目次

  1. 1. 自宅の土地100坪までの評価額が8割減額に
  2. 2. 「区分所有登記」の有無による2つのケースの違い
  3. 3. 「合併登記」で「区分所有登記」の解消も可能

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今回注目したいのは、親子で二世帯住宅に住むケースにおける小規模特例の適用についてです。子育てや介護のしやすさから人気が高まっている二世帯住宅ですが、重要なポイントを見落とすと、小規模特例を全く適用できないということになりかねません。「知らなかった、そんなはずではなかった」とならないよう、生前からしっかり検討しておくことが重要です。

自宅の土地は生活の基盤たる重要な財産であり、そこに重い相続税が課されてしまうと、自宅を売却して納税資金を確保しなければならないといった問題が生じかねません。そこで、一定の要件を満たした場合に、自宅の土地で330㎡(100坪)までの部分について土地の評価額を8割減額できる、すなわち評価額を2割まで引き下げることができるという小規模特例が設けられています。

特例の適用にあたっては、「誰がその土地を相続するのか」という点が重要なポイントであり、「①配偶者」、「②同居親族」、「③左記の①②がいない場合における持ち家なしの別居親族」のいずれかが相続した場合に限って小規模特例が適用できるとされています。

二世帯住宅の相続において気を付けなければならないのは、そこに住む子供が上記②の「同居親族」として取り扱われるかどうかという点です。その判断にあたっては、建物の「登記の形態」を確認する必要があり、具体的には、「区分所有登記」がされているかどうかがチェックポイントになります。「区分所有登記」とは、一棟の建物において構造上区分されている部分ごとに所有権が設定されている登記をいい、多くの二世帯住宅がこの「区分所有登記」の方法を採用していると思われます。小規模特例では、「区分所有登記」された建物に住む子供は、「同居親族」とは取り扱われません。つまり、小規模特例の適用が受けられないということになります。一方、「区分所有登記」されていない建物に住む子供は、「同居親族」として取り扱われます。この違いについて、以下で2つ事例を挙げて説明します。

ここでは、二世帯住宅に父親と長男が住んでいる場合で、父親に相続が発生し、土地を長男が相続するケースを想定しています。長男は、父親が所有する二世帯住宅の2階に居住していますが、家賃は支払っていないものとします。

「区分所有登記」されていない二世帯住宅に住む長男が土地を相続する場合には、長男は「同居親族」と取り扱われ、小規模特例を適用することができます。なお、この二世帯住宅が構造上独立しているかどうかによってこの取り扱いは変わることはありません。つまり、建物の1階と2階が内階段で行き来できる場合でも、内部で行き来できない場合でも、同じ「同居親族」として取り扱われます。

「区分所有登記」されている二世帯住宅に住む長男が土地を相続する場合には、長男は「同居親族」と取り扱われないため、小規模特例を適用することができません。この事例では、「区分所有登記」がされているという点以外は【事例1】と同じ前提です。このように、「区分所有登記」がされている場合は、小規模特例において「同居親族」と取り扱われず不利になることがありますので注意が必要です。

「区分所有登記」がされているか否かで、「同居親族」の判断が異なるという取り扱いは、比較的近年の税制改正によって規定されました。この改正より前に建築された二世帯住宅では、新築時に「区分所有登記」をしたまま現在に至っているケースは少なくないと思われます。あるいは、改正より後に建築された二世帯住宅でも、この改正の内容を知らずに「区分所有登記」をしてしまった場合もあるでしょう。いずれにせよ、この状態のまま相続が発生した場合には、相続税の取り扱いにおいて思わぬ税負担が生じることがあるかもしれません。
対応策として、「合併登記」を行うことで、「区分所有登記」を解消する方法が考えられます。合併登記とは、別々の建物として登記されているうちの一つを主たる建物とし、残りの建物を附属建物とすることで登記簿上一つにまとめるというものです。【事例2】のように、建物の構造が独立している場合には、この手続きを行うことで「区分所有登記」を解消し、【事例1】と同じ状態に変更することができます。ただし、合併登記を行うにはいくつか条件を満たす必要があり、区分登記されているそれぞれの建物所有者の持分割合が異なる場合や、住宅ローン等の抵当権が付いている場合には直ちに合併登記ができないため注意が必要です。また、合併登記を行うには、登録免許税や専門家への手数料といった費用がかかります。そのうえで、将来の相続を見据えた対応策をご検討の場合には、まずは登記の現況を確認していただき、このような内容にも詳しい税理士に相談されることをお勧めいたします。

(記事は2020年8月1日現在の情報に基づきます)

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