目次

  1. 1. 認知症の発症を確かめるのは難しい
  2. 2. 条件付契約では家族信託の意義が半減
  3. 3. 元気なうちに、早くから引き継ぎを

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親の判断能力が低下したときに発動する信託契約は可能なのか…。前回のコラムで触れましたように、親がある程度元気で物ごとの理解力がなければ、信託契約は締結できません。一方で、親側の要望として、「まだ自分が元気なうちは必要ないので、将来認知症になった時点で信託契約を使って子どもに財産管理を託したい」という声も多く聞きます。では、そのような条件付の信託契約は締結できるでしょうか?

理論的には、親(委託者)の「判断能力の低下」や「認知症の発症」をもって信託契約が発動する仕組みはできそうな気がします。しかし、実務上、実効力のある契約として本当に可能かどうかを確かめる必要があります。

そもそも、老親の「判断能力の低下」や「認知症の発症」を誰がどう客観的に判断するのでしょうか? 医師でしょうか? どの程度の低下が必要でしょうか?「契約」は、いつからその効力が生じるかという日付(「効力発生日」といいます)が非常に重要であり、誰が見ても客観的に明確な日付でなければなりません。人によって効力発生日の解釈が異なることは許されないのです。

理論上、認知症と診断された医師の診断書の日付を効力発生日とすることはできますが、恣意的に診断書を取らないことも可能ですし、診断書の日付は実際に判断能力が低下した日や認知症の発症日とは異なるので、効力発生日の特定として法的にも問題が多いといえます。

「委託者につき成年後見人の選任審判が下りた日」という客観的な日付をもって契約を発動させることも可能ですが、そもそも成年後見制度の代用として家族信託を活用したいというニーズが多いことを考えると、この条件付契約は意義が半減するといわざるを得ません。

以上のことを踏まえると、信託契約に特に条件等を付けて発動時期を先送りにするのではなく、信託契約の締結と同時に発動させることをお勧めします。
そうすることで、親(委託者兼受益者)の元気なうちは、親自身が受託者たる子に指示を出し、その働き具合を見定めることができるので安心です。

また、もし信託財産に賃貸アパート等の収益物件が入っている場合は、自分が元気だからこそ賃貸経営の“イロハ”(管理会社との付き合い方、修繕の時期・やり方・予算決め、各賃借人の人柄・属性の把握、確定申告の仕方、顧問税理士との付き合い方など)をちょっとずつ後継者である子どもに教えることができ、賃貸経営における権限移譲・事業承継がスムーズにできるという大きな効果も得ることができます。

家族信託を活用して老親の財産管理と生活支援の仕組みを作ることは、会社の経営と同様、まだ早いくらいからちょっとずつ次世代(子世代)を“育てる気持ち”・“任せてみる覚悟”が必要です。それができれば、自分の希望や方針を伝えつつ法務・税務等の煩わしい手続きはすべて子に任せ、自分は今まで通りの生活をより気楽に楽しく過ごすことができることでしょう。

(記事は2019年12月1日時点の情報に基づいています)

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