亡き父の譲渡所得を知らず延滞税が発生! 相続人が代わりに行う確定申告とは?……準確定申告の怖~い話
「確定申告」は知っていても、亡くなった人の代わりに相続人が生前の所得を確定申告する「準確定申告」は初耳だという方も多いのではないでしょうか。ベンチャーサポート相続税理士法人のベテラン税理士が、自身の経験も交えて解説します。
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則夫さん(享年65歳)は2020年12月に故郷の土地を売却する契約をしました。その土地は親から相続したものでしたが、ひとり息子の健一さん(35歳)が自宅を購入するというので、少しでも資金援助をしたいと土地の売却を決めたのでした。
土地売却の成立後、2021年8月、日差しが照りつける夏の暑い日に則夫さんは銀行に行き、健一さんの口座へ資金援助500万円を振り込みました。ところがその帰り道、則夫さんは突然胸の痛みに襲われ、歩道に倒れ込みました。通行人が駆け寄るも、則夫さんは反応することなく、その生涯を閉じたのでした。
則夫さんの突然の旅立ちに驚きを隠せない息子・健一さんでしたが、則夫さんの葬儀では気丈に振る舞いました。そして、四十九日が過ぎた頃、相続税の申告について母・久恵さん(62歳)に相談したところ、意外な事実が明らかになりました。実は、両親の住んでいた自宅は母・久恵さんの名義であり、則夫さんのものではなかったのです。
則夫さんの財産は、則夫さんの葬儀費用に充てるために加入していた生命保険200万円と預貯金2,500万円でした。今回、相続人は則夫さんの妻であり、健一さんの母である久恵さんと、健一さんの2人です。相続税の基礎控除額は「3,000万円+(600万円×2人)=4,200万円」となり、相続税申告は不要でした。
残る手続きは、生命保険会社に保険金の請求をして、現預金を母と2人で分けるだけです。法定相続分で分けることにし、遺産分割協議書を作成して、金融機関での手続きも済ませ、無事に相続手続きは終了しました。
その後、健一さんの自宅も完成し、則夫さんから受けた資金援助500万円について、住宅取得等資金の贈与の非課税の特例の適用を受けるために、贈与税申告を行い、すべての手続きが終了したと思っていました。
しかし、2022年5月、税務署から則夫さんの税金に関する手紙が届いたと、母から電話がかかってきたのです。健一さんは慌てて税務署に連絡をすると、「則夫さんは2021年に土地を売却しているため、準確定申告をしてください」と言われました。
健一さんは、確定申告については聞いたことがありましたが、準確定申告は初耳でした。税務署の担当者によると、「土地を売却した人が、売却した年の途中で亡くなった場合、相続人が、1月1日から亡くなった日までに確定した所得金額および税額を計算して、相続の開始があったことを知った日の翌日から4カ月以内に準確定申告と納税をしなければならない」とのことでした。つまり今回のケースでは、2021年12月までに準確定申告をしなければなりませんでした。
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相続の相談が出来る税理士を探す土地の売却は、契約日の属する年の所得として申告するか、引き渡しがあった年の所得として申告するかを納税者が選ぶことができます。一般的には、売却代金で税金を納めるため、売却代金の入金が完了し、引き渡しがあった年の所得として申告します。おそらく父も、土地を引き渡しのあった年の所得として、申告期限である2022年3月15日までに2021年分確定申告をするつもりだったのでしょう。
父の準確定申告の申告期限は、2021年12月であり、5カ月も過ぎていました。健一さんは税務署の担当者から言われたとおり、売買契約書や父の通帳を持って税務署へ駆けつけ、なんとか準確定申告を終わらせたのでした。
土地の売却価額は1,000万円で、不動産会社への仲介手数料や契約書に貼る印紙代などの諸経費が約50万円かかっていました。税務署の担当者からは、土地を購入した際の費用を取得費として売却価額から差し引くことができるとの説明を受けました。しかし、この土地は先祖代々のもので、当時いくらで購入したか不明です。その場合は、「概算取得費といって、売却価額の5%を取得費とすることができ、50万円を差し引ける」と教えてもらい、最終的な税額は約140万円になりました。
申告期限を過ぎているため、延滞税も納める必要があります。期限を過ぎたのは5カ月、約35,000円で済みましたが、余計な支出であるため、あまり嬉しいものではありません。ただ、住民税の課税の基準日はその年の1月1日となっているため、土地の売却分には住民税がかからないと聞いて、そこだけはホッと安心しました。
父の相続をきっかけに、実は両親の自宅が母の名義だと知った健一さん。両親の自宅は駅からほど近い便利なところにあるため、売却すれば高額になる可能性があります。今回の経験から、健一さんは、お母様の相続に関しては、事前に税理士に相談することを決意し、当事務所を訪れました。
その際、不思議に思っていたことを税理士に質問しました。「なぜ税務署は父が亡くなったことや、土地を売却したことを知っていたのでしょうか?」
被相続人が亡くなると、ご家族などは市区町村役場へ死亡届を提出します。このとき、市区町村長は死亡届を受理した日の翌月末までに税務署に通知をする決まりがあるのです。また、土地を売却したら、所有権移転の登記を行います。この登記をした場合も、法務局から税務署へ登記情報が提供されることになっています。税務署は、このようにして得た情報をもとに、相続税申告や準確定申告などが必要にもかかわらず、申告していない可能性があると、「相続税についてのお知らせ」や「相続税の申告等についてのご案内」と称される手紙を送付することがあります。
準確定申告に限らず、相続に不慣れな相続人が手続きをするのは簡単ではありません。早めに相続税対策のご相談をしていただくことで、節税方法の選択肢も広がります。税金のことが少しでも気になったら、なるべく早めに専門家に相談すると良いでしょう。
(物語は2024年2月1日現在の情報と税理士の実際の体験に基づいた創作です)
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