目次

  1. 1. 受託者とは
    1. 1-1. 受託者の資格
    2. 1-2. 受託者の権限
    3. 1-3. 受託者の義務

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 受託者とは、委託者から信託財産を託され、信託目的に従って受益者のために信託財産の管理・処分等(これを「信託事務」という)を行う者をいいます。受託者は、信託財産の内容や受益者の状況等を総合的に判断できる能力のある者とされるため、「未成年者」「成年被後見人」「被保佐人」は、受託者となることができません(信託法7条)。裏を返せば、これら以外の者は個人でも法人でも受託者になることができます。

 受託者は、信託財産の現状を維持するための保存行為、また賃貸等の収益を図る利用・運用行為のほか、信託契約等で定めれば新たな権利取得(不動産の購入や建物建設など)や銀行からの借入れも行うことができます。つまり、受託者は「信託の目的達成のために必要な行為をする権限」が広く与えられているのです(信託法26条)。反対に、信託行為に定めることで受託者の権限を制限すること(たとえば信託不動産の賃貸は認めても売却は認めないなど)も可能です。

 受託者には、幅広い権限を持たせる代わりに、次のような義務が課せられています。

 ①善管注意義務(信託法29条)
 受託者は、信託事務を処理するにあたって善良な管理者の注意義務をもってしなければなりません。

 ②忠実義務(信託法30条)
 受託者は、法令および信託目的に従い、専ら受益者のため忠実に信託事務の処理をしなければなりません。受益者と受託者との間において、利益が相反・競合する場合は、忠実義務の問題となるため厳しく制限されています。

 ③分別管理義務(信託法34条)
 受託者は、信託財産に属する財産を受託者固有の財産等と分別して管理しなければなりません。たとえば、信託の登記または登録ができる財産については、登記・登録をする義務が発生します。ただし、信託行為に分別管理の方法を定めれば、受託者はその方法により分別管理することになります。この場合でも、信託の登記・登録をする義務を完全に免除することはできません。
 ア. 登記・登録しなければ権利の得喪および変更を第三者に対抗できない財産
   → 登記または登録する(別段の定めにより免除不可)
 イ.金銭以外の動産
   → 外形上区別できる状態で保管する
 ウ. 金銭その他、イ.以外の債権等
   → 帳簿等により計算を明らかにする

 ④自己執行義務(信託法28条)
 受託者は、委託者からの信頼に基づき、信託財産の管理・処分を託されているため、みだりに他人に代行させず、受託者自らが信託事務を遂行することを原則としています。しかし、信託財産・信託目的の多岐化および信託設定の柔軟性により、受託者に課せられた信託事務は専門化・多様化しているため、次の場合は第三者への委託を認めています。
 ア. 信託行為に第三者に委託する旨または委託できる旨の定めがある場合
 イ. 信託行為に第三者への委託に関する定めがなくても、信託目的に照らして相当であると認められる場合
 ウ. 信託行為に第三者委託の禁止の定めがあっても、信託の目的に照らして(受益者の利益に適う事務処理をするために)やむを得ない事由がある場合

 ⑤公平義務(信託法33条)
 受託者は、受益者が2人以上いる信託において、受益者らのために公平にその職務を行わなければなりません。

 ⑥帳簿等の作成等、報告・保存の義務(信託法37条)
 受託者は、信託財産に係る帳簿その他の書類を作成しなければなりません。毎年1回、一定の時期に貸借対照表、損益計算書その他の書類を作成して、その内容について受益者に対して報告しなければなりません。
 また、信託に関する書類を、10年間(当該期間内に信託の清算の結了があったときはその日まで)保存しなければならず、受益者の請求に応じて信託に関する書類を閲覧させなければなりません。

 ⑦損失てん補責任(信託法40条)
 受託者がその任務を怠ったことにより、信託財産に損失が生じた場合または変更が生じた場合、受益者の請求により、受託者は、損失のてん補または原状回復責任を負います。

次回の記事では、信託財産から利益を受ける「受益者」について解説します。

この記事は、「相続・認知症で困らない 家族信託まるわかり読本」(近代セールス社)から転載しました。

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