続税から逃げきれるか

税の申告には「時効」があります。「タンス預金をすれば、時効の成立で申告・納税から逃げ切れる」可能性を考えてみましょう。

●相続税には時効がある

相続税の申告・納税の時効は、「善意なら5年、悪意なら7年」です。起算日は「相続税の申告期限」、つまり「相続開始を知った日の翌日から10か月目」となっています。文字通りに考えると、6~8年弱タンス預金を隠し通せれば申告・納税の義務を免れるのです。

なお「善意」「悪意」は法律用語です。善意は「(ある事実を)知らなかったこと」、悪意は「(ある事実を)知っていたこと」を指します。ここでの「ある事実」とは、「相続税の申告・納税をする義務があるという事実」です。

「相続税の申告・納税の義務について悪意があった」とは、「わざと無申告にした」「申告しなければいけないとは分かっていたが、申告期限を忘れた」「相続財産を隠した」などです。単に忘れていただけでも「悪意」と判断されるようなケースでは、逃げきるまでに7年10か月かかります。

●時効で逃げ切るのは難しい

「数年バレない自信があるので相続税から逃げ切れる」と思いたいところですが、実際には難しいでしょう。なぜなら税務署は容易に相続財産を把握できるからです。

後でもお話ししますが、税務署は国民の所得や財産状況を把握する独自の管理システムを構築しています。また、親族が市区町村に提出した死亡届の情報は、税務署に通知されます。ここから故人の財産状況の見当をつけるのです。

「それなりに財産があるのに相続税の申告がされていない」となれば、税務署は「相続税についてのお尋ね」という文書を出し、相続人に確認します。これは通常、相続が発生してから半年から8か月後くらいです。お尋ねを出しても申告がなければ税務調査になります。

こういったことから、タンス預金が相続税から逃げ切るのは難しいのです。

タンス預金は税務署にバレるのか

タンス預金は高確率で税務署にバレます。次のような仕組みがあるからです。

●KSK(国税総合管理システム)で一元管理

KSKとは国税庁と全国の国税局、税務署を結ぶネットワークです。税務署は、この仕組みで国民の収入や財産を把握しています。KSKでは、申告・納税の事績や様々な情報を一元管理しています。納税者ごとの詳細なデータを検索することもできるのです。

●税務調査では質問、実地調査、反面調査でタンス預金をつかむ

税務調査では「質問」「実地調査」が行われます。質問では、被相続人については生い立ちや経歴や趣味、交友関係、蓄財の方法などを、相続人については経歴や職業、現在の収入などを聞くことが多いです。雑談で始まりますが、さりげない一言や質問からタンス預金がバレることがあります。

実地調査では通帳や印鑑などが調べられますが、対象は被相続人のものだけではありません。相続人のものも見られます。他に、通帳を保管している家具の引出や家庭内の金庫、銀行にある貸金庫も調査対象です。

実地調査で実態が把握しきれなければ、「反面調査」を行います。取引銀行や、被相続人と生前に交流のあった個人を訪ね、情報の入手を図るのです。「怪しい」と見たら、徹底的に調べます。

●預貯金は過去10年分にさかのぼって調べる

税務調査では、預貯金の記録は最短でも過去10年分を調べます。例えば、ここで100万円を超えるような多額の引き出しがあるのに、合理的な説明がされなければタンス預金の可能性が疑われます。

無申告の場合には重いペナルティー

申告しなかったタンス預金がバレると、次のペナルティーを負う破目になります。

●無申告加算税

無申告加算税は申告期限までに確定申告をしなかったときに科されます。税率は、納付すべき税額のうち50万円までは15%、50万円超の部分については20%です。
ただし、期限後1カ月以内に申告したり、税務調査の通知前に自主申告すれば軽減されます。逆に、悪質だと判断されれば、代わりに重加算税がかかります。後述しますが、重加算税はより重いペナルティーです。

●過少申告加算税

既に申告した税金が少なすぎたり、還付額が多すぎたりするときに発生します。税率は追納する税金のうち50万円までは10%、50万円超の部分は15%です。
ただし、税務調査の通知前に自主申告をすれば科されません。

●延滞税

延滞税は、法定納期限までに納税されないときのペナルティーです。納期限の翌日から完納されるまでの日数に応じ、該当する部分のを納付すべき税額に乗じて計算します。令和3年分の税率は、次の通りです。

・納期限の翌日から2か月以内の部分…年2.5%
・納期限の翌日から2か月を超えた部分…年8.8%

●重加算税

悪質なごまかしや隠ぺいがあると見られると、無申告加算税や過少申告加算税に代えて重加算税が科されます。過少申告加算税の代わりなら35%、無申告加算税の代わりなら40%です。
この他、脱税だと判断されると、刑事罰を受ける可能性があります。

タンス預金に悩んだら税理士に相談を

タンス預金には他にもデメリットがあります。一つは滅失リスクです。自宅に現金を置いていると、盗まれる恐れがあります。また、家が火事に遭ったり、台風や豪雨で浸水したりすれば、現金が消失してしまうかもしれません。

もう1つは、申告の要不要を判定しにくい点です。「正味の遺産総額」が「基礎控除額」以内に収まっていれば、申告は不要ですが、一般の人には判断できません。土地や建物、美術品といった財産の評価額はすぐに分からないからです。

これに加え、タンス預金という「現金だけどすぐにいくらか把握できないもの」があると、余計に判断を誤りやすくなります。「うちは大して財産がないし、すべて合計しても基礎控除額以下だから大丈夫」と思っても、タンス預金を加えて正しく計算したら実は基礎控除額を超えていた、ということもあります。この状況を税務署から指摘されたら、相続税に加え、無申告加算税や延滞税を納めることになるのです。

すべての財産を洗い出して申告の要不要を判定するのは、とても大変です。そして、相続税の申告は相続開始を知った日以後10か月以内と決まっています。タンス預金を含む相続財産の申告・納税作業は、一般の人に荷が重すぎるかもしれません。

タンス預金の扱いに悩んだり、申告の要不要の判定に困ったりしたら、税理士に相談しましょう。

(記事は2021年2月1日時点の情報に基づいています)