目次

  1. 1. 受託者が法人ならより安定して管理できる
  2. 2. 法人の種類
  3. 3. 一般社団法人の場合のポイント
    1. 3-1. 法人が信託報酬を受け取るときのポイント
    2. 3-2. 株式会社の場合の注意

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前回の「予備的受託者」の記事でお話ししたように、家族信託の受託者(年をとった親にかわって資産管理する子、など)を個人にする場合、信託契約期間中に受託者の死亡や病気・事故等により受託者としての業務遂行ができなくなるリスクがあります。
そこで、受託者の死亡等の事態に備え、これらの可能性のない「法人格」を持った受託者に財産管理を託すという選択肢があります(この法人のことを「受託者法人」と言います)。

家族・親族で設立した法人(株式会社や一般社団法人など)に託すことで、個人の受託者より業務遂行の安定性が増し、永続性が見込まれることになります。一方で、個人の受託者なら権限が1人に集約されシンプルな財産管理ができるのに対し、法人の場合はいくつかの制約を受けることになります。

このように、法人の受託者にも一長一短がありますので、受託者を個人にするか法人にするかを検討する場合には、両者のメリット・デメリットをきちんと比較検討して、受託者をどうするかについて議論することが大切です(下記図1参照)。

図1

受託者が個人の場合、法人の場合の比較

なお、家業を営む主体として既に会社を持っている方であっても、家族・一族の財産管理の主体となる受託者法人は、別の法人にすることをおすすめしております。その理由の一つは、本業の経営状態に影響を受けない、長期に安定的な財産管理ができるためです。

もう一つの理由は、親族以外の従業員がいる会社にとって、本業とプライベートな財産管理業務の線引きが曖昧では、従業員のモチベーションが下がりかねないというリスクも考えられるからです。

受託者を法人にする方向で検討している場合、次のステップとしては、受託者となる法人をどうするかという点を検討しましょう。それにはまず、受託者となり得る法人にはどんな種類があるかを知る必要があります。

これから家族で法人を設立する場合、「株式会社」、「合同会社」、「一般社団法人」が典型的な選択肢として挙げられます(有限会社は、もはや新規で設立することはできませんが、休眠している有限会社を受託者法人として活用することは理論上可能です)。

各法人のメリット・組織形態等は、ここでは深く掘り下げませんが、株式会社・合同会社・有限会社は、商売で売上を立てることを目的とする「営利目的法人」という括りになります。一方、一般社団法人は、営利目的か非営利目的かは問いません。

家族の財産管理を長期にわたって担い、老親の生涯サポートに加え子孫の繁栄までを意図した家族信託の設計は、純粋な営利目的とはいえません。
そのため、これから新規で法人を立ち上げようとする方は「一般社団法人」を受託者とするケースが多くなっています(株式会社等の営利目的法人を受託者法人として活用できない訳ではありませんので、後述する定款に記載する事業内容を工夫することで対応可能です)。

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一般社団法人を受託者とする場合、家族・親族が2人以上で一族の財産管理を目的として設立し、子供がその社団の代表者(代表理事)として実際の信託事務を行う形が典型的といえます。

上記の図1に記載したとおり、法人を維持するには、法人住民税の均等割り(年間最低金7万円)、税理士への税務申告報酬、定期的な役員変更登記に関する費用などの運営費が発生します。
よって受託者法人は、その運営費を賄うため信託財産から定期的に「信託報酬」を貰うことが一般的です。

ここで、法人が信託報酬を受け取る場合には、信託業法との関係において注意が必要になります。信託業法は「不特定多数の人の財産を反復継続して預かる場合」に受託者が信託報酬を受け取るには金融庁の免許が必要と定めていますので、この信託業法に抵触しないような工夫が必要になるのです。

そこで、信託業法が規制する「不特定多数」という要件部分を満たさないようにする必要があります。一般社団法人は、その定款内で記載された「設立目的」を家族・親族に絞った長期的な財産管理・円満円滑な資産承継とする場合が多く、家族信託・親族以外の財産を受託する不特定多数性は最初から排除できます。

一方、株式会社等の営利目的法人は、理論上、不特定多数の方から財産管理を受託し得る立場なので、定款の事業目的に家族・一族の財産管理をする民事信託の引受け業務であることを記載することをお勧めしております。具体的には、「信託業法の適用を受けない民事信託の引受け」や「○○家一族の財産管理・資産承継を目的とした民事信託の引受け」などの記載がよろしいでしょう。

結論としては、どんな受託者法人であれ、定款の事業目的への記載が明確で適切であれば、信託報酬を受領しても信託業法の適用を心配することはありません。

引き続きこの連載では、家族信託に必要な知識やトラブル予防策を読み解いていきます。

(記事は2020年5月1日時点の情報に基づいています)

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