夫婦で契約する「ペアローン」 課税対象になる借り換えや繰り上げ返済は慎重に
共働きの夫婦の場合、夫と妻それぞれが住宅ローンを契約する「ペアローン」という方法があります。メリットは、夫と妻それぞれで所得税の住宅ローン控除を適用できる点などが挙げられますが、将来の借り換え時など一定の場面において贈与税が課税されるリスクがある点に注意が必要です。そうならないための注意点と対処法を税理士が解説します。
共働きの夫婦の場合、夫と妻それぞれが住宅ローンを契約する「ペアローン」という方法があります。メリットは、夫と妻それぞれで所得税の住宅ローン控除を適用できる点などが挙げられますが、将来の借り換え時など一定の場面において贈与税が課税されるリスクがある点に注意が必要です。そうならないための注意点と対処法を税理士が解説します。
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ペアローンに関連して、夫婦間で贈与税がかかる可能性のある場面をいくつか例示すると以下の通りです。
例えば、夫名義のローン残高2000万円、妻名義のローン残高1000万円である夫婦において、夫が単独名義の3000万円のローンに借り換えて、妻名義のローン1000万円を一括返済した場合、夫から妻に対して1000万円の贈与があったとされ、妻に贈与税が課税されてしまいます。
例えば、夫名義のローン残高2000万円、妻名義のローン残高1000万円である夫婦において、夫が妻名義のローンのうち200万円を繰り上げ返済した場合、夫から妻に対して200万円の贈与があったとされ、妻に贈与税が課税されてしまいます。
例えば、夫名義のローン残高2000万円、妻名義のローン残高1000万円である夫婦において、妻名義のローン1000万円を妻の親が肩代わりして返済した場合、妻の親から妻に対して肩代わりした額相当の贈与があったとされ、妻に贈与税が課税されてしまいます。
また、子供が両親のローンを肩代わりして返済する場合も同様に、子供から両親に対して、肩代わりした額相当の贈与があったとされ、両親に贈与税が課税されてしまいます。
なお、本来ローンを返済すべき人が資力を喪失してローンを弁済することが困難と認められる場合において、その人の配偶者、両親、子供等がローンを肩代わりして返済した時は、贈与があったとみなされないこととされていますが、資力を喪失しているか否かの判断はケースバイケースで一概には判断困難です。
上記の「借り換えを行った場合」で、夫から妻へ1000万円の贈与があったとされたとき、妻にどれくらいの贈与税が課税されるのか以下ご紹介します。
贈与税の計算方法は、大きく分けて、暦年課税と相続時精算課税の2つがありますが、後者の相続時精算課税は、夫婦間の贈与では選択できませんので、暦年課税で計算することになります。暦年贈与の場合、その年の1月1日から12月31日までの1年間に贈与された財産の価額から基礎控除110万円を控除し、その残額に応じて贈与税率を乗じて一定額を控除して贈与税額を計算します。
以下設例では、妻は贈与された年の翌年の3月15日までに贈与税申告と納税(231万円)を行う必要があります。もし期限までに申告納税しないと、ペナルティとして贈与税(231万円)以外に延滞税と加算税が課税されてしまいます。
【夫から妻へ1000万円の贈与があった場合の妻の贈与税の計算例】
1000万円-110万円=890万円
890万円×40%-125万円(注)=231万円(妻の贈与税)
(注)夫婦間贈与の贈与税率と控除額は、国税庁HPタックスアンサー「No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)」を参照ください。
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相続の相談が出来る税理士を探す先に贈与税が課税されるケースをご紹介しましたが、贈与税が課税されないためにはどうすればよいか、以下ケースごとにいくつか方法をご紹介します。
この場合、贈与税が課税されないためには、単に夫が妻名義のローン1000万円を返済するのではなく、夫から妻に1000万円を貸し付けて、妻が夫から借りた1000万円で自己名義のローン1000万円を返済する方法が考えられます。ただし、口頭でのお金の貸し借りの約束では証拠力が乏しいので、夫婦間であっても金銭消費貸借契約書を書面で作成しておくことが望ましいです。なお当然ですが、この場合、妻は夫に1000万円を返済する必要があります。
この場合、贈与税が課税されないためには、上記と同様に夫婦間で金銭消費貸借契約書を作成して夫から妻に金銭貸付を行う方法もあります。他には、夫が、妻名義のローンのうち繰り上げ返済してあげる金額を暦年課税の基礎控除110万円以下に抑えれば贈与税は課税されません。この場合、夫婦間でも毎年贈与契約書を書面で作成しておくことが望ましいです。
妻名義のローン1000万円を妻の親が肩代わりして返済した場合、妻の親から妻へ、肩代わりした額相当について贈与があったとされますが、このような親から子への贈与の場合、以下の年齢要件を満たせば、相続時精算課税の選択ができます。相続時精算課税では、暦年課税の基礎控除110万円ではなく、2500万円の特別控除が適用されますので、仮に妻の親が妻のローン1000万円を一括返済した場合でも、贈与税の課税を一旦回避し、親の相続時に相続財産に足し戻して精算することができます。
<相続時精算課税の年齢要件>
贈与者(親):贈与をした年の1月1日において60歳以上
受贈者(子):贈与を受けた年の1月1日において18歳以上
また、子供が両親のローンを肩代わりして返済する場合も同様に、子供から両親に対して、肩代わりした額相当の贈与があったとされますが、この場合には、既に解説した金銭消費貸借契約書を作成して子供から親に金銭貸付を行う方法か、子供が毎年の親のローンの返済額を基礎控除110万円以下に抑えて、毎年贈与契約書を作成する方法が考えられます。
贈与税が課税されない方法をいくつかご紹介しましたが、実行するには贈与契約書を作成したり、暦年課税の基礎控除110万円に注意したり、相続時精算課税の選択を検討したりと注意すべき事項が多いです。特にローン残高が多額の場合には贈与とみなされた場合の贈与税課税リスクも大きくなりますので、借り換え等具体的に実行に移す前に税理士に相談した方がよいでしょう。
(この記事は2022年10月1日現在の情報に基づきます)
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