自筆証書遺言で遺族を困らせないために 失敗例から学ぶ正しい書き方
自筆証書遺言は自分で書ける手軽さがある一方で、形式に不備があると無効になることや、内容によっては将来の相続時に遺族を困らせてしまう可能性があります。今回は、自筆証書遺言で陥りがちな失敗例から、正しく書くポイントを紹介します。
自筆証書遺言は自分で書ける手軽さがある一方で、形式に不備があると無効になることや、内容によっては将来の相続時に遺族を困らせてしまう可能性があります。今回は、自筆証書遺言で陥りがちな失敗例から、正しく書くポイントを紹介します。
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7月10日から始まった法務局で自筆証書遺言を保管する制度は、これまでにない大変優れた特徴があります。「自分が亡くなるまで、わずか3900円の手数料で保管してもらえる」「自分が亡くなった後に、相続人の一人が遺言書の証明書を請求すると、他の相続人や受遺者、遺言執行者に遺言書が法務局に保管されていることが通知される」「家庭裁判所での検認が不要」「自筆証書遺言の形式(自筆であること、日付・署名・押印の有無)が確認される」ことがメリットです。
一方、「遺言書の内容について確認や助言はされない」ことに注意が必要です。遺言書の形式は整っていて遺言自体は有効であるものの、内容や表現が不正確な場合や少し配慮が足りない場合に、将来の遺言執行の場面で、時々困ったことが起こります。
自筆証書遺言を作成しても、ちょっとしたことで遺言書が無効になることや、相続人同士の争いのもとになることがあります。こうした失敗例をご紹介します。
この遺言では「500万円を二男次郎に」を書き加えています。しかし、自筆証書遺言の訂正方法は民法に定められており、「変更した旨を付記して署名する」ことも求められています。この例では「11字加筆」と書いた上で、訂正箇所に遺言者の氏名を署名する必要があります。
長女と二男の仲が良ければ、この遺言の訂正部分が有効か否か速やかに合意できると思いますが、そうでない場合は争いの元になってしまいます。
正しく訂正するのは難しいので、面倒でも最初から書き直すことをおすすめします。
私のすべての財産を弟、健二に任せます。
私は、私の財産を知人、朝日太郎に託します。
この遺言にある「任せます」「託します」は遺言書に使いがちですが、はたして任せるとは相続手続きを依頼する意図なのか、財産を分け与える意図なのかがハッキリしません。他に相続人がいる場合に、遺言の解釈を巡って争いになる可能性があります。
相続人には「相続させる」、相続人以外には「遺贈する」と書くのが良いのですが、「取得させる」「配分する」でも意味は通じるでしょう。財産を与える意図を明確に表現することが大切です。
遺言者は、遺言者の有する預貯金を姪朝日花子に、その余の財産を甥朝日一夫に相続させる。
この遺言では「預貯金」と書いてありますが、株式や投資信託があった場合は誰に配分する意図なのでしょうか。例えば、遺言者は銀行に普通預金・定期預金・投資信託の取引があり、自宅を所有していたとします。仮に「姪にはお金を、甥には不動産を」と思っていたとしても、この遺言では投資信託が甥へ配分されると解釈される可能性が高いでしょう。
甥と姪との間で円満に解決できれば良いのですが、争いになることもあります。株式や投資信託などの有価証券も含める意図であれば「遺言者の有する金融資産」などの表現が良いでしょう。
自筆証書遺言そのものが無効にならなくても、遺言者の想いが実現できないことや遺言の執行が速やかにできないことがあります。こうした失敗例をご紹介します。
私は、X銀行にある預金から100万円を公益財団法人Yに遺贈する。
問題のない遺言に見えますが、もしも遺言者が遺言作成後にX銀行の取引をZ銀行に移した場合はどうなるでしょうか。遺言者が亡くなり、遺言の執行をする時にはX銀行に預金等はありませんので、結局、Y財団には1円も遺贈されません。財産の移動は遺贈の撤回とみなされます。
しかし、遺言者の真意が遺贈の撤回ではなく、単に遺言内容を忘れて銀行取引を変更しただけの場合、遺言者の善意の想いは叶えられない結果になってしまいます。
遺言内容をずっと覚えておくのは大変なので、「私の取引のある金融機関の金融資産から」と書いておけば、どの銀行や証券会社と取引しても、遺贈寄付の意思を実現することができます。
私は、私が有するすべての金融資産を遺言執行者にて換金させ、知人朝日太郎へ10分の9、NPO法人Aへ10分1の割合で遺贈する。
昨今は様々な金融商品が一般に広まっています。その中には簡単に換金できない金融商品も含まれています。例えば、仕組預金・仕組債・クローズド期間のある投資信託などがこれにあたります。遺言執行の際に一定期間換金できず、執行がなかなか完了しないことがあります。一方、換金しない場合でも、分割が困難になるケースもあります。同様のことが不動産でもしばしば起こります。
換金や分割が難しい財産は、財産ごとに受取人を定めるなどの工夫が必要です。
遺言者は、本遺言の遺言執行者に知人朝日太郎を指定する。
友人に遺言執行をお願いする方もいますが、友人も遺言者と同年代の場合が多いと思います。そうすると、遺言者が死亡する時には友人も高齢になっていて、遺言執行が困難なことが予想されます。これは専門家に依頼する場合も同じです。
自分より年下の方か、信託銀行などの法人を遺言執行者に指定した方が安心です。
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相続の相談が出来る弁護士を探す遺言はハッキリ表現しないと解釈の余地が生まれてしまい、争いのもとになる可能性があります。どのような表現がハッキリするのかは、市販の遺言書作成キットの他、「遺贈寄付ハンドブック」(日本ファンドレイジング協会発行)の「遺言書サンプル」、WEBサイト「いぞう寄付の窓口」の「遺言書文例選択ツール」などを参考にしても良いでしょう。
また、遺言作成後に相続人や財産が変化した場合は、その変化に合わせて遺言を書き換えすることが理想ですが、実際に何度も書き換えする方は少ないと思います。そこで、財産などの状況が多少変化しても書き換えしなくて済むように、財産を金額指定ではなく割合で配分する、予備的遺言(補充遺言)で場合分けをする等の工夫が必要です。そのためには、自分の人生がどのような方向に進んで行くのか、想像力を働かせることが重要です。遺言は自分の過去を振り返ると同時に、未来を想像することでもあります。そして最後に、専門家に自筆証書遺言のチェックを受けることも忘れないでください。
(記事は2020年9月1日現在の情報に基づきます)
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