目次

  1. 1. 取得時効とは?
    1. 1-1. 自分の物だと信じ、長く使い続ければ所有権を取得できる
    2. 1-2. 相続した土地を名義変更しないと、取得時効が争われることも
  2. 2. 取得時効の要件
    1. 2-1. 所有の意思があること
    2. 2-2. 平穏かつ公然の占有であること
    3. 2-3. 他人の物を一定期間(10年、または20年間)占有していること
    4. 2-4. 時効の成立を主張すること
  3. 3. 取得時効が認められる場合と認められない場合のポイント
    1. 3-1. 「所有の意思」が判断のポイント
    2. 3-2.  所有の意思が認められないケース
    3. 3-3.  所有の意思が認められるケース
  4. 4. 取得時効を主張する場合の手続き
    1. 4-1. 相続登記には、ほかの相続人全員の協力が必要
    2. 4-2. 協力してもらえない場合は訴訟
  5. 5. 時効取得した財産には税金がかかる
  6. 6. 相続登記は義務化される方針
  7. 7. まとめ 時効取得したいのであれば、弁護士に相談を

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「他人の物でも使い続けていると、いつか自分の物になる場合がある」そういった話を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。

これは、民法に規定されている「取得時効」という制度で、自分の物だと信じて一定期間使い続ければ、実際には他人の物でもその所有権を取得することができます。

例えば、土地の境界が曖昧で、他人の土地を自分の物だとして信じて長く使っていた、ようなケースが当てはまります。

なお、まぎらわしいですが、「取得時効」によってその財産権を取得することを「時効取得」と言います。

相続の場面でも、取得時効が認められるかどうかが争いになるケースがあります。例えば、自分が実家を継いで長い間住み続けていたけれど、登記名義は自分ではなく祖父のままだった、というケースのように、遺産の土地や建物の名義が何代も前から変更されていないような場合です。

本来、財産を相続するには、相続人全員が話し合って遺産分割協議を行い、誰が財産を引き継ぐのかを決める必要があります。そのため、ただ遺産を使い続けたとしても、それだけでは自分の物にはならないのが原則です。

しかし、取得時効の要件を満たした場合には、長く使い続けたことで自分の物にすることができる場合があるのです。

そこで、以下で、取得時効の要件を見ていきましょう。

法律上、取得時効の要件には、

  1. 所有の意思があること
  2. 平穏かつ公然の占有であること
  3. 他人の物を一定期間占有していること
  4. 時効の成立を主張すること

という4つの要件があります。

所有の意思とは、「自分の物だと思っていること」です。例えば、人から借りたものは、他人のものと思いながら使っているので、いくら長い間使っていても取得時効は認められません。

あまり問題となることはありませんが、「平穏」とは暴力等を使って使い始めたものではないこと、「公然」とは秘密にして他人の目に触れないように使い続けているわけではないこと、を意味します。

原則として、20年間占有すること、いわば20年間の間使い続けていることが必要です。また、他人の所有物だと知らず、かつ、自分の物だと思っていたことに落ち度(過失)がない場合は、この期間は10年でよいとされています。

例えば、「自分の物だ」と思い込んでいた土地に家を建てて20年住み続ければ、その土地を自分の物にすることができます。

取得時効を主張するには、時効の援用といって、「時効が完成したので自分が所有者です」と所有者へ主張する必要があります。この主張をして初めて所有権を取得します。

以上の4つの要件のうち、特にポイントとなるのは、「所有の意思」です。自分の物として使っていたかどうかが判断の分かれ道になります。そして、所有の意思があるかどうかは、占有の開始原因(どのような理由で使い始めたのか)から判断することになります。

遺産を相続する場合、相続人の間で遺産分割の話し合いに結論が出るまでの間は、相続人が法律で決められた割合(法定相続分)で共有している状態です。例えば、実家の土地と建物を誰が相続するのか決めずに故人の名義のまま放置すると、実家は相続人全員の物という状況が続きます。

そのため、単に代々伝わる実家を共有のまま使い続けたとしても、基本的には、「相続人全員の物を自分が使っている」「ほかの相続人にも相続する権利があることを知っていた」ということになり、自分の物だと思って使っていることにならず、「所有の意思」が認められません。

その結果、自分の物として使い続けていたとしても取得時効は認められず、遺産分割協議を行って、遺産を誰が引き継ぐかを決めていく必要があります。つまり、相続財産の場合、その人が「その財産を単独で相続した」と認識するだけの理由がなければ、取得時効が認められることは難しいでしょう。

所有の意思が認められないケースの例
土地と建物の取得時効が認められないケース。共有状態の実家に住み続けているだけでは、「所有の意思」は認められません。

しかし、以下のような場合であれば、自分の物として使用していたということが考えられます。

祖父の代に、祖父が父親に実家を贈与したと聞いていた。その父親から引き継いだのだから自分の物だと思っていて、固定資産税などの費用は自分で全て負担していた。

このような事情が認められれば、自分の物として使う意思があるので「所有の意思」が認められ、その他の要件も満たせば、祖父名義の土地の取得時効が認められる可能性があります。ただし、登記簿を見れば容易に自分の所有物ではないことが分かるため、善意無過失を主張し10年の時効取得を主張するのは困難で、最低20年の占有が必要でしょう。

なお、上記の例でいえば、実際に祖父が父親に贈与したのかどうかは重要ではありません。あくまでそのような認識で自分の物だと信じて使っていたかどうかがポイントです。

所有の意思が認められるケースの例
祖父名義の土地の取得時効が認められるケース。「その不動産は自分が単独で引き継いだ」と信じていれば、所有の意思が認められます。

取得時効は「所有の意思」を巡り争いに発展しがちです。早めに弁護士への相談を検討するとよいでしょう。トラブルに強い弁護士の選び方については、相続トラブルに強い弁護士の選び方 相談するメリットや費用も解説をご覧下さい。

取得時効を主張するには、時効の援用といって、「時効が完成したので自分が所有者です」と法律上の所有者へ主張する必要があります。この主張をして初めて所有権を取得します。

そのうえで、不動産であれば、法務局で登記名義を変更する手続きが必要ですが、登記名義を変更するには元所有者の協力が必要です。遺産の土地や建物の名義が何代も前から変更されていないような場合でいえば、登記の名義人になっている人の相続人の協力が必要になります。しかし、突然権利を主張してきた人に対して、協力的な人はまれだと思います。

このように、登記名義の変更に協力してくれない場合には、裁判所に民事訴訟を申立て、裁判の中で、「私は時効で所有権を取得したので、登記を移せ」という確定判決を得る必要があります。

裁判の中では、先ほどの「所有の意思」などが争いになることが多いので、主張を裏付ける証拠をそろえて、裁判所へ説得的に主張や立証をしていく必要があります。

取得時効を主張する場合の手続

土地などの財産を「時効の援用」によって取得した場合、その財産の時価が経済的利益となり、一時所得として所得税と住民税が課税されます。

一時所得の金額は以下のように計算されます。

時効取得した財産の時価 ー 財産を時効取得するために使った金額 ー 特別控除額(最高50万円)

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このように、遺産の土地や建物の名義が何代も前から変更されていないような場合には、取得時効によって所有権を取得することができる場合がありますが、裁判で争うことになる可能性が高く、最善とはいえません。

また、近年、土地や建物の登記名義が長い間そのままとなっていて、誰が所有者か分からない、「所有者不明土地」問題が議論されています。所有者が分からないケースでは、ごみ屋敷や不法投棄場所になっていても誰も対処できない、公共事業を行うために土地を取得する必要があっても所有者が誰か分からず進めることができないなどの支障が発生しています。

そのため、法改正により、所有者が明確になるよう相続登記の義務化が2024年4月から始まります。相続から3年以内に相続登記しないと、10万円以下の過料が科せられます。これから相続する人だけでなく、過去に名義変更を放置している人も対象となります。

関連記事:相続登記の申請義務化が決定 2024年までに施行される制度を解説

今回、相続した不動産の取得時効の要件を説明しました。取得時効を他の相続人に主張する場合、裁判での争いとなる恐れもあるため、早めに弁護士に相談することも検討して下さい。

相続登記が義務化されれば何代も前の名義のままという事態は減少することになりそうですが、いずれにせよ、相続が発生した際には遺産分割協議を行い、登記名義を速やかに移して、できる限り後々になってトラブルになることを防ぐことが大切です。

(記事は2022年12月1日時点の情報に基づいています)

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