夫が急死、相続人の甥が自宅売却を求めてきた。妻は家に住み続けられない?
子どもがいない夫婦で、どちらかが亡くなったときに起こりうる相続トラブルの事例と、予防策について解説します。
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35年の住宅ローンをやっと完済し、仲良く暮らしていた70代のご夫婦の夫が、朝方、心臓発作で亡くなってしまいました。今まで大きな病気をしたことがなく昨夜もいつも通り晩酌していたので、あまりに突然の出来事でした。
夫婦には子どもがおらず、夫には姉と妹がいます。姉は既に亡くなっており、お金にだらしのない甥(姉の子)が一人います。妹は70代前半で認知症を患っており、判断能力が不十分で話し合いができない状態です。
四十九日が過ぎて少し落ち着いた頃、案の定、甥から一本の電話がありました。内容は「相続人である俺に早くお金をくれ。もしお金がなければ自宅を売ってお金を作ってくれ」というものでした。
奥様は自宅を売ってお金を作り、夫の甥に渡さなければならないのでしょうか?
このケースの場合、相続人は配偶者と夫の甥、妹の3名です。それぞれの法定相続分(民法で定められている遺産分割の目安)は、配偶者3/4(6/8)、夫の甥1/8、夫の妹1/8となり、お金にだらしのない甥にも法律で相続分が認められています。
そのため、「相続人である俺に早くお金をくれ。もしお金がなければ自宅を売ってお金を作ってくれ」という甥の言い分には一理あります。遺産分割をお金で解決するなら、奥様は法定相続分1/8に相当するお金を甥に渡す必要があるのです。預貯金が少なく、もし法定相続分相当のお金を用意できない場合は、やむを得ず自宅を売ってお金を作ることも考えなければいけません。
このケースでは、もう一つ奥様の頭を悩ます問題があります。夫の妹が認知症を患っていて判断能力が不十分なため、誰と遺産分割協議をすればいいのかという難題です。
このような場合は家庭裁判所に申立て、夫の妹に代わって遺産分割協議をする後見人等を立てる必要があります。
ただし、原則として、夫の妹の法定相続分1/8を確保した内容の遺産分割でなければ後見人等は合意ができません。法定相続分相当のお金を用意できない場合は、やはり自宅の売却を検討する必要が生じます。
このケースの場合、夫が生前に「遺言者の有する一切の財産を、妻〇〇(昭和〇〇年〇〇月〇〇日生)に相続させる」という内容の遺言書を作成していれば、夫の甥に法定相続分相当のお金を要求されることも、また、夫の妹の後見制度の利用を考えることもなく、自宅を含む夫の財産全てを奥様が取得することができました。
なぜなら、夫の甥や妹(第3順位の相続人)には遺留分(最低限の取り分)がないからです。遺言書の内容がどれだけ不満でも、夫の甥や妹は遺留分(最低限の取り分)を主張して遺言の内容に文句を言うことはできないのです。
大規模な自然災害が多発する昨今、いつ何が起こっても不思議ではありません。お子様がいらっしゃらないご夫婦の場合は、少しでも早く遺言書を作成することをお勧めします。
(記事は2019年11月1日時点の情報に基づいています)
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