2021年度の税制改正大綱を解説 贈与税の今後と改正のポイント
2021年(令和3年)度の与党税制改正大綱が発表されました。今回注目されていたのは暦年課税制度の大幅な改変です。導入は見送られましたが今後の行方が気になるところです。また今回、贈与税の非課税制度が一部変更されています。将来の税制の行方や改正のポイントを、税理士法人山田&パートナーズのパートナー税理士の清三津裕三さんと、税理士の伊藤健介さんに伺いました。
2021年(令和3年)度の与党税制改正大綱が発表されました。今回注目されていたのは暦年課税制度の大幅な改変です。導入は見送られましたが今後の行方が気になるところです。また今回、贈与税の非課税制度が一部変更されています。将来の税制の行方や改正のポイントを、税理士法人山田&パートナーズのパートナー税理士の清三津裕三さんと、税理士の伊藤健介さんに伺いました。
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与党の税制調査会(以下、税調)は今回、税制改正の基本的な考え方の項目で「相続税と贈与税の一体化」に触れています。実際、改正前から与党税調会長は「資産移転を公平にすべきだ」とし、暦年課税制度の見直しに意欲を示していました。
これまで国は、贈与税制度を緩和させ、日本経済の活性化につなげようとしていました。教育資金や結婚・子育て資金の非課税贈与制度の創設もその一つで、高齢者が保有する金融資産を若い世代に移転させ、消費を刺激しようとしていたのです。かつての様子を振り返ると、政府は急に方針転換をしたかのように見えます。しかし清三津さんは「実は前々回・前回の税制改正大綱から言及されていました」と指摘しました。
「一昨年から大綱の基本的考え方には『現行の相続時精算課税制度と暦年課税制度のあり方を見直す』『資産移転の時期に中立な税制を構築』といったことが書かれています。大綱に書かれている以外にも、かなり以前から税調はこういった議論を続けています」
今回、相続税・贈与税の根本的な改変は行われなかった一方、贈与税の非課税制度の一部が改正されました。背後には、経済対策だけでなく富裕層優遇の批判をかわしたい狙いがあるようです。
今回の相続税・贈与税の改正項目の一つは、教育資金に係る一括贈与の非課税制度です。この制度の適用期限が2年延長され、2023年(令和5年)3月31日までとなりました。しかし同時に、制度の運用が厳格化されました。
現行の制度では、贈与者である親や祖父母が亡くなった時点で、贈与された教育資金の残額に相続税がかかります。ただし、対象となるのは、死亡日以前3年以内に贈与されたものに限られます。また、受贈者が孫であっても、相続税は2割加算にはなりません。なお、受贈者が23歳未満である場合や、23歳以上でも学生だった場合には相続税は課されません。
しかし、今回の税制改正で、「死亡日以前3年以内」という枠がなくなりました。贈与した人が亡くなった時点で残っている教育資金贈与は、すべて相続税の課税対象になります。さらに、贈られた人が孫の場合、相続税額の2割加算が適用されます。「23歳未満や通学中の人は相続税が免除」という点は維持されています。なぜ、このように相続税課税が厳しくなったのでしょうか。伊藤さんは「富裕層の過度な節税を防ぐ狙いがある」といいます。
「教育資金の一括贈与は、非課税枠の大きさから、富裕層も節税策の一つとして利用していました。実際、この制度を使って3人の孫に贈与したとすると、1人最大1500万円×3人分で4500万円を贈与しても非課税になります。また、改正前は相続税が課税されたとしても、2割加算の適用無しで、孫に資金を移転することが可能でした。このような状況は『富裕層への優遇策だ』という批判を招いていました。国はそういった声を受け、相続税対策としての利用ではなく、『子や孫の教育のため』という本来の趣旨に沿った活用を目指したのでしょう」
なお、もう一つの贈与税の非課税制度である結婚・子育て資金についても適用期限が2年延長されました。こちらは現行でも相続開始時の使い残しに全額、相続税がかかります。孫の取得分については、2割加算が適用されることになりました。教育資金の一括贈与も含めてこれらの改正は2021年(令和3年)4月1日から適用されます。
贈与税はどの方法を選択すればいいのか、判断に困ることも多いです。非課税枠などを活用するには、専門家の税理士に相談すると、最適なアドバイスを受けることができます。これから贈与を考えている方は、一度、相談してみてください。
相続税・贈与税では住宅取得等資金の贈与税の非課税制度も変わります。この非課税制度は、耐震・省エネ・バリアフリーの家を買うための資金を贈与した時の非課税枠が大きく設定されている一方、それ以外の家は非課税枠が500万円小さく設定されています。本来、2021年(令和3年)4月1日以降の住宅の契約締結分から、それぞれの設定金額は減少するはずでした。しかし、今回の改正で2021年中は非課税金額が据え置かれることになりました。
「非課税枠の違いは政策上のものでしょう。日本は地震や風水害など災害が多い。より丈夫で人や環境にやさしい家を増やすという施策の一環ではないでしょうか」というのが清三津さんの見解です。
また、贈与の対象となる家と受贈者に新たな条件が加わりました。これまでの条件は「床面積の下限は50㎡以上」「受贈者の合計所得は2000万円以下」でした。しかし、2021年1月1日以降、合計所得額1000万円以下の人の購入する家の床面積が40㎡以上ならば、購入資金の贈与は一部非課税になります。「経済対策の一環という面と、富裕層による投資転用の防止という観点で、床面積要件の緩和の際の所得制限を厳しくしたものです」と伊藤さんは解説しました。
「今、核家族化が進み、家族の形が多様化しています。50㎡以上の家は3LDK以上ですが、こういった大きい家を買うのは子どももいる世帯です。今、大家族ばかりではありません。夫婦2人や単身者の世帯もあります。こういった人たち、特に若くて所得が低い人が家を買えるような贈与制度を設ければ、富裕層優遇を避けつつ景気を刺激できるかもしれません」
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相続の相談が出来る税理士を探す相続税・贈与税の一体化の検討にあたり、国は諸外国の税制を参考にしています。日本では相続開始前3年間の贈与が相続税の課税対象です。しかし欧米諸国はより長い期間の贈与を課税対象としています。イギリスは死亡日以前7年間、フランスは15年間です。アメリカは生前贈与すべてに相続税を課しています。
来年以降の税制改正では、こういった外国の制度を基に、相続税がかかる生前贈与の期間が長くなる可能性も考えられます。
あるいは「110万円以下の贈与は非課税」という暦年課税制度の変更があるかもしれません。この制度を使って相続税の節税対策をする人は多いですが、その結果、国に入る相続税が減っています。一方、私たちにとって、暦年課税制度は少ない負担で子や孫に資産を移す工夫の一つに過ぎません。それなのに、この制度が急になくなると私たちは困ってしまいます。
突然の増税に備えて今から何かすべきなのでは…という心配を伝えると、清三津さんは「急激に変わることはないでしょう」と前置きをしつつ次のように言いました。「現段階で具体的な見直し案は出ていません。暦年課税制度がすべて相続時精算課税制度に変わることはないでしょう。改正されるとしてもおそらく一部です」。「ただし、いずれ生前贈与をしようと考えていた人は、今後、贈与税の制度がさらに変更の可能性もあることを踏まえて、時期を少し早めることも検討した方がよいかもしれません」。
(記事は2020年12月25日時点の情報に基づいています)
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