遺贈寄付とは?【事例付き】 メリット・注意点・手続き・相談先まで解説
自分が遺す財産を社会貢献のために寄付する人が増えています。「私の財産の一部を〇〇団体に遺贈する」などと遺言に書いて、死後にその遺志が実現されることを「遺贈寄付」といいます。遺贈寄付のメリットや注意点、相談先について、遺贈寄付の普及に努めてきた専門家が解説します。
自分が遺す財産を社会貢献のために寄付する人が増えています。「私の財産の一部を〇〇団体に遺贈する」などと遺言に書いて、死後にその遺志が実現されることを「遺贈寄付」といいます。遺贈寄付のメリットや注意点、相談先について、遺贈寄付の普及に努めてきた専門家が解説します。
目次
「遺贈寄付(いぞうきふ)」とは自分の死後、自治体やNPO法人、学校法人などの公益団体へ、自分の遺志や相続人の意志で財産を贈ることです。
「お世話になった地域社会に恩返ししたい」「将来を担う子どもたちの教育に役立ててほしい」など理由はさまざまですが、遺贈寄付は「人生最期の社会貢献」の手段として注目を集めています。
そもそも「遺贈」とは、遺言によって財産を無償で譲与することを言います。例えば、「私の自宅(土地・建物)を甥 山田太郎に遺贈する」「私の金融資産から100万円を知人 高橋一郎へ遺贈する」というように、法定相続人や法定相続人以外の第三者または法人へ遺贈することが可能です。
では、このような遺贈と遺贈寄付は何が違うのでしょうか。
一般の遺贈は自分の相続財産を第三者に単に分け与えることです。一方で、遺贈寄付は公益的な活動をする団体へ相続財産を譲与することにより、その団体の活動を支え、社会的課題の解決や社会貢献につながることが大きな違いです。
寄付と遺贈寄付は何が違うのでしょうか。
一般の寄付も遺贈寄付も、公益的な活動をする団体や事業に対して財産を無償で提供することは同じです。しかし、前者は「今」、後者は「将来、自分が死亡した時」に寄付します。募金も義援金もクラウドファンディングも寄付ですが、大金持ちを除けば多額の寄付はなかなかできません。
しかし、「今」は多額の寄付はできなくても、自分が亡くなった時に残った財産の中から一部を遺贈寄付するのであれば、意外に大きな金額になることもあるでしょう。人は誰でもいつ亡くなるのかわかりませんので、財産をゼロにして死ぬことはできず、どうしても財産が残ってしまうからです。こうした点からも、遺贈寄付は新たな寄付の方法として注目を集めています。
遺贈寄付の金額は年間300億円前後で推移しており、件数はここ10年間で2倍以上と増加傾向にあります。
NPO法人「全国こども食堂支援センター・むすびえ」が2023年に実施した調査によれば、遺贈寄付の認知度は70.4%と、第1回調査の67.4%から増加しました。遺贈寄付の意向がある人の割合も7.6%から10.0%と上昇しています。
遺贈寄付が普及した背景には、日本人の寄付に対する心理的なハードルが下がっていることが考えられます。その背景には、2011年に発生した東日本大震災で多くの人が寄付を体験し、最近ではクラウドファンディングも普及してきたことがあります。
遺贈寄付する方法は、以下のように複数あります。
【遺言による寄付】
最も代表的なのは、「私の預貯金を〇〇団体に遺贈する」などと遺言に書いて、財産の全部または一部を公益団体に寄付することを遺言で残す方法です。
【死因贈与契約による寄付】
公益団体との間で死亡後に寄付が実行される内容の贈与契約を締結する方法です。
【生命保険による寄付】
生命保険に加入し、死亡保険金の受取人に非営利団体などを指定する方法です。
【信託による寄付】
財産の全部または一部を非営利団体等に寄付する目的の信託契約を、信託を引き受ける者(受託者)との間で締結する方法です。
【相続財産の寄付】
手紙、エンディングノート、口頭などにより、遺族に相続財産の全部または一部を寄付することを依頼する。または相続人自身の意思で寄付します。
【香典返し寄付】
遺族(喪主)が香典のお返しに代えて、故人が支援していた公益団体に寄付します。
それぞれ、寄付の意思の残し方や実際の手続きは異なりますので、自分に合った方法を選択すると良いでしょう。
遺言がなければ、遺産は法定相続人に相続されます。相続人がいない、おひとりさまの場合は、最終的には国庫に入ることになります。
一方で、「遺言による寄付」を行えば、死後に財産を引き継ぐ先を自分の意思で決めておくことができます。
遺贈寄付は社会貢献にもつながります。たとえば、貧困に苦しむ親子を支援するNPO法人に遺贈寄付すれば、その活動のために遺産が使われます。自分の遺産を、自分が関心のある社会問題の解決に役立てることができることは、遺贈寄付者にとって大きなメリットと言えるでしょう。
また、NPOへ遺贈寄付するとお礼状や活動報告が届きます。遺族にとっても故人への誇りを感じられるでしょう。
遺贈寄付により、相続税や所得税が軽減される可能性があります。しかし、遺贈寄付の方法や寄付先団体の種類によって、適用される場合とされない場合があるので注意が必要です。
【遺言などによる寄付の場合】
寄付先が法人であれば、一般社団法人や認定でないNPO法人でも、原則として寄付した財産に相続税はかかりません。これは、相続税が「個人」を対象にした税金であり、「法人」が受け取った財産は対象外だからです。
また、寄附金控除については、被相続人(亡くなった人)の所得から控除されます。相続人が準確定申告(死亡から4ヶ月以内に所轄税務署へ申告)しますが、この適用が受けられる寄付先は税制優遇団体(国・地方公共団体・公益法人・認定NPO法人など)に限られます。
【相続人が相続財産から寄付する場合】
相続人が相続財産を受け取ってから寄付しますので、原則として一旦は相続財産全体が相続税の対象となります。しかし、相続開始から10ヶ月以内に税制優遇団体(国・地方公共団体・公益法人・認定NPO法人など)へ寄付して相続税申告することにより、寄付した財産を相続税計算の対象から外すことができます。
また、寄附金控除については、寄付した相続人の所得から控除することができます。相続人が確定申告することにより、この適用を受けることができますが、寄付先は税制優遇団体に限られます。
遺贈寄付に関心をもったら、具体的にどう行動すれば良いのでしょうか。
最初に結論を言ってしまえば「遺贈寄付に詳しい専門家に相談しましょう」という事になります。しかし、最初から弁護士や信託銀行または公益団体に相談するのは少しハードルが高く感じられるかもしれませんし、そもそも「遺贈寄付に詳しい」専門家を探すのも大変です。
そこで、まずは遺贈寄付のポータルサイト「いぞう寄付の窓口」をご覧になると良いでしょう。遺贈寄付に関する様々な情報を得ることができます。また、全国の「加盟団体」に無料で相談することもできます。特定の団体への寄付を誘導するようなことはしませんし、遺贈寄付を強要することもありません。気軽に相談できるところが魅力です。
遺贈寄付の手続きの具体的な流れはどのようになるのでしょうか。まず下記の流れ図を参照して下さい。
寄付先の選定や遺言書の内容を専門家などに相談する前に、考えておくべき大事なことがあります。それは「私はなぜ遺贈寄付するのか」ということです。
遺贈寄付をするとき、何の縁もゆかりもない団体に遺贈する人は少ないと思います。自分の人生を振り返り、自分に大きな影響を与えた経験・出来事・活動・人物・職業・理念などを思い浮かべ、これに関係する団体や活動を応援したいと考えて、寄付するのではないでしょうか。いわば、人生の同心円上にある団体に遺贈するのだと思います。
こうしたことを整理するのに自分一人だけで考えるのは大変なので、早い段階から専門家に相談すると良いでしょう。専門家も遺贈寄付のプランニングをご提案する際に、寄付者の背景・歩み・考え方等を知っておくことは大変重要です。
自分の考えが整理されたら、寄付先や相続人に引き継ぐ財産の配分を決め、遺言書を作成します。
自分の内面を深掘りし、なぜ寄付するのかを考えた後、遺贈寄付の内容を検討する際に注意すべきことが大きく2点あります。
まず、残された家族・相続人を第一に考えることです。遺言で、一定の相続人が主張すれば最低限はもらえる「遺留分」を侵害しない財産配分とするだけでなく、残された家族や相続人との生前の関係や心情などにも十分配慮した財産配分とすることが、円滑で不満のない相続には重要です。
また、死後に家族が遺言に遺贈寄付があることを知って驚かないようにすることも大切です。 生前のうちに遺贈寄付する意思があることを、家族に伝えおきましょう。生前から少しずつ寄付し、団体から郵送される活動報告などを家族が目にすることも有効な方法です。
2点目は、寄付する相手(団体)の事情にも配慮することです。寄付を受ける団体も、あらゆる財産や条件で遺贈寄付を受けられる訳ではなく、例えば不動産を受けられない場合や、財産を個別に指定せずに財産全体について割合で指定する「包括遺贈」を受けられない場合もあります。
寄付先の団体や、専門家を通じて事前に確認することが重要です。
遺贈寄付を確実に実行するため、遺言執行者を決めておきましょう。遺贈寄付に不満を持つ相続人がいても、強い権限を持ち、遺言の内容を実現させることが遺言執行者の使命です。遺言執行者には法律の知識や手続きの経験が必要となるため、弁護士などの専門家に任せるとよいでしょう。
実際には、遺言作成をサポートした専門家がそのまま遺言執行者になることが多いようです。
遺贈寄付できる先は、大きく分けると、自治体と民間非営利団体の2つにわけられます。非営利団体には、学校法人、公益財団法人、NPO法人などがあります。
知名度と実績のある団体のほうが安心して、寄付できるという人もいるでしょう。多くの人が知っていて、遺贈寄付を受け入れている団体は以下の通りです。
上記に挙げた例は、遺贈寄付を受け入れている団体のほんの一部です。自分が心の底から応援したいと思える寄付先を探してみて下さい。
遺贈寄付の事例を紹介します。いずれのケースも、寄付者の想いが団体に託される形で、遺贈寄付が活用されています。
Aさんは数年前に大切な奥様をがんで亡くしました。がんの発見から数ヶ月でご逝去され、大きな喪失感を抱えていました。そんな中、「同じ思いをする人が少しでも減るように」と、がんの征圧を目指す団体へ遺贈する遺言を作成し、少し安堵されたご様子でした。
Bさんは70代の独身女性です。お友達との山歩きを趣味にしています。以前から「人間として生きる以上の負担を自然にかけてしまった」との思いがあり、「少しでもお役に立てれば」と環境保全団体へ遺贈する遺言を作成しました。
Cさんは、数ヶ月前に夫を亡くしました。夫は遺言を書いていませんでしたが、生前に「跡継ぎに財産を残すと良いことはない、最低限残してあとは寄付するように」と言っていました。その想いをつないで、ひとり親を支援する団体に相続財産の一部を寄付しました。
不動産の遺贈寄付するには、遺言で不動産を公益団体へ遺贈する方法と、相続人が相続財産の中から不動産を公益団体に寄付する方法があります。
しかし、不動産の遺贈寄付を受け入れる公益団体は非常に少ないのが現状です。現金の寄付とは異なり、「寄付された不動産を団体の活動に利用できるかわからない」「換金する場合でも必ず売却できるとは限らない」などの恐れがあるためです。
不動産を遺贈寄付しようと考えた場合、寄付先の公益団体が不動産を受け付けているかを事前に確認することが重要です。
自分が興味や思いのある分野などを踏まえ、その問題に取り組む団体のホームページなどを参考に、寄付する団体を選ぶとよいでしょう。興味のある団体の相続セミナーや相談会に行ったり、団体のボランティアに参加したりすれば、その団体についてより詳しく知ることができるでしょう。しつこく遺贈を勧誘されることはありませんので、気軽に参加してみてはいかがでしょうか。
なお、寄付先は一カ所だけでなく、複数団体にすることも可能です。
遺贈寄付の基本情報から、メリットや注意点、相談先について説明しました。
遺贈寄付と聞くと多額のイメージがあるかもしれませんが、実際には数万円程度の少額でも可能です。遺贈寄付に関心をもったら、まずは「私はなぜ遺贈寄付するのか」について考え、その思いと照らし合わせながら、共感できる団体への寄付を無理のない範囲で検討してしましょう。
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(記事は2024年11月1日時点の情報に基づいています)