遺言執行者は相続不動産の登記ができる? 相続法改正による権限拡大について解説
不動産を特定の相続人に相続させる遺言書が遺されたとき、遺言執行者は単独で相続に関する登記手続ができるのでしょうか? 近年の相続法改正により、遺言執行者の権限が拡大されました。そのため、現在、遺言執行者は単独で登記手続する権限が認められています。今回は遺言執行者の登記に関する権限や、改正相続法における遺言執行者の地位・権限、遺言執行者になれる資格・任務内容について弁護士が解説します。
不動産を特定の相続人に相続させる遺言書が遺されたとき、遺言執行者は単独で相続に関する登記手続ができるのでしょうか? 近年の相続法改正により、遺言執行者の権限が拡大されました。そのため、現在、遺言執行者は単独で登記手続する権限が認められています。今回は遺言執行者の登記に関する権限や、改正相続法における遺言執行者の地位・権限、遺言執行者になれる資格・任務内容について弁護士が解説します。
目次
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「相続させる旨の遺言」があったとき、遺言執行者は単独で相続に関する登記手続ができます。
「相続させる旨の遺言」とは、特定の財産を共同相続人のうち特定の相続人に承継させる旨を記載した遺言をいい、民法上「特定財産承継遺言」と呼ばれています。たとえば、遺産のうち、実家不動産を特定の子に相続させる場合などです。
このように被相続人名義の不動産について特定財産承継遺言がなされた場合、従来、判例は、遺言執行者は登記手続をすべき権利も義務も有しないと判断していました(最一判平成11年12月16日)。そのため、遺言執行者は登記手続をすることができず、相続人が登記手続をすることとされていました。
しかし、近年の相続法改正によって、遺言執行者が単独で登記手続できることが明記されました(民法1014条2項)。なお、従来通り、相続人による登記手続も可能です。
「遺贈」とは、遺言により遺言者の財産を他人に贈与することです。遺贈を受ける他人を受遺者(じゅいしゃ)といいます。相続人のみならず、相続人以外の人も受遺者にすることができます。ただし、通常、相続人に対しては上記の「相続させる旨の遺言」がなされるため、遺贈は相続人以外を対象にすることがほとんどです。
被相続人名義の不動産について遺贈がなされた場合、遺言執行者がいるのであれば、遺言執行者しか登記手続ができません(民法1012条2項)。相続法が改正される前は相続人による登記手続もできましたが、現在はできないため注意が必要です。なお、遺言執行者がいない場合は相続人が登記手続をします。
相続法が改正される前、遺言執行者の法的地位は「相続人の代理人とみなす」とする規定があるのみで(旧民法1015条)、必ずしもその法的地位が明確ではありませんでした。そのため、遺言者の意思と相続人の利益が対立する場合に遺言執行者と相続人との間でトラブルが生じるなどの不都合がありました。こうしたことを踏まえて、下記のような規定が設けられ、遺言執行者の法的地位や一般的な権限が明確化されました。
また、遺言執行者は、特定財産承継遺言がなされた場合、上記の不動産の登記手続に加え、預貯金の払戻請求をする権限があることも明記されました(民法1014条3項)。
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相続の相談が出来る弁護士を探す遺言執行者には民法で定められた欠格事由(未成年者や破産者・民法1009条)に該当しない限り、誰でもなることができます。ただ、大事な遺言内容の実現を任せるわけですから、信頼できる人を指定することが大切です。トラブルを避けてスムーズに遺言の内容を実現するためには、相続に精通した弁護士を遺言執行者に指定することもおすすめです。
では、遺言執行者になると、どのような任務をこなさなければならないのでしょうか。流れはおおむね下記の通りです。
遺言書で遺言執行者に指定された者が実際に就職する(遺言執行者になる)かどうかは自由です。そのため、就職を承諾する場合には、このことを明らかにするため、就職を承諾する旨の通知書を相続人に対して送付します。
また、遺言執行者は、遺言執行者に就任することを承諾したら、直ちに任務を開始するとともに、遺言の内容を相続人に通知しなければなりません(民法1007条)。そこで、上記の就任通知書と併せて遺言書の写しも送付します。
次に、遺言執行者は、相続財産の目録を作成し、これを相続人に交付しなければなりません(民法1011条1項)。相続財産目録を作成するにあたっては、不動産権利証や預貯金通帳などの関係書類の所在確認・保管といった相続財産の管理を開始するとともに、不動産の全部事項証明書や預貯金の残高証明書を集めるなどして遺言者の相続財産を調査します。また、相続財産目録を交付するため、戸籍謄本を集めるなどして遺言者の相続人を確定することも必要です。
そして、遺言の内容を実現する手続きを進めます。具体的な手続きは、遺言の内容によって千差万別です。たとえば、不動産や預貯金を相続させる内容になっていれば、不動産の所有権移転登記の申請や預貯金の払い戻しなどを行います。また、認知や相続人の廃除が内容となっていれば、役所に認知の届出をしたり、家庭裁判所に廃除の申立てをしたりします。
もし遺言執行者が任務を怠った場合には、以下の対処法が考えられます。
遺言執行者が上記の任務をこなしてくれない場合、相続人や受遺者は、遺言執行者の解任請求をすることが可能です。解任請求ができるのは、民法上「遺言執行者がその任務を怠ったときその他正当な事由があるとき」(民法1019条1項)とされています。どのような場合に解任請求ができるかを具体的に解説します。
まず、「任務を怠ったとき」とは、遺言執行者が任務に違反した行為をした場合や任務を放置して実行しない場合(遺言内容の実現を全くしない場合のみならず一部しかしない場合も含む)です。
次に、「その他正当な事由」とは、遺言執行者に遺言の公正な実現を阻害する事由のある場合です。たとえば、長期の病気、行方不明、長期の不在や遺言執行者が相続人の1人に特に有利な取り扱いをして公正な遺言執行を期待できない場合などです。
また、遺言執行者が任務を怠ったことで相続人や受遺者が損害を被った場合には、遺言執行者に対して損害賠償請求ができることもあります。
専門家ではない人が遺言執行者としての任務をこなすことには負担が大きいことも少なくありません。万全を期すのであれば、弁護士などの専門家を遺言執行者に選ぶことがおすすめです。また、遺言執行者と揉めている場合や遺言執行者の権限についてわからないことがあれば、弁護士に相談してみましょう。
(記事は2022年1月1日時点の情報に基づいています。)
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