駆け込み生前贈与は無制限に認められない

相続税は、亡くなった方(被相続人)が死亡日に所有していた財産に課されます。したがって、生前に現預金などの財産をご子息に贈与して相続税の課税対象となる財産を減らすことが相続税の節税につながります。ただし、国税庁としても節税目的で、亡くなる直前に駆け込みで行われる生前贈与を無制限に認めるわけにはいきませんので、被相続人の死亡日前3年以内の贈与財産のうち一定の要件を満たすものを相続財産に足し戻すこととされています(相続税法19条)。相続税の実務上、これを生前贈与加算といいます。

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生前贈与加算の検討が必要な被相続人の死亡日前3年以内とは、具体的にいつからいつまでの贈与を意味するのかというと、例えば、被相続人の死亡日を2020年12年1日とすると、この日からさかのぼって3年前の2017年12月1日が起算点になります。したがって、2017年12月1日から2020年12月1日までの間の贈与について生前贈与加算の適用可否を検討が必要となります。

また、被相続人の死亡日前3年より前の贈与であっても、そもそも贈与契約が有効になされていない場合等には相続税の節税にならない場合もあるため注意が必要です。例えば、親が子供名義の預金通帳に現金を振り込んでいて子供に現金贈与したつもりになっていても、預金通帳や印鑑を親が管理しており、子供が贈与を受けた認識がないような場合がよくあるケースです。

だれもが加算対象者ではない? 加算対象者の範囲

被相続人の死亡日前3年以内に贈与を受けた人すべてが生前贈与加算の対象となるわけではありません。条文上、加算対象となる人は「相続又は遺贈により財産を取得した者」と規定されています(相続税法19条)。

遺贈による財産の取得とは、被相続人の遺言で「○○は××に遺贈する」といった記載があり、その遺言に基づき財産を取得する場合を言います。したがって、被相続人の遺産を全く取得していなければ基本的には生前贈与加算の対象者にはならないのですが、以下のような人はたとえ被相続人の遺産は全く取得していなくても生前贈与加算の対象者となるので注意が必要です。

・みなし相続財産(生命保険金・死亡退職金等)を取得した人
被相続人の遺産は全く取得していなくても、被相続人の死亡に伴い支払われる生命保険金や死亡退職金等を取得した人は生前贈与加算の対象者となります。

・相続時精算課税制度の適用を受けている人
被相続人の遺産は全く取得していなくても、生前に被相続人からの贈与について相続時精算課税制度の適用を受ける旨の届出を行って生前贈与を受けた人。この場合、厳密には生前贈与加算とは別の条文(相続税法21条の16)に基づき相続時精算課税を適用した贈与財産につき被相続人の相続財産に加算されます。国税庁HPタックスアンサー「参考 相続時精算課税制度のあらまし」

孫への生前贈与は生前贈与加算の対象にならない?

生前贈与をするなら子供より孫に贈与したほうが相続税の節税になると見聞きしたことがある方も多いのではないでしょうか。これは、1世代飛ばして財産を贈与することで、子供が死亡した際の相続税の課税対象にならないという理由が大きいです。そして、もう1つの理由として、孫への生前贈与は生前贈与加算の対象にならないという理由が挙げられることが多いですが、一概に孫は生前贈与加算の対象外と判断するのは危険です。生前贈与加算の対象となる「相続により財産を取得した者」としては、相続人が該当し、孫は通常相続人には該当しませんが、以下のような場合には孫も生前贈与加算の対象者となりますので注意が必要です。

・被相続人の子供が先に死亡しており、孫がその代襲相続人となる場合
・被相続人の遺言で「○○は××(孫)に遺贈する」といった記載があり、その遺言に基づき孫が遺贈により財産を取得した場合
・被相続人の遺産は全く取得していなくても、被相続人の死亡に伴い支払われる生命保険金を孫が取得した場合
・被相続人からの孫への贈与につき、相続時精算課税制度の適用を受ける旨の届出を行って生前贈与を受けた場合。この場合、厳密には生前贈与加算とは別の条文(相続税法21条の15、21条の6)に基づき相続時精算課税を適用した贈与財産につき被相続人の相続財産に加算されます。

加算される贈与財産と加算されない贈与財産がある

加算される贈与加算の留意点
被相続人の死亡日前3年以内の贈与財産でも、贈与税の基礎控除110万円(年額)以下の贈与なら贈与税は課税されないし、生前贈与加算の対象にもならないのではないかと思い込んでいる方がいますが、残念ながら、生前贈与加算の対象になりますので注意が必要です。

加算されない贈与財産の範囲
被相続人から生前贈与された贈与財産であっても、次のような特例の適用を受けた財産については生前贈与加算の必要はありません。
1 贈与税の配偶者控除の特例を受けている又は受けようとする財産のうち、その配偶者控除額に相当する金額
2 直系尊属から贈与を受けた住宅取得等資金のうち、非課税の適用を受けた金額
3 直系尊属から一括贈与を受けた教育資金のうち、非課税の適用を受けた金額
4 直系尊属から一括贈与を受けた結婚・子育て資金のうち、非課税の適用を受けた金額

生前贈与加算の対象とならない被相続人の死亡日前3年より前の早いうちから贈与することが相続税の節税には効果的ですが、生前贈与には当然贈与税が課税されますので、どういった財産をどのタイミングでだれに贈与した方がよいか、相続時精算課税の選択等について事前に税理士に相談の上進めていくのがよいでしょう。また、子供が複数人いて、特定の子供だけに多額の生前贈与を行っていたような場合には、他の子供から遺留分侵害額請求権を行使され、相続時にトラブルに発展するケースも多いです。すでに贈与済みのような場合だけでなく、これから贈与予定の場合でも相続人間での争いが懸念される場合には早めに弁護士に相談いただくのが良いと思います。

(記事は2020年11月1日時点の情報に基づいています)