目次

  1. 1. 知っておきたい生命保険の基本
  2. 2. 死亡保険金が相続税の対象になるケースは?
  3. 3. 死亡保険金で使える非課税枠
    1. 3-1. 死亡保険金の非課税限度額=500万円×法定相続人の数
  4. 4. 受取人は配偶者優先が無難
  5. 5. 受取人を分ければ遺産分割がスムーズに
  6. 6. 契約はシンプルな終身保険を

そもそも生命保険は、なぜ相続対策になるのでしょうか。その理由は生命保険ならではの二つの特徴があるからです。一つ目は、相続財産の金額を算出する際に非課税枠を使える点。二つ目が保険金の受取人を指定できる点です。

まず、生命保険のキホンを簡単におさらいします。

生命保険は「契約者」(=通常、保険料を支払う人)が、「被保険者」(=その保険の対象となる人)に保険事故(=死亡、入院、通院、手術などの保険金の支払事由に該当する事柄)が発生したときに、保険金が「保険金受取人」に支払われるというものです。

生命保険の代表的な商品は、被保険者が亡くなるまで一生涯保障が続く「終身保険」や、契約時に決めた一定期間だけ保障する「定期保険」などがあります。これら主となる契約(主契約)に、入院給付金や手術給付金などを受け取ることができる「特約」を、一定期間(定期)や一生涯(終身)で付けられるのが一般的です。

生命保険と相続との関連でいうと、まず、死亡保険金が相続税の課税対象になるものと、ならないものがあります。相続税の課税対象になるのは、被相続人(相続される人=亡くなった人)の死亡によって取得した死亡保険金で、その保険料の一部または全部を被相続人が負担していたものです。

例えば、「契約者=夫、被保険者=夫、保険金受取人=妻」といった契約の生命保険が該当します。この場合、夫の死亡で妻が受け取った保険金は、妻名義のお金になりますが、夫のお金(保険料)が妻に渡っていますので、「みなし相続財産」として夫の相続財産に加えられます。

ちなみに、「契約者=妻、被保険者=夫、保険金受取人=妻」という契約だと、保険料負担者である妻が、夫の死亡による保険金を自分で受け取ることになります。自分のお金を自分で受け取るので、支払った保険料よりも保険金が多い場合に、それが一時所得として所得税・住民税の対象となります。

また、この契約の仕方で、受取人だけを子どもにすると、妻のお金が夫の死亡によって子どもに移ることになるので、贈与税の対象となります。

さて、話を戻します。夫が被保険者かつ保険料負担者だった夫の死亡保険金は、夫の相続財産とみなされるわけですが、受取人が相続人であれば、以下の式で算出される「非課税枠」を使うことができます。つまり、相続財産に加える金額を少なくできるのです。

※ちなみに、死亡退職金についても、同じ計算式による非課税枠があります。

例えば、妻と子ども2人の計3人が法定相続人である場合、500万円×3人=1,500万円までなら非課税限度額の範囲内なので、保険金には相続税がかからないということです。この非課税限度額を超えた部分が相続財産に加えられて、相続税が計算されます。なお、相続人以外の人が保険金を取得した場合は、非課税の適用はありません。

したがって、相続税を気にせずに妻や子どもに多少なりとも財産を残そうと思うのであれば、まずは保険金の非課税枠の利用を検討すべきでしょう。法定相続人1人あたり500万円までは非課税で残すことができます。

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しかし、「子どもたちにはもっと多くの財産を残してあげたい」と、子どもを受取人にして多額の生命保険に加入する人もいます。相続税対策という観点からすると、受取人は子どもではなく、妻(配偶者)のほうが税負担が軽くなる可能性が高いことは知っておくといいでしょう。

例えば、妻と子どもの計2人が法定相続人だと、保険金の非課税枠は1,000万円です。夫が子どもを受取人にして1億円の生命保険に加入していた場合、保険金1億円のうち、非課税枠1,000万円を超えた9,000万円が夫の相続財産に加えられて相続税が計算されることになります。

もちろん、相続税の基礎控除などは適用されますが、子どもには相続税の軽減措置がほとんどありません。負担すべき相続税額が多くなってしまう可能性があるのです。

一方、受取人が妻(配偶者)なら、仮に1億円の保険金のうち9,000万円がみなし相続財産となっても、妻には「配偶者の税額軽減」の措置があるので、相続税はほとんどかからない可能性が高くなるのです。

配偶者の税額軽減とは、「法定相続分相当額か1億6,000万円のどちらか多い方の金額」まで、配偶者には相続税をかけないという措置です。つまり、妻が9,000万円(非課税枠を差し引いた金額)の保険金を受け取ったとしても、そのほかに夫の財産を7,000万円以上もらっていなければ、相続税はかからないということです。

また、夫がかなりの資産家だったとしても、妻が夫の財産の半分以内を相続するなら相続税はかからないのです(相続人が妻と子の場合、法定相続分が2分の1ずつであるため)。やはり、受取人の指定は、妻(配偶者)を優先しておくのが無難でしょう。

相続税対策としては、受取人を妻にするのが基本といえますが、遺産分割をスムーズに行うには、受取人を複数に分けておくのもひとつの方法です。遺言書がきちんと準備されているならよいのですが、遺言書がない場合、残された家族が遺産分割でもめてしまう可能性があります。

しかし、生命保険を使えば、遺言書は無くても保険金は必ず受取人に入ります。遺産分割でもめる可能性を多少なりとも低くできるわけです。具体的には、保険金の受取人を複数人にして、「長男50%、次男50%」といった割合を指定したり、受取人が異なる生命保険を複数契約したりして、備えることができます。

また、長男には自宅の土地建物を相続させ、次男は自宅の評価額に相当する保険金を受け取れるように、生命保険を契約する方法もあります。こうすることで、長男と次男が相続する財産のバランスが取れるわけです。

遺言書がきちんと準備できているなら問題ないですが、遺言書がない場合は、もめないようにするためにも受取人を指定できる生命保険は利用価値があるといえるでしょう。

さて、相続税対策や遺産分割に役立つ生命保険ですが、たくさん加入すればいいわけでも、どんな商品でもいいというわけでもないので注意が必要です。そもそも、保険という商品自体が、確率論上は加入者が損をするようにできていますので、たくさん加入すればするほど、確率論上の損失額が大きくなります。保険の加入しすぎは禁物なのです。

加入するなら、保険料が割高にならないように、余計な特約などのついていないシンプルな商品性のものを選ぶべきでしょう。保険料の試算ができるサイトもありますので、複数の保険会社の保険料を比較して、安いところを探してみてください。

相続税対策や遺産分割対策として保険金が出るようにしたいなら、終身保険が無難でしょう。終身保険なら、被保険者が何歳で亡くなっても必ず保険金が出ますので安心です。

定期保険だと、保険料は掛け捨てなので安いですが、保険期間を過ぎてしまうと保障が終わってしまうので、相続税対策には向いていません。定期保険は、子どもが成人するまでの間に万一のことがあった場合に備えるなど、一定期間だけ手厚い保障が必要という人向けの商品と言えます。

くれぐれも加入しすぎないよう、比較検討を怠らないようにしながら、上手に使うことができれば、生命保険は相続税対策や遺産分割対策として有効です。自分や家族の状況に合わせて賢く利用しましょう。

(記事は2020年1月1日時点の情報に基づいています)