1.取得時効とは?

「他人の物でも使い続けていると、いつか自分の物になる場合がある。」そういった話を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。これは、民法に規定されている取得時効という制度で、自分の物だと信じて一定期間使い続ければ、実際には他人の物でもその所有権を取得することができます。相続の場面でも、取得時効が認められるかどうかが争いになるケースがあります。例えば、自分が実家を継いで長い間住み続けていたけれど、登記名義は自分ではなく祖父のままだった、というケースのように、遺産の土地や建物の名義が何代も前から変更されていないような場合です。

本来、財産を相続するには、相続人全員が話し合って遺産分割協議を行い、誰が財産を引き継ぐのかを決める必要があります。そのため、ただ遺産を使い続けたとしても、それだけでは自分のものにはならないのが原則です。しかし、取得時効の要件を満たした場合には、長く使い続けたことで自分のものにすることが出きる場合があるのです。
そこで、以下で、取得時効の要件を見ていきましょう。

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2.取得時効の要件

法律上、取得時効の要件には、

1. 所有の意思があること
2. 平穏かつ公然の占有であること
3. 他人の物を一定期間占有していること
4. 時効の成立を主張すること
という4つの要件があります。

1.所有の意思があること

所有の意思とは、「自分のものだと思っていること」です。例えば、人から借りたものは、他人のものと思いながら使っているので、いくら長い間使っていても取得時効は認められません。

2.平穏かつ公然の占有であること

あまり問題となることはありませんが、「平穏」とは暴力等を使って使い始めたものではないこと、「公然」とは秘密にして他人の目に触れないように使い続けているわけではないこと、を意味します。

3.他人の物を一定期間占有していること

原則として、20年間占有すること、いわば20年間の間使い続けていることが必要です。また、自分のものだと思っていたことに落ち度(過失)がない場合は、この期間は10年でよいとされています。

4.時効の成立を主張すること

取得時効を主張するには、時効の援用といって、「時効が完成したので自分が所有者です。」と所有者へ主張する必要があります。この主張をして初めて所有権を取得します。

4.取得時効が認められる場合と認められない場合のポイント

⑴ 判断のポイント

以上の4つの要件のうち、特にポイントとなるのは、1所有の意思です。自分のものとして使っていたかどうかが判断の分かれ道になります。そして、「所有の意思」があるかどうかは、占有の開始原因(どのような理由で使い始めたのか。)から判断することになります。

⑵ 所有の意思が認められないケース

遺産を相続する場合、相続人の間で遺産分割の話し合いに結論が出るまでの間は、相続人が法律で決められた割合(法定相続分)で共有している状態、いわば相続人全員のものになります。

そのため、単に代々伝わる実家を使い続けたとしても、基本的には、「相続人全員のものを自分が使っている」、ということになり、自分のものだと思って使っていることにならず、「所有の意思」が認められません。

その結果、自分のものとして使い続けていたとしても取得時効は認められず、遺産分割協議を行って、遺産を誰が引き継ぐかを決めていく必要があります。

所有の意思が認められないケースの例
所有の意思が認められないケースの例

⑶ 所有の意思が認められるケース

しかし、例えば、以下のような場合であれば、自分のものとして使用していたということが考えられます。

祖父の代に、祖父が父親に実家を贈与したと聞いていた。その父親から引き継いだのだから自分のものだと思っていて、固定資産税などの費用は自分で全て負担していた。

このような事情が認められれば、自分のものとして使う意思があるので「所有の意思」が認められ、その他の要件も満たせば取得時効が認められる可能性があります。
なお、上記の例でいえば、実際に祖父が父親に贈与したのかどうかは重要ではありません。あくまでそのような認識で自分のものだと信じて使っていたかどうかがポイントです。

所有の意思が認められるケースの例
所有の意思が認められるケースの例

5.取得時効を主張する場合の手続

取得時効を主張するには、時効の援用といって、「時効が完成したので自分が所有者です」と法律上の所有者へ主張する必要があります。この主張をして初めて所有権を取得します。
そのうえで、不動産であれば、法務局で登記名義を変更する手続が必要ですが、登記名義を変更するには元所有者の協力が必要です。遺産の土地や建物の名義が何代も前から変更されていないような場合でいえば、登記の名義人になっている人の相続人の協力が必要になります。しかし、突然権利を主張してきた人に対して、協力的な人はまれだと思います。

このように、登記名義の変更に協力してくれない場合には、裁判所に民事訴訟を申立て、裁判の中で、「私は時効で所有権を取得したので、登記を移せ。」という確定判決を得る必要があります。

裁判の中では、先ほどの「所有の意思」などが争いになることが多いので、主張を裏付ける証拠をそろえて、裁判所へ説得的に主張や立証をしていく必要があります。

取得時効を主張する場合の手続

6.最後に 相続登記は義務化される方針

このように、遺産の土地や建物の名義が何代も前から変更されていないような場合には、取得時効によって所有権を取得することができる場合がありますが、裁判で争うことになる可能性が高く、最善とはいえません。

また、近年、土地や建物の登記名義が長い間そのままとなっていて、誰が所有者か分からなない、「所有者不明土地」問題が議論されています。所有者が分からないケースでは、ごみ屋敷や不法投棄場所になっていても誰も対処できない、公共事業を行うために土地を取得する必要があっても所有者が誰か分からず進めることができないなどの支障が発生しています。

そのため、現在、所有者が明確になるよう相続登記の義務化の方針が進められており、令和3年2月2日には、法制審議会において相続登記の義務化を柱とする答申案をまとめたとの報道もなされています。

相続登記が義務化されれば何代も前の名義のままという事態は減少することになりそうですが、いずれにせよ、相続が発生した際には遺産分割協議を行い、登記名義を速やかに移して、できる限り後々になってトラブルになることを防ぐことが大切です。

(記事は2021年2月1日時点の情報に基づいています)