年110万円以下なら贈与税はかからないんじゃないの!?……暦年贈与の怖~い話
「実録! 税理士が語る相続税の怖~い話」シリーズ5回目の今回のテーマは、「暦年贈与の落とし穴」についてです。相続税の対策として暦年贈与したつもりが、贈与と認められないケースもあります。ベンチャーサポート相続税理士法人のベテラン税理士が、自身の経験も交えて解説します。
「実録! 税理士が語る相続税の怖~い話」シリーズ5回目の今回のテーマは、「暦年贈与の落とし穴」についてです。相続税の対策として暦年贈与したつもりが、贈与と認められないケースもあります。ベンチャーサポート相続税理士法人のベテラン税理士が、自身の経験も交えて解説します。
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専業主婦の美恵子さん(65歳)一家は、夫が都内でコンサル会社を経営しており、郊外の自宅と金融資産を合わせて1億円ほどの資産を保有しています。資産の大半が金融資産であるため、長男や孫に生前贈与して相続税の負担を減らしたいとのご相談で当事務所を訪れました。
美恵子さん「相続税対策で一番簡単なのは贈与ですよね?贈与して財産を減らせば、相続税もおのずと減りますから!」
税理士「贈与して相続財産を減らせば確かに相続税も減ります。でも、贈与はやり方を間違えると相続税対策にならないことがありますよ」
相続税対策として最も一般的な贈与は、暦年贈与でしょう。暦年贈与とは、暦年(1月1日から12月31日)の1年間に贈与した財産が基礎控除額の110万円以下であれば贈与税がかからないという制度を利用して贈与することです。
美恵子さん「そういえば、子どもや孫の誕生日に毎年100万円を贈与している友人がいますよ」
税理士「それは、恐らく預金口座へ振り込んで贈与していると思うのですが、子どもや孫名義の口座の通帳は誰が管理しているのでしょうか?」
美恵子さん「子どもや孫がパーッと使ってしまうのが怖いから、贈与している友人が預かっていると言っていました」
最も多い贈与の失敗パターンは、子どもや孫の名義の預金口座の通帳を贈与者本人が所持したまま、毎年その通帳に入金する方法です。贈与はあげる側ともらう側の「あげます」「もらいます」という合意が必要となります。さらに、贈与が成立した状態とは、もらう側(受贈者)が贈与を受けたお金を自由に使える状態であることも求められます。受贈者名義の通帳を贈与者が預かってしまうと、受贈者はそのお金を自由に使えません。
税理士「それだと贈与は成立していないことになりますね。つまり、子どもや孫名義の口座のお金は、お友達ご自身の財産としてみなされ、れっきとした相続財産になってしまいます」
美恵子さん「子どもや孫の通帳を預かっていてはダメなんですね……。贈与したつもりが、相続財産になってしまうなんて、贈与した意味がなくなりますよね。てっきり、口座の名義が子どもや孫になっていれば大丈夫だと思っていました」
税理士「こういった口座の名義が子どもや孫であっても、実質的な所有者が違う預金を『名義預金』といいます。税法は実質的な所有者に対して課税するため、ただ単に口座の名義を変えただけではダメなんです。極端な話、他の人が持っているバッグを素敵だな、欲しいな、と思って自分の名前を書いても、どう考えても怒られるでしょう?」
贈与する口座は贈与者が管理していてはいけません。贈与財産を入金する口座は、受贈者が自由に使うことのできる、普段使いしている口座が最適です。普段使いの通帳であれば、受贈者は贈与を受けたことを振込があったことで分かりお金も自由に使えるため、贈与が成立していないという反論は成り立ちません。子どもや孫が無駄遣いをすると困るから預金口座のお金を自由に使えないように管理しておきたい、という方もいらっしゃいますが、使えない状態だと贈与は成立していないため、毎年コツコツと100万円を贈与して、10年経ったときには1,000万円もの贈与のはずが、名義預金として相続財産に1,000万円が含まれてしまいます。
どうしても贈与したお金の使用用途を制限したい場合は、個人年金保険の契約者を受贈者にして、保険料の引き落とし直前に贈与すると良いでしょう。契約期間に保険料の全額を贈与する予定だったのでは?と言われそうですが、贈与者が亡くなったり、途中から贈与するのを止めたりすれば、契約者は自分で保険料を負担する必要があるため、初めからいくらを贈与するか決めていることにはなりません。
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相続の相談が出来る税理士を探す美恵子さん「以前、相続セミナーに参加したときに聞いたのですが、贈与契約書も作成しなくてはならないとか……」
税理士「はい!もらった、あげたという贈与の合意があることを示すためには、贈与契約書があった方がいいですね」
美恵子さん「毎年、贈与契約書を作成するのは面倒だなあと思って……」
税理士「贈与契約書を毎年作成することが面倒だからと、『今後10年にわたり、毎年100万円を贈与する』という内容の贈与契約書を作成してしまうと、一括で1,000万円を贈与するという契約内容とみなされて、贈与税が177万円も課税されますよ」
美恵子さん「それは困りますね、やっぱり贈与契約書は毎年作成しなきゃダメか……」
あげる側ともらう側の贈与の合意があることを示すために、贈与契約書の作成は大切ですが、贈与契約書の作成時には注意が必要です。贈与者と受贈者の姓が同じであることを理由に同じ印鑑を使ったり、受贈者が自署せずに、贈与者が受贈者の署名をして筆跡が同じだったりした場合、せっかく贈与契約書を作っても合意があったという証明にはなりません。
また、贈与契約書を毎年作成するのが面倒だという理由で、「今後10年にわたり、毎年100万円を贈与する」という内容の契約書を作成すると、初めから1,000万円をあげる契約内容とみなされて、定期金に関する権利として一括で贈与税が課税されることになります。定期金は、10年にわたって1,000万円を贈与すると約束した年に、1,000万円全額に対して贈与税が課税されます。贈与税額は、1,000万円から非課税枠110万円を差し引いた890万円に税率を掛けた177万円となります(直系尊属から贈与を受けた場合の特例税率を適用した場合)。
定期金とみなされるような贈与契約書を作成していなくても、連年で贈与した金額が合計300万や500万円など切りのいい金額だった場合も注意が必要です。相続税の税務調査のときに調査官から、たまたま毎年贈与をしていたのではなく、初めから決まった金額を分割で贈与したのでは?……と指摘される可能性があります。
美恵子さん「定期金とみなされないように気を付ければ、何年も暦年贈与を続けることで、相続財産を減らせますね?」
税理士「実は暦年贈与にも弱点があって、亡くなる前3年以内に渡した財産については、贈与したことにはならないんです」
美恵子さん「暦年贈与を開始したタイミングが遅いと、3年分は節税効果が薄くなるってこと?」
税理士「そうなんです!亡くなる直前3年以内の贈与は、相続財産に含めて(持ち戻して)相続税を計算する必要があります。さらに税制改正で、2024年(令和6年)からは期間が順次3年から7年に延長され、今後は7年分さかのぼって贈与が相続財産に持ち戻されることが決まっています。そのため、10年にわたって1,000万円贈与したとしても、最終的に税金がかからない贈与財産は300万円だけになりかねないのです」
美恵子さん「えー!7年も贈与が無効になる可能性があるの!?落とし穴がたくさんあって、相続税対策は難しいわね」
税理士「そうなんですよ。お金を動かしたり、不動産を動かしたりするときには、やはり事前に税理士に相談していただきたいですね」
暦年贈与は、相続税の節税目的で、亡くなる直前に財産を他の人に移して相続税から逃れることを「亡くなる前3年以内の相続財産への持ち戻し計算」というルールで封じています。さらに令和5年度改正により、この持ち戻し期間が3年から7年に大きく延長されました。暦年贈与の節税効果はかなり抑制されてしまいますが、その分「相続時精算課税制度」という制度が贈与する上で使いやすく見直されました。税務署に目をつけられずに相続税を節税するためには、最新の税法をしっかりと知っておくことが不可欠です。餅は餅屋で、贈与や相続に関することは、ぜひ税理士などの専門家を頼りましょう。
(物語は2023年12月1日現在の情報と税理士の実際の体験に基づいた創作です)
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