民法909条の2とは| 相続預貯金の払戻しについて解説
相続が発生したあと、遺産分割がまとまるまで時間がかかることは珍しくありません。その間にも、葬儀費用や生活費など、急ぎで支払いが必要な場面は訪れます。こうした場合に利用できるのが、民法909条の2で定められた「相続預貯金の仮払い制度」です。
この制度の概要や対象となるケース、引き出せる上限金額、注意点などについて、わかりやすく解説します。
相続が発生したあと、遺産分割がまとまるまで時間がかかることは珍しくありません。その間にも、葬儀費用や生活費など、急ぎで支払いが必要な場面は訪れます。こうした場合に利用できるのが、民法909条の2で定められた「相続預貯金の仮払い制度」です。
この制度の概要や対象となるケース、引き出せる上限金額、注意点などについて、わかりやすく解説します。
目次
「相続会議」の弁護士検索サービスで
相続が始まると、被相続人(亡くなった人)の預貯金口座は凍結され、簡単には引き出せなくなります。こうした不便を解消するため、2019年の法改正で新たに導入されたのが「民法909条の2」です。遺産分割が終わっていなくても、一定の範囲で預金を引き出せる制度として、実務上の重要性が高まっています。
民法909条の2は、相続が発生した後でも、遺産分割協議を待たずに、相続人が単独で預貯金の一部を払い戻せる制度を定めた条文です。2019年7月の民法改正により導入され、実務でも重要な役割を果たすようになりました。
相続が発生すると、被相続人の名義だった預貯金は「相続財産」として扱われます。ただし、これらの預金は法的には単なる個人資産ではなく、相続人全体に「共有」のような形で承継されるとされています。
このため、かつては遺産分割が完了するまで、相続人のうち1人が単独で預金を引き出すことはできず、葬儀費用や当面の生活資金に困るケースも少なくありませんでした。
従来、金融機関は相続人の1人が預貯金の引き出しを求めた場合でも、他の相続人全員の同意がない限りは対応できないとしていました。
これは、最高裁判例(平成28年12月19日判決)により、被相続人の預貯金債権は遺産分割の対象とされる「可分債権」ではなく、相続人全体で共有する形で承継されるものと位置づけられたためです。
つまり、相続人のうち1人が単独で預金を引き出すことは、たとえ相続分の範囲内であっても、法的には認められないとされたのです。
こうした制度では、たとえば故人の葬儀費用の支払い、残された配偶者の生活費、医療費の精算など、急ぎの支出に対応できないという問題が生じます。そこで新たに導入されたのが、「相続預貯金の払い戻し制度」です。
この制度では、一定の要件のもと、相続人が遺産分割前であっても、一定額の預貯金を引き出すことが可能になります。これにより、相続手続きの初動で必要になる資金を確保しやすくなり、実務上の利便性が大きく向上しました。
全国47都道府県対応
相続の相談が出来る弁護士を探すたとえば、被相続人である父親が亡くなり、相続人が配偶者のほか子どもが2人、遺産として800万円の預貯金と不動産を残したケースで考えます。
相続人間で遺産分割協議がまとまらず、手続きが進まない中、葬儀費用として150万円の支出が必要になりました。従来は、相続人全員の同意がなければ金融機関から預金を引き出せず、費用を誰かが立て替える必要がありました。
しかし、民法909条の2により、一定の範囲で相続人が単独で預貯金を払い戻すことが可能になったため、このケースでは、150万円の葬儀費用を被相続人の預金から支払うことができました。
このように、民法909条の2の制度は、相続人の実務負担を軽減するために設けられたルールであり、葬儀費用や当面の生活資金の確保に役立ちます。
相続が発生した後、遺産分割がすぐにまとまるとは限りません。不動産や株式など評価が難しい遺産が含まれている場合や、相続人同士の意見が分かれている場合は、協議が長期化することもあります。しかしその間も、葬儀費用や被相続人の未払い金の支払い、残された家族の生活費など、必要な支出は待ってくれません。
そうした実情に対応するため、民法909条の2では、遺産分割前でも一定の条件を満たせば、預貯金を相続人が単独で引き出せる仕組みが整えられています。以下では、この制度の適用ケースや上限額、手続きに必要な書類について解説します。
民法909条の2に基づく仮払い制度は、遺産分割前であっても、相続人が一定額の預貯金を単独で引き出すことを可能にする制度です。制度上、用途に明確な法的制限はありませんが、一般的には「当面の支払いに充てる資金」を念頭に置いて設計されています。
たとえば、次のような支出が想定されています。
ただし、「とりあえず現金を確保しておきたい」「他の相続人と合意できないから先に使いたい」といった目的外の使用を行うと、後々の遺産分割協議で紛争の火種になるおそれがあります。制度の趣旨や相続人間の信頼関係に配慮し、適切な範囲での利用が望ましいといえます。
払い戻し制度の利用には上限があり、以下の2つの基準をいずれも満たす必要があります。
【相続開始時の預貯金残高の3分の1に、引き出す人の法定相続分をかけた金額】
たとえば、残高が900万円で、引き出す相続人の法定相続分が2分の1の場合、上限は「900万円 × 1/3 × 1/2=150万円」です。
【1つの金融機関につき、最大150万円まで】
たとえば複数の支店がある銀行でも、「同一金融機関」とみなされるため、合計で150万円までしか引き出せません。
この制度により引き出された金額は、最終的な遺産分割協議の際に「すでに取得した相続財産」として扱われ、相続人間での公平な配分に反映されることになります(みなし取得)。
制度を利用するためには、各金融機関が定める所定の申請書類を提出する必要があります。一般的には以下のような書類が求められます。
金融機関によっては、法定相続情報一覧図の写しがあれば手続きが簡略化されることもあります。
民法909条の2による預貯金の払い戻し制度は、遺産分割前でも相続人が一定額を引き出せる便利な仕組みですが、引き出せる金額には上限があります。具体的には、「相続開始時の預貯金額の3分の1に、当該相続人の法定相続分を乗じた額」が原則的な上限とされ、その金額が法務省令で定める額(150万円)を超える場合には、150万円が上限となります。
そのため、預貯金額や相続分によっては、150万円よりも低い金額しか引き出せないケースもあります。
こうした場合は、家庭裁判所に「仮分割の仮処分」を申し立てる方法が考えられます。これは、家事事件手続法第200条第3項に基づく制度で、家庭裁判所の判断により、特定の相続人に遺産の一部を仮に取得させることができます。
たとえば、「葬儀費用を立て替えたので、他の相続人に先立って預貯金の一部を仮に取得したい」といった事情がある場合に、相続分をめぐる調整を前提として、一時的に財産を確保する手段として活用されます。迅速な対応が求められる場面では、こうした法的手続きを視野に入れることも重要です。困ったときは、早めに弁護士などの専門家に相談しましょう。
全国47都道府県対応
相続の相談が出来る弁護士を探す民法909条の2により、遺産分割前であっても、相続人が被相続人の預貯金を一定額まで単独で引き出せるようになりました。ただし、この制度を利用する際にはいくつかの注意点があります。
まず、仮払い制度はあくまで「当面の必要資金」の確保を目的とした制度です。法的に用途の制限はありませんが、実務では葬儀費用や生活費、公共料金の支払いなどを想定した制度として運用されています。
これを逸脱し、目的外に多額の資金を引き出して自分のために消費してしまうと、「相続財産の処分」とみなされ、相続放棄が認められにくくなるおそれがあります。
どの範囲までが許容されるかは事案ごとに異なり、グレーゾーンも少なくありません。とくに相続放棄を検討している場合には、制度を利用する前に弁護士などの専門家に相談しておくことが重要です。
また、引き出せる上限額は各相続人ごとに「口座ごとの相続開始時の預貯金額×3分の1×当該相続人の法定相続分」の金額、かつ同一金融機関につき150万円までとされています。制度を適切に使うためにも、相続人同士での事前の調整と、制度内容の正確な理解が欠かせません。少しでも不安がある場合は、早めに専門家へ相談することをおすすめします。
民法909条の2に基づく仮払い制度を利用すれば、遺産分割が終わっていなくても、相続人が一定の上限内で預貯金を引き出すことが可能です。この制度の利用にあたって、相続人全員の同意は不要です。
ただし、金融機関では申請者が相続人であることを確認するため、戸籍謄本一式や法定相続情報一覧図などの提出が求められます。必要な書類や申請方法は金融機関によって異なるため、事前に確認しておくとスムーズです。
遺産分割に明確な期限はありませんが、相続税の申告期限(原則として相続を知った日から10カ月以内)に間に合うよう進めるのが望ましいです。遺産分割が済んでいないと、配偶者控除などの税制上の特例が使えない場合があるため、早めの対応が重要です。
全員の合意が必要なため、1人でも連絡が取れないと遺産分割協議は進みません。このような場合は、家庭裁判所に「不在者財産管理人」や「遺産分割の調停」を申し立てる方法があります。法的手続きに移行することで、協議を進められる可能性があります。
相続人が生活費や葬儀費用などを早急に支払わなければならない場面では、民法909条の2による預貯金の仮払い制度が役立ちます。遺産分割前でも、一定の条件を満たせば金融機関から一部資金を引き出せるため、すぐに現金が必要なときの安心材料となるでしょう。
ただし、上限額や目的外使用には制限があるほか、制度の利用が将来の相続手続きに影響する可能性もあります。制度を正しく使うためにも、手続きの詳細や注意点について早めに専門家へ相談することが大切です。
(記事は2026年4月1日時点の情報に基づいています)
「相続会議」の弁護士検索サービスで