目次

  1. 1. 農地の所有に制限を設ける「農地法」
  2. 2. 取得できるのは原則として「農業に専業できる人」

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金融資産などの動産と異なり、一般的に不動産は処分に時間がかかり、管理にも固定資産税などのコストがかかります。賃貸駐車場や宅地の需要がある地域では処分に困ることは相対的に多くありません。

ですが、人口減少が進んだ地域では、不動産の需要は低下傾向にあり、資産価値があるとは断言できなくなりつつあります。不動産を処分しようと考えても、引き取り手が見つからなければ、一般的に土地の管理義務を免れることはできません。

前回の記事で紹介した60代の女性が売却しようとした物件は、都市部から離れた農村にあります。人口が減少しており不動産の流動性が低い地域ではあるものの、買い手を見つけることができました。ところが、宅地と異なり、農地は売買などの権利移転に制限が課されます。事例では、売買予定の土地に「畑」「田」が含まれていました。

女性は農地を含む土地・建物一式を現況のまま、知人に売却したいと考えていました。
農地法の規定のうち、個人間で土地の用途を変更しない場合の、農地の所有権移転等については、農地法第三条に規定があります。関連する部分を抜粋します。

第三条 農地又は採草放牧地について所有権を移転し、又は地上権、永小作権、質権、使用貸借による権利、賃借権若しくはその他の使用及び収益を目的とする権利を設定し、若しくは移転する場合には、政令で定めるところにより、当事者が農業委員会の許可を受けなければならない。
(中略)

2 前項の許可は、次の各号のいずれかに該当する場合には、することができない。
(中略)

一 所有権、地上権、永小作権、質権、使用貸借による権利、賃借権若しくはその他の使用及び収益を目的とする権利を取得しようとする者又はその世帯員等の耕作又は養畜の事業に必要な機械の所有の状況、農作業に従事する者の数等からみて、これらの者がその取得後において耕作又は養畜の事業に供すべき農地及び採草放牧地の全てを効率的に利用して耕作又は養畜の事業を行うと認められない場合

二 農地所有適格法人以外の法人が前号に掲げる権利を取得しようとする場合

三 信託の引受けにより第一号に掲げる権利が取得される場合

四 第一号に掲げる権利を取得しようとする者(農地所有適格法人を除く。)又はその世帯員等がその取得後において行う耕作又は養畜の事業に必要な農作業に常時従事すると認められない場合

五 第一号に掲げる権利を取得しようとする者又はその世帯員等がその取得後において耕作の事業に供すべき農地の面積の合計及びその取得後において耕作又は養畜の事業に供すべき採草放牧地の面積の合計が、いずれも、北海道では二ヘクタール、都府県では五十アール(農業委員会が、農林水産省令で定める基準に従い、市町村の区域の全部又は一部についてこれらの面積の範囲内で別段の面積を定め、農林水産省令で定めるところにより、これを公示したときは、その面積)に達しない場合
(後略)

内容を見てみましょう。

まず、第三条の最初に「農地の所有権移転等には農業委員会の許可が必要であること」が記載されています。売買や贈与による移転も対象になります。

そして、第三条第2項に許可をできない場合について書いてあります。
許可要件の概要は、取得者がその農地の全てを耕作すること、農作業に専業すると認められること、経営面積が都府県では原則として50アール以上であること、などと定められています。

50アールは5000平方メートル、およそ1500坪になります。
個人が趣味の範囲で耕作するには広すぎるといえるでしょう。
面積要件が緩和されている地域もありますが、専業農家以外が許可を得ることは簡単ではありません。

前回の事例で、買い手は古民家近くの畑で耕作することを目的にしていたため、所有権を取得できないことがわかると難色を示しました。残念ながら売買契約は白紙に戻ってしまいました。

農地に関しては複雑な規定が多く、自由に処分できないことも多いため、相続予定物件がある場合は、事前に心づもりをしておいたよいと思います。
次回も引き続き、農地法の規定を説明します。

(記事は2020年4月1日現在の情報に基づきます)

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