「法的に有効な遺言が、相続人や受遺者(遺贈を受ける人)の前に提示されれば、あとは心配なく遺贈が実行されるに違いない」。遺贈の意思を盛り込んだ遺言を作成して、ほっとする人もいると思いますが、安心するのは早計です。

たとえ遺留分を侵害していなくても、相続人が「遺贈を認めたくない」と主張して、もめる場合があります。相続人だけで分割するものと思っていた遺産が、第三者に渡ることを感情的に受け止めきれないのだと思います。感情だけに、うまく説得するのは厄介です。

こういった事態に陥るのを防ぐ主な対策は、二つ考えられます。

このうち、一つは相続人の納得を得る努力です。

生前から相続人に相談を

まず、生きている間に相続人に「自分は遺贈をしたい」と意思を表明して話し合うことです。なぜ、その団体に遺贈したいのか。理由などを話すのです。

とはいえ、これはすべてのケースにあてはまるわけではありません。相続人との関係は様々でしょうから、あくまで話し合える関係性があることが前提です。そんな関係性があれば、そもそも死後にトラブルになることはあまりないでしょうが…。

最後のメッセージ「付言事項」も活用を

遺言には、相続分の指定など相続に関すること、遺贈も含めた財産の処分に関すること、子どもの認知など身分に関すること、遺言内容を実行する遺言執行者の指定などについて書くことができます。これを「法定遺言事項」といいます。

これに対し、「付言事項」というものもあります。法的な効力はないものの、ラストメッセージとしての役割もあります。家族への感謝の言葉や遺言を書くに至った経緯、墓や身の回りの品の処分に関する指示などを書くことが多いようです。

遺贈をする場合、この団体に、どんな思いで寄付しようと考えたのかをここに記します。人生最後のメッセージを残すわけです。真摯な言葉で気持ちを記せば、思いを尊重してもらいやすくなり、相続トラブルにもなりにくいと言われます。

遺言執行者を指定する

三つ目の対策は、遺言執行者を指定しておくことです。遺言に従って不動産の売却や債務の清算、遺贈の手続きなどを実際に執行する人です。

たとえば、遺言執行者が相続人から「遺贈などやめろ」と、圧力を受けて揺らいでしまうようだと、トラブルになりかねません。

たとえ相続人を説得できない最悪の事態になっても、誠実に遺言内容を執行できる第三者に託したいところです。友人でもいいのですが、弁護士や信託銀行なども考えられます。

弁護士や司法書士、友人など個人を信頼して遺言執行者になってもらう場合、先に亡くなるリスクもあります。対策として、遺言執行者を法人としての法律事務所にしておくとか、遺言執行者が先に死亡する場合に備え、新たな遺言執行者を指定しておくことも考えておきましょう。

さらに、託すことを具体的に指示しておけば、遺言執行者は動きやすくなります。たとえば「○条記載の不動産の所有権移転登記手続きをする権限、そのほか遺言執行のための一切の権限を付与する」といった形です。ただ、自力で自筆証書遺言を書くとなると、少々、ハードルが高いかもしれません。

遺贈先がなくなってしまうと

最後に、レアケースですが、遺贈しようと思っていたNPOなどの団体が、本人が知らないままで解散するなど、団体としての実体が無くなった場合を考えておきましょう。

何も指示していないと、宙に浮いた遺贈分は相続人で分割協議することになります。「どうしても特定の団体でなければ遺贈しない」という考えなら別ですが、何らかの形で社会に還元したいという思いがあるからこその遺贈だと思います。

まずは連載3回目のように「信頼できる団体」を選んでおくことが大事ですが、万一に備える方法を解説しましょう。

参考になるのが、環境保護に取り組む弁護士の団体「JELF(日本環境法律家連盟)」が実施している「みどりの遺言プロジェクト」です。詳細は別の機会に紹介したいと思っていますが、JELFは信頼できると判断した環境保護団体をリストアップしています。環境保護に遺贈したいと考える人には、その中から団体を選んでもらった上で、遺言作成・執行まで手伝う活動に取り組んでいます。

いくらしっかりした団体を選んでいても、解散などのリスクはゼロではありません。このため、JELFでは「遺言執行者が新たな遺贈先を選ぶ」という文言を加えています。

「だからこそじっくりと話を聴き、遺贈者がなぜ、何をどう遺したいのかをきちんと理解する必要があるのです」と、JELF代表の池田直樹弁護士は話します。

万一の事態に備えるには、「別の団体への遺贈を予備的遺言で指定する」「遺言執行者や特定の家族の判断に遺贈先をゆだねる」といった指示を加えておけば安心でしょう。

以上のような工夫で、遺贈が実行されないリスクはかなり減らせることができると思います。次回は、自筆証書遺言のリスクを減らす制度の開始についてです。

(記事は2020年4月1日時点の情報に基づいています)