今秋が大きな節目に どうなる所有者不明土地問題
持ち主が分からなかったり、多くの共有者がいて困ったりする所有者不明土地の問題が、全国に広がっています。対策を講じるため、国は民法・不動産登記法の改正に関する中間試案をまとめました。所有権に関する規制も盛り込んだ法制化も検討しており、今秋が大きな節目となりそうです。ファイナンシャル・プランナーの佐藤益弘さんが解説してくれました。
持ち主が分からなかったり、多くの共有者がいて困ったりする所有者不明土地の問題が、全国に広がっています。対策を講じるため、国は民法・不動産登記法の改正に関する中間試案をまとめました。所有権に関する規制も盛り込んだ法制化も検討しており、今秋が大きな節目となりそうです。ファイナンシャル・プランナーの佐藤益弘さんが解説してくれました。
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2017年(平成29年)12月に公表された所有者不明土地問題研究会(一般財団法人国土計画協会)の最終報告で「2016年(平成28年)時点の所有者不明土地面積は、地籍調査を活用した推計で、約410万haあり、九州(土地面積:約367万ha)以上に存在する」という衝撃的な報告がされました。
そもそも「所有者不明土地」とは、「所有者台帳(不動産登記簿等)により、所有者が直ちに判明しない、又は判明しても所有者に連絡がつかない土地」と定義づけられています。
例えば、
・ 登記簿や固定資産課税台帳など所有者がわかる台帳が更新されていない土地
・複数の台帳で記載内容が違うことから、「誰がその土地の所有者か?」直ぐに特定することが難しい土地
・所有者は特定できても、その所有者の所在(転出先や転居先)がわからない土地
・登記名義人が既に亡くなっており、その相続人(所有権者)が多数となっている共有地
・所有者がわかる台帳に、全ての共有者が記載されていない。つまり、その土地の所有者がわからない共有地
のことです。
何故、この様な状況は起きるのでしょうか?
その主な理由は、相続時に登記をしなくてよく、困らないためです。ただ、それは「その時」だけです。
少々ややこしいのですが、そもそも登記とは「どのような不動産か?」「誰がその不動産の所有権などの権利を持っているか?」ということを証明する制度です。
「ここに、こういう不動産(土地・建物)があるよ」と伝える表示の登記は、税務当局が把握したいという背景もあり、法的にも強制です。
その一方、「不動産を持っているのは誰か?」「この不動産を担保にお金を貸しているのは誰か?」という権利に関する登記は、法的にも任意の制度です。
このため、相続発生時に登記をしなくても法的に問題はありません。親族間の中で、明確に所有者が分かっていて、固定資産税など定期的に掛かる費用を負担していれば、誰にも何の迷惑も掛けずに済むわけです。
むしろ、登記をするのに書面を用意したり費用が掛かったりするので、手間や経済的な負担が掛かる分、損をするので「登記しないほうが得!」ということになります。
都市部のように利便性が高く不動産価格が高額になるエリアでは、親族以外の人から、とやかく言われ、争いごとに巻き込まれる可能性もあるので、所有者が誰なのか明確にしておく必要性があります。
つまり、このような都市部では、登記をする意義と必要性が高いので、登記をされる方が多いでしょう。
ところが、郊外や地方圏など不動産価格がさほど高くないエリアでは、争いごとに巻き込まれるケースは稀でしょうから、親族が仲良く・顔見知りであれば、登記をしないことが多いはずです。
ただ、郊外や地方では、都市部への流入もあって人口が減少し、高齢化も進んでいます。過疎化する中で代替わりが進み、親戚付き合いも疎遠になると、相続時点のことがわからなくなり、土地の所有者もわからなくなります。
そうすると、問題が複雑化し、収拾できない事態になります。また、不動産の価格が下がっていくと、その土地を誰も相続したくなく、管理不全になることもあります。都市部も所有者不明土地問題の例外ではありません。資産価値が高いため、親族間で遺産分割をめぐってもめてしまうことがあります。親族間が疎遠になるだけではなく、土地の所有者を誰にするか決まらない事態にも陥ります。その結果、登記ができなかったり親族間で土地を共有することになったりすると、権利者が増えるとともに、問題が複雑化して収拾できない事態を招くこともあります。
例えば、親族で共有して相続したけれど登記をしなかった立地の良い不動産があるとします。その後、時を経ると、所有者が増えてしまったり、親族との付き合いが疎遠になったりすると、共有者を探すだけで苦慮することになります。
所有者不明土地の問題では、近隣住民が迷惑を被るケースも多々あります。
築年数が古い建物が建っていたり、不法投棄などでゴミ屋敷のようになり悪臭が漂っていたり、草木が生い茂りっていたりするような管理不全の土地です。
この様な土地では所有者がわからなければ、誰にも文句も言えません。かといって、勝手に立ち入り、対処することもできないので、非常に困った状態に陥ります。
前述の所有者不明土地問題研究会が2017年(平成29年)12月に出した最終報告「眠れる土地を使える土地に『土地活用革命』」」では、所有者不明土地の問題点として、以下の五つの点を指摘しています。
1. 不動産登記簿の情報が必ずしも最新ではない
2. 土地所有者の探索に時間・費用がかかる
3. 探索しても真の土地所有者にたどりつけない可能性がある
4. 必ずしも既存制度が活用されていない
5. 弊害は多岐にわたる
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相続の相談が出来る司法書士を探す次に、土地の売買という観点から所有者不明問題を掘り下げていきます。
例えば、とても利便性の良い土地で買いたいけれども、そもそも、誰が持っているか?わからない場合、どうでしょうか?
少々難しいお話になりますが、前述の登記は公示手段なのですが、法的に「公信力がない」とされています。つまり、登記の内容と実態が違った場合、登記を信じた者は守られないのです。極論を言えば、登記内容が間違っていてもしょうがない・・・ということになります。
近年、都内の一等地の購入を巡り、ある大手ハウスメーカーが詐欺にあったことがありました。その際も、登記が偽造されていたわけですが、登記を信じて購入したハウスメーカーはその土地を取得できませんでした。
つまり、持ち主がわからないと、土地の購入は難しいのです。
また、その土地が共有の場合はどうでしょうか?
個々人の共有権を個別に購入することはできます。ただ、思い通りに利用するには、完全な形で所有権を取得しないわけにはいかず、結局、共有者全員から権利を取得し、完全な形の所有権にする必要があります。
共有者を全員調べようと思っても、不動産登記簿の情報自体が古く、時間や手間・費用がかかるケースもあります。場合によっては、本当の所有者にたどりつけない可能性もあります。
また、共有者が全員分かったとしても、その後、個別に交渉する必要性が生じるので、完全な形で所有権を得ることは非現実的で難しいはずです。
逆に、自分自身が共有者の1人で、その土地が不要なので売りたいと思った場合、果たして売れるのでしょうか?
買い手側から見ると、不完全な所有権を買うことになります。たとえ価値の高い土地の権利であっても、本来の評価額を大きくディスカウントしないと売ることは難しいでしょう。つまり売れても二束三文。そもそも、完全な形で利用できない以上、そのような不完全な権利を買う人が皆無だと思います。
空き家や空き地が増える中、売るに売れない・・・そのような状況の土地が増えており、社会問題化しつつあるのです。
このような中、2018年(平成30年)11月に「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」の一部が施行されました。
例えば、所有権の登記名義人が死んだ後、長期間にわたって登記されていない土地があった場合、亡くなった方の法定相続人といった権利を持っている人を探した上で、登記官が職権を用いて、長い間、相続登記未了であることなどを登記に付記して、法定相続人ら権利を持っている人に登記手続きを直接促すことができるようになりました。
ただ、所有者不明土地問題を解消するためには、まだまだ必要なことが山ほどあります。
問題解決をより一層進めるため、2019年(平成31年)3月から法務省法制審議会 民法・不動産登記法部会で所有者不明土地問題について議論が続いています。
そして、2020年(令和元年)12月3日に「民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)等の改正に関する中間試案」として公表されました。パブリックコメントを受けて、2020年夏頃までには最終試案が出され、今秋、国会で審議が開始されると思われます。
この中間試案の特徴をピックアップして箇条書きにすると、以下のようになります。
1.相続等による所有者不明土地の発生を予防するため「相続登記の義務化」を進め、不動産登記情報の更新を図る
2.相続等による所有者不明土地の発生を抑制するため「土地所有権の放棄」や「遺産分割の期間制限」などを設ける
3.所有者不明土地の利用について円滑化かつ適正化を図る
・所有者不明土地の共有制度を見直す
・所有者不明土地の財産管理制度を見直す
・所有者不明土地を近隣地の住民が使えるように「相隣関係規定」を見直す
まず、この問題の根本的な原因である「相続等による所有者不明土地」の「発生を予防」するための仕組み作りとして、不動産登記情報の更新を図るようにします。具体的には「相続時の登記を義務化する」ことを挙げています。
また、所有者不明土地の「発生を抑制」するため、「土地所有権の放棄」や遺産分割を10年以内に行うなど期間制限を設けることなどが検討されています。
そして、所有者不明土地を「円滑かつ適正に利用」するための仕組み作りとして、「共有関係にある所者不明土地を利用できるような方策が考えられています。具体的には共有を解消しやすくするような民法の共有制度の見直しです。この件は2021年度に5年に1度改正される「住生活基本計画」でも「老朽化マンション」が主な議題に上がっていることからも大きな改正になりそうです。
また、所有者不明土地の管理を合理化するため、現行法にない「特定の財産のみを管理」する制度が検討されています。先行して2020年3月に土地基本法が改正されましたが、この件は別コラムで先行してお伝えしていました。
そして、近隣の所有者が境界確定や確認などをするため、近隣の所有者不明土地を利用しやすくするためのルール改正も提言されています。
以上の事柄は、執筆時点では現在進行形の話なので、変更されることも予想されます。
ただ、この流れは大きくは変わらないと私は感じています。それは、時代の流れに沿っているからです。所有者不明土地の解消だけでなく、所有から利用へという時代背景から考えると必然的な動きだと感じます。
この改正は、今年4月に施行された改正民法(債権編)と同じくらい大きなインパクトがあるはずです。ここ数年、私たちの生活の基本法である民法は大きな改正を続けています。2019年から続いている相続関連のほか、2020年4月の債権・契約関連が施行され、そして、2022年に18歳成人となる親族・・・家族関連の改正民法が施行される予定です。これに今回の所有者不明土地と相続関連の改正が続くことになります。
恐らく2020年代は様々な世の中で重要とされるルールの変更が続いていきますから、今後も、このような情報を早め早めにしっかり取得するよう努めましょう。
(記事は2020年4月1日時点の情報に基づいています)
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