目次

  1. 1. 財産が安全に管理される信託の制度
  2. 2. 信託サービスの仕組み・特徴・手数料を比較
  3. 3. 信託で遺贈寄付する場合の注意点
  4. 4. 死後の寄付を生前に感謝してもらえる

「信託」と聞いて何をイメージされるでしょうか。信託銀行とお取引がある方は少ないので、「自分には関係ない」と思われるかもしれません。それでも、投資信託を保有している、聞いたことがある方は多いと思います。また、企業年金も信託の機能を利用しています。直接関わりがなくても、意外に身近なところで信託は活用されています。そして、信託は公益や福祉のためにも利用されています。信託は、受託者が財産を安全に管理し、信託目的に従って受益者に配分される仕組みですから、資金を提供する委託者も、資金が必要な受益者も安心して利用できる仕組みは、公益目的にはとても相性がいいと言えます。

もう少し、信託の仕組みを詳しく見てみましょう。信託は「委託者(財産を預ける人)」「受託者(財産を預かって管理・運用する人:信託銀行など)」「受益者(恩恵を受ける人)」の関係で成り立つ制度です。

「信託」の基本的な仕組み

委託者は、信託目的を定めて受託者と信託契約を結び、財産を受託者に預けます(信託します)。受託者は、信託財産を管理・運用しながら、信託目的に沿って、委託者が指定した受益者に財産を引き渡します。これが、信託の基本的な仕組みです。この仕組みを応用して、様々な信託商品や制度が生まれ、広く利用されています。

信託の仕組みを理解する上で重要なポイントが2つあります。1つ目は、信託された財産の所有権が受託者に移ることです。つまり、元々は委託者の財産だった信託財産は、委託者の手を離れて受託者の名義になる、ということです。委託者の立場からすると、少し不安に思われることでしょう。そこで、2つ目のポイントです。信託財産を管理する受託者(信託銀行等)は、信託法や信託業法などの法令により、様々な義務が課せられ、監督されていることです。受託者は、大切な財産の所有者となり管理する重い責任がありますので、安全に管理される制度が整っているのです。

信託は公益目的に使えるとお伝えしたとおり、寄付や遺贈寄付にも利用することができ、様々な金融サービスが存在しています。その詳細は後ほどご説明致しますが、その前に、遺贈寄付の代表的な方法である「遺言による寄付」との比較をしてみましょう。

この表のとおり、信託による寄付の場合は、財産が受託者に移転して管理されますので、確実に遺贈寄付が実行されますが、遺言による寄付の場合は「意思を紙に書いただけ」です。寄付する財産を使ってしまう、遺言を書き換える、遺言書を紛失してしまう、などの可能性があるため、確実に遺贈寄付が実行されるとは限りません。また、信託による寄付は、一般的には商品化された金融サービスを利用するため、予め受託者が用意した申込書や契約書等に記入するだけで、簡単に手続きが完了します。これに対して、遺言の場合は、ひな型に沿って書いたとしても、家族構成や財産内容は人それぞれですので、正確で円滑に手続きができる遺言書を作成することは、専門家のサポートがないとなかなか難しいものです。

「遺言信託」という言葉を聞かれたことがあるでしょうか。名前に「信託」がありますので、信託の仕組みを利用しているように見えますが、実は違います。遺言信託は、遺言を使ったサービスで、信託銀行等が取り扱っています。遺言で財産配分等の意思表示をしますので、信託のように財産は受託者に移転しません。遺言者(委任者)は受託者(受任者)と、遺言書の保管や遺言の執行などに関する契約を結びますが、預けるのは財産ではなく遺言書という「紙きれ」だけです。信託の機能は全くないのですが、信託の名称が入っていて少し紛らわしい感じもします。

手続きが簡単で確実に遺贈寄付ができる「信託」ですが、実際に利用できる金融サービスには、どのようなものがあるでしょうか。それぞれのサービスの仕組み・特徴・手数料を比較します。

・遺言代用信託
金銭を信託し、死亡後に受益者に交付する。遺言に類似する機能を有するが、遺言を作成する必要がない。100万円から利用可能、中途解約可(オリックス銀行の場合)。手数料は無料(オリックス銀行の場合)。

・特定寄附信託
信託銀行等が契約した公益法人等の中から寄付先を指定。信託した金銭を分割して定期的に寄付する。委託者が途中で死亡した場合は残額が一括寄付される。10万円から利用可能(三菱UFJ信託銀行の場合)。中途解約は不可。手数料は無料。

・生命保険信託
生命保険に加入するとともに、信託契約を締結。死亡保険金の受取人を信託銀行等に指定。信託金を分割して定期的に受益者に交付。受益者に公益団体を指定すれば遺贈寄付にも利用できる。月々少額の保険料で、大きな金額の寄付ができる。契約時:5千円、保険金支払時:保険金の2%、分割交付時:年間2万円(プルデンシャル信託で分割交付の場合)。

・公益信託
篤志家が公益目的のために財産を信託。信託時には受益者の定めがなく、信託期間中に定期的に運営委員会が助成先を選考し、助成金が給付される。信託財産は数千万円以上。委託者の生死に関係なく、助成される。諸費用はすべて信託財産から支払われる。

・遺言信託(比較のため)
遺言による寄付。信託銀行等と遺言書保管等を契約。寄付先は自由に選べる。金額も自由。不動産の遺贈も可能(寄付先に確認要)。契約時:30万円、遺言書保管料:年間6千円、遺言執行報酬:最低100万円からの財産比例方式(みずほ信託銀行のプラン30の場合)。

信託による寄付は、「財産額が大きくないと利用できない」「利用手数料が高額」というイメージがあるかもしれませんが、実際は、比較的少額から利用可能であり、手数料も無料か低廉なものが多いのです。遺贈寄付を検討するとき、一つの選択肢として考えても良いでしょう。

信託による寄付でも、遺言による寄付と同じように、寄付した財産は遺留分計算の対象になります。信託した時点で、所有権は委託者から受託者に移転しますが、相続財産の一部であるとみなされて、遺留分計算されるのです。遺留分を侵害するような多額の信託で遺贈寄付をすると、寄付を受けた団体が相続人から遺留分侵害額請求を受ける可能性がありますので注意しましょう。
相続税申告でも、信託財産は相続財産とみなされますので、申告の対象となります。ただし、寄付した信託財産は相続財産から控除できますので、結果的に相続税はかかりません。相続税がかからないから申告不要という訳ではありませんので、注意が必要です。

また、信託で寄付する契約をした後に、不測の事態でお金が必要になったとき、信託を中途解約して信託金を取り戻せるもの(例えばオリックス銀行の遺言代用信託)と、中途解約できないもの(特定寄附信託など)がありますので、信託契約する際は、将来の施設入所や病気などを考慮して、余裕をもって設定しましょう。

信託による寄付は、中途解約しない限り100%寄付が実行されることが、大きな特徴です。その特徴を活かして、寄付者が信託契約した時点で、受益者である団体が寄付者に感謝状などを贈呈する仕組みを組み込んだ信託商品があります。つまり、寄付が実行されるのは死後ですが、生前に感謝するのです。これは寄付者にとっても嬉しいことではないでしょうか。遺言による寄付では、なかなかできないことです。これまで、寄付をしても公言しない、奥ゆかしい「陰徳の美」の風潮がありましたが、これからは善い行いに対して、積極的に褒め称える「脱・陰徳の美」を推進することで、遺贈寄付が身近に可視化され、カッコいいものとして普及することを期待しています。生前に感謝の意を表せる、信託による寄付は、寄付文化の醸成に欠かせないものとなるでしょう。

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(記事は2020年10月1日時点の情報に基づいています)