受託者である子世代が高齢化したら予備的受託者の指定を ”老老信託”化リスクへの対処
家族信託の基本的な仕組みは、老親(委託者で受益者)を子(受託者)が支えるものです。しかし、年を重ねて衰えるのは子世代も同じ。信託期間が長くなると、親子ともに高齢化して「老老信託」のような状態になる可能性があります。それを防ぐ「予備的受託者」について、宮田浩志司法書士が解説します。
家族信託の基本的な仕組みは、老親(委託者で受益者)を子(受託者)が支えるものです。しかし、年を重ねて衰えるのは子世代も同じ。信託期間が長くなると、親子ともに高齢化して「老老信託」のような状態になる可能性があります。それを防ぐ「予備的受託者」について、宮田浩志司法書士が解説します。
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現在財産を持つ高齢の父親のためだけではなく、父親の死後も母親の財産管理まで担う「受益者連続型信託」を設計する場合など、長期にわたる信託契約の継続を想定しているケースでは、老親を支える子世代たる受託者自身も高齢になり心身が衰えたり、不慮の事故で死亡したりするリスクが増加します。
“老老介護”・“老老後見”という言葉が使われて久しいように、“老老信託”という事態もいずれ現実的なものとなるかもしれません。90歳代の委託者(親)にして70歳代の受託者(子)というのは、十分にあり得る話です。
もし信託契約期間中に受託者が死亡すると、受託者の地位が空席になります。この場合、信託契約に特段の定めがなければ、「信託は受益者のための仕組みである」という原点にかえり、「委託者及び受益者」が(家族信託の実務上は委託者と受益者が同一人物のため、実質的には受益者が単独で)新たな受託者を選任する必要があります(信託法第62条第1項)。
しかし、受益者は老親であるケースが多く、新たな受託者を選任したくても判断能力の低下によりできないことも多分にあり得ます。そして、もし受託者が空席のまま1年が経過すると、強制的に信託契約は終了してしまいます(信託法第163条第3号)。
信託契約の終了という事態を避けるために、成年後見制度の代用として家族信託を導入したのにも関わらず、信託の受託者を選任するために成年後見人をつける(成年後見制度を利用する)という、不本意な事態に陥る可能性もあります。
そこで、信託契約書の中で予備的に「第二受託者」を定めておくというのが実務的に必要な対応になります。さらに「第三受託者」「第四受託者」まで指定しておくこともあります。
この場合、誰を予備的な受託者に指定しておくかも、委託者たる親の希望も踏まえ、家族会議の中で検討し、皆の納得の上できちんと定めておくことが理想的です。
長男を受託者として信託契約するケースを例に挙げて説明します。
もしその長男が交通事故にあって受託者の業務が担えない、という事態が起きてしまったときに、長男の配偶者を次の受託者にするのか、二男や長女などの他の兄弟にするのか、を予め検討して決めておきます。これが予備的受託者の指定です。老親を生涯支える仕組み作りとして、実はとても重要なことです。
信託契約を考え始める段階では、予備的な受託者をあらかじめ決めておけないということもあるでしょう。その場合予備的受託者を選ばなければならないタイミングになってから、信託契約を一部変更して、予備的受託者を置くことも選択肢の一つです。一方で、将来的に受益者たる老親の健康状態が悪化すれば信託契約の変更もできなくなるリスクがありますので、「後任の受託者を指定する方法」を規定しておくというのも一考に値するでしょう(たとえば、「信託監督人が後任の受託者を指定する」という定めです)。
最初の受託者が健在のうちは、予備的受託者は財産管理を担うわけではないため、信託契約の当事者にはなりません。あくまで、現在の受託者が財産の管理者として任務を遂行できなくなったときに、次の担い手候補として指名しておくイメージです。
したがって、将来必要な場面になった時になってから、予備的受託者に指名された本人が、後任の受託者として就任を承諾するかどうかという判断をすることになります。もちろん、そのいざという時に就任を拒絶されないように、家族信託の設計・検討の段階で予備的受託者の候補者にも家族会議に同席してもらい、家族信託の仕組みや趣旨等を正確に理解してもらうことが必要です。
結論として、受託者が先にいなくなるリスクや受益者連続型においては受託者も衰え得るという前提で、「予備的受託者を指定」しておくか、「予備的受託者を選任する方法を定めておく」という実務的な備えが必要といえます。
前回の記事では、子がすべき親の資産の出納管理について解説いたしました。この連載では今後も、家族信託に必要な知識やトラブル予防策を読み解いていきます。
(記事は2020年5月1日時点の情報に基づいています)