目次

  1. 1. 夫の死後、遺言の効力を実感
  2. 2. 遺言で相続の手続きがスムーズに
  3. 3. 公証役場での手続きは20分

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女性は70代で、神奈川県にある閑静な住宅街で一人暮らしをしています。今年に入って、遺言書を作成しました。きっかけは、2年前に夫を看取ったことでした。

パーキンソン病を患った夫の病状が悪くなり、体も思うように動かなくなった際、女性は、万が一、遺産分割でトラブルにならないよう遺言書を書いてもらおうと決めました。娘から背中を押してもらったことも大きかったそうです。

相談を受けた横浜市の行政書士の宇田川亨さんは、病院で夫と面会。意思を確認して、公正証書遺言を作成する準備を始めました。宇田川さんが下書きを作って病院で内容を確認。すでに夫は寝たきりだったため、遺言の作成は公証役場へ行くのではなく、公証人に病院へ出張してもらいました。相続人となる人は証人になれないので女性は立ち会えませんでしたが、公証人が証人の前で遺言を読み上げると、夫はうなずいて「これで良いです」と言って承諾したといいます。思うように体を動かせない夫に代わり、公証人が署名と捺印を済ませ、手続きが終わりました。

おかげで、夫の死後、自宅などの名義を変える手続きのため、女性が法務局を訪ねると、遺言書を見た職員は「これがあれば大丈夫です」と言って、スムーズに名義変更の登記が済んだと言います。女性は「家族がもめてしまうことを考えると、お金を払ってでも遺言は作るべき。ただ、詳しい知識がないと、専門家が作るような遺言者は作成できないと思う」と話します。

今回の手続きを手がけた宇田川さんは、利点の一つについて「遺言が残されていないと、遺産分割協議をするため、被相続人が生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本を取得する必要があります。養子縁組など確認をして、相続人を確認するためです。遺言があれば、遺産分割協議が不要となります。これは一番重要です。さらに、必要な手続きや書類が少なくて済みます」と話します。

夫が亡くなってから少し落ち着いた今年、女性は自身の遺言を作成しました。宇田川さんが戸籍謄本や不動産の登記簿謄本などの取得を代行し、このほかに必要となる印鑑登録証明書と固定資産税納税通知書は女性が準備。3、4回の打ち合わせを経て下書きをつくってもらい、女性は1カ月半後には公証役場へ向かいました。

「公証人に遺言を読み上げてもらって、『これでいいですか』と聴かれたら『はい』と答えておしまい。難しいことはなくとても楽。終わった時は、ほっとしました」と女性は振り返ります。公証役場での手続きは20分ほどで済んだ。遺言の最後には、家族に向けたメッセージとして「付言事項」も残したそうです。内容は日頃、娘にも言い聞かせていることだと言います。「万が一、私が亡くなった時に必要になるかもしれないと思いまして」

相続人となる世代の人たちは、「後々、トラブルにならないため、親に遺言を作ってほしい」と考えていても、切り出すのに気が引ける人は多いかもしれません。女性は「困るのは、相続する人たち。だから、正直に子どもから『書いてね』と言えばいいんです。

私たちの世代は、長男がすべて相続するもの、という考えがありましたが、考え方も変わり、トラブルも増えているのでしょう。被相続人となる親の世代が頭を柔らかくして、遺言を書いておかないと。早いに越したことはありません」と話します。

子や孫の集まりやすい年末年始が近づいてきました。遺言を書くかどうか、家族で相談してみるのはいかがでしょうか。

(記事は2019年12月1日時点の情報に基づいています)

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