遺言で生命保険の受取人を変更はできる? 注意点や第三者への変更について弁護士が解説
離婚後も前妻が受取人になっている場合など、生命保険の受取人変更をしたいケースもあると思います。基本的には保険会社に連絡して受取人変更を行うことが推奨されますが、遺言によって受取人変更を行うことも可能です。今回は、遺言によって生命保険の受取人を変更する際の手続き・注意点などを解説します。
離婚後も前妻が受取人になっている場合など、生命保険の受取人変更をしたいケースもあると思います。基本的には保険会社に連絡して受取人変更を行うことが推奨されますが、遺言によって受取人変更を行うことも可能です。今回は、遺言によって生命保険の受取人を変更する際の手続き・注意点などを解説します。
目次
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生命保険の受取人は、保険契約者と保険会社の合意によって変更できるほか、遺言によって変更することも認められています(保険法44条1項)。
なお、遺言による保険金受取人の変更を保険会社に対抗するには、相続発生後に、被保険者の相続人が保険会社にその旨を通知することが必要です(同条2項)。
遺言によって生命保険の受取人を変更する場合、新たな受取人は、原則として保険約款等で定められる者の範囲内で決定する必要があります。
一般的には、配偶者と一定の血族に限定されているケースが多いです。
保険約款等における規定の範囲内であれば、生命保険の受取人を相続人以外の第三者に変更することもできます。
また、保険商品の内容等によっては、親族関係のない第三者を受取人に指定できるケースもあります。
(例)内縁の妻・お世話になった人・慈善団体など
生命保険の受取人変更の範囲については、あらかじめ保険会社にお問い合わせください。
遺言者は、遺言者と○○生命保険株式会社が〇年〇月〇日付で締結した、遺言者を被保険者とする保険契約(保険証書番号〇〇〇〇〇、保険金額〇万円)に係る保険金受取人を、〇〇から〇〇へ変更する。
遺言によって生命保険の受取人を変更する場合、まずは遺言書・保険契約の内容を確認・照合する必要があります。
その後、保険契約者(=遺言者)の相続人が、保険会社に対して受取人変更の通知を行いましょう。
受取人変更通知について、保険会社側で審査の結果、問題ないと判断された場合には、変更後の受取人に生命保険金が支払われます。
遺言によって生命保険の受取人を変更しようとすると、新旧受取人の間でトラブルに発展する可能性があります。
遺言による生命保険の受取人変更に関連して、発生しがちな主なトラブルは、以下の通りです。
保険契約者の相続人が受取人変更の通知をしなければ、新受取人は保険会社に対して、受取人変更の旨を対抗できません(保険法44条2項)。
したがって、受取人変更の通知が保険会社に到達する前の段階では、保険会社が変更前の受取人の請求に応じて、保険金が支払われてしまう可能性があるのです。
新受取人は、後から旧受取人に対して、受け取った生命保険金を引き渡すように請求できます。
しかし、訴訟などを通じたトラブルに発展することも想定されるので要注意です。
生命保険の受取人を変更する旨の遺言書を発見したら、速やかに保険会社に対して、受取人変更通知を行いましょう。
遺言によって、相続人以外の第三者に生命保険の受取人が変更された場合、相続人としては納得がいかないケースもあるでしょう。
その場合、対抗要件となっている保険会社への受取人変更通知を、相続人が拒否する事態も想定されます。
相続人が保険会社への受取人変更通知を拒否した場合、
などの事態が発生し、紛争が複雑化するおそれがあるので注意が必要です。
生命保険金の受取人を変更する内容を含む遺言書自体について、旧受取人などから無効主張が行われる可能性もあります。
民法上、法定の形式要件を欠く遺言書は無効です。
さらに、文言の不明確さ・偽造・変造・遺言能力の欠如など、遺言無効を主張するための根拠には、さまざまなパターンが考えられます。
遺言が無効になった場合、生命保険の受取人変更は効力を生じません。
さらに、相続財産全体についての遺産分割が必要となるため、相続トラブルが複雑化することは必至です。
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相続の相談が出来る弁護士を探す上記で挙げたようなトラブルを防止するためには、生命保険の受取人変更に関して、以下の対応を行うことが考えられます。
弁護士に相談のうえで、想定されるトラブルを効果的に予防できる対策を実施してください。
遺言による生命保険の受取人変更はトラブルが多いため、保険契約者が生前の段階で受取人変更をしておくことが確実です。
受取人変更の方法は、保険会社から案内を受けられるので、一度保険会社に連絡を取ってみましょう。
生命保険の受取人変更を含む、遺言の内容を確実に執行するためには、事前に遺言執行者を指定しておくことが効果的です。
遺言執行者は、中立公正な立場から、遺言の内容を実現するための職務を行います。
遺言執行者が、職務開始後速やかに、保険会社に対して受取人変更通知を発送することによって、生命保険の受取人変更に関する多くのトラブルを防止できます。
弁護士を遺言執行者に選任すれば、高い職業倫理の下で、適切・公正に職務を行ってくれるので安心です。
遺言無効を回避するためには、公正証書遺言を作成する方法がお勧めです。
公正証書遺言の作成時には、公証人が遺言の形式要件等のチェックを行うため、遺言無効のリスクを最小化できます。
また、公証役場において遺言書の原本が保管されるため、偽造・変造・紛失等のおそれもありません。
生命保険の受取人変更についてトラブルが予想される場合には、あえて受取人変更を行わずに、遺言によって相続分を調整して対応することも考えられます。
遺言による相続分の指定を行う際には、遺留分などへの配慮が必要となるので、弁護士にご相談ください。
生命保険の受取人は、遺言によって変更することも認められています。
しかし、新旧受取人や他の相続人を巻き込んで、相続トラブルに発展するリスクがある点に注意が必要です。
もし遺言によって生命保険の受取人を変更したい場合には、どのようなリスクがあるのか、その対策としては何が考えられるかについて検討するため、一度弁護士にご相談ください。
(記事は2022年1月1日時点の情報に基づいています)