目次

  1. 1. 貸金庫の中身も相続税の対象に
  2. 2. 貸金庫の相続手続き〜遺言がない場合〜
  3. 3. 貸金庫の相続手続き〜遺言がある場合〜
  4. 4. 貸金庫の中身は税務署にばれるのか
  5. 5. 貸金庫のチェックはお早めに

銀行の貸金庫は、申込みをすれば誰でも利用できます。利用料金はかかりますが、自宅で保管するのが不安な貴重品を、貸金庫で保管をすると安心です。

ただし、相続税の観点からは注意点がいくつかあります。貸金庫を利用したことで、相続税の申告誤りが起きたり、税務調査で目をつけられたりすることがあるのです。

相続税は、被相続人の保有していたほぼすべての財産が対象となります。したがって、貸金庫の中に現金や有価証券、貴金属などが保管されていれば、当然ながら相続税の申告書に記載しなくてはいけません。

しかし、貸金庫の存在自体を相続人が知らなければ、申告から漏れてしまいます。また、遺産分割協議が終わっていても、新たに見つかった貸金庫の財産は、あらためて協議が必要です。

貸金庫に対して税務署から目をつけられるかもしれません。財産隠しに貸金庫が利用される可能性もありえるからです。筆者も、相続税調査を行っていた頃は、貸金庫の中身を必ず確認していました。その結果、1億円近い現金を見つけたことがあります。

もちろん、税務職員といえど勝手に貸金庫を開けられないのですが、納税者と一緒に銀行に行き、職員の目の前で貸金庫を開けてもらうのです。

遺言などのヒントがなく、被相続人が貸金庫を利用していたのかが不明なときは、地道に調べる必要があります。

まずは、被相続人の預金通帳を見て、貸金庫の利用料が支払われていないかチェックしましょう。そこで利用していることを把握できたら、貸金庫の鍵を探します。

次に、貸金庫の中身を確認するわけですが、貸金庫は、原則として契約者本人しか開けられません。相続人が貸金庫の鍵を持参したとしても、貸金庫を開ける前に手続きが必要です。しかも、相続人が複数いる場合は、相続人全員の合意がなければ開けられません。このときは、銀行ごとに提出する申請書に加えて、一般的に以下の書類が必要です。

  • 遺産分割協議書または相続人全員の同意を示す書面
  • 被相続人の戸籍謄本(出生時から死亡時までのもの)
  • すべての相続人の戸籍抄本または戸籍謄本
  • すべての相続人の印鑑証明書
  • 貸金庫の鍵またはカード

なお、被相続人の預金の相続手続きでも、戸籍謄本や遺産分割協議書などを求められるので、まとめて手続きをするとスムーズです。

被相続人の遺言がある場合は、手続きが若干異なります。

遺言において遺言執行者を指定するときに貸金庫の手続きについての権限を付与することが可能です。貸金庫の開扉、解約、中身の取り出しの権限を遺言執行者に付与すると、相続人全員の同意がなくても遺言執行者が単独で手続きできるようになります。

こうすることで貸金庫の確認がスムーズに行えますが、貸金庫の中に遺言書を入れないように気をつけてください。貸金庫を開けるために遺言書が必要なのに、その遺言書が貸金庫の中にあれば、やはり相続人全員の合意が必要になるからです。

なお、遺言で遺言執行者に権限を与えれば、貸金庫の中身を単独で確認できるのですが、できれば相続人全員の立ち会いのもとで確認をしたほうがいいでしょう。

たとえば、相続人の誰かが遺言執行者として貸金庫をひとりで確認したときは、後から他の相続人に「勝手に相続財産を持ち帰った」などと疑われるかもしれないからです。

なお、遺言書の有無にかかわらず、貸金庫の中身の確認が終わったら解約するか相続人の名義で利用を継続するかを決めて、手続きをしておきましょう。

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貸金庫の中身が家族写真などであれば、相続税に関係しません。しかし、以下のような相続財産を見つけた場合、相続税の申告に加える必要があります。

  • 現金→そのまま計上
  • 預金通帳→相続開始時点の残高を計上
  • 宝飾品→相続開始時点の時価を計上
  • 不動産の権利証→相続税評価額を計上
  • 保険証書→保険契約の内容に応じて計上

貸金庫の中身は見落としがちですが、前述のとおり相続税調査において必ずチェックされます。税務職員には金融機関を調査する権限があり、貸金庫の契約状況もすぐに把握できます。また、預金の動きなどから隠し財産の存在を推測し、貸金庫に目をつけられることも少なくありません。

もし、相続税の申告期限を過ぎてから貸金庫の相続財産を見つけた場合、申告のやり直し(修正申告)が必要です。この場合、過少申告加算税や延滞税の対象となります。そうならないように、相続税申告の前に中身を確認して申告をしておきましょう。

なお、税務署の調査通知を受ける前に修正申告をすれば、過少申告加算税はかかりません。税務署の指摘を受けるまで放置していると、最低10%の税率で過少申告加算税がかかるので、早めに修正申告をすることが大切です。

相続に関する手続きには、いくつか期限を設けられているものがあります。相続開始後10か月以内の相続税申告だけでなく、3か月以内に手続きをすべき相続放棄・限定承認も重要です。

相続放棄や限定承認は、被相続人の財産や債務の全容が分からなければ判断するのが困難です。貸金庫から財産を見つける可能性がある一方で、借金の証書が入っているかもしれません。貸金庫の中身も含め、財産と債務を把握したうえで、相続放棄などの手続きを判断する必要があります。

貸金庫を確認するには時間がかかります。遺言執行者の指定がなければ相続人全員の合意が必要ですし、貸金庫のカギを紛失した場合はさらに時間がかかるでしょう。そういった意味から、貸金庫については早めに確認する必要があるのです。

相続にまつわる問題は多岐にわたります。税金の問題は税理士に、遺産分割など法律関係の問題は弁護士や司法書士に、早めに相談をしておくといいでしょう。

(記事は2021年12月1日時点の情報に基づいています)