目次

  1. 1. 「あげる」「もらう」意思が大切
  2. 2. 「契約書さえあれば大丈夫」は危険
  3. 3. 贈与の事実や預金通帳の管理状況を伝えること

「相続会議」の税理士検索サービス

贈与をめぐって、よくある質問に「孫名義の預金ですが、税務署から名義預金と言われてしまいますか」というものがあります。定番の相続税対策として、現金を毎年110万円の基礎控除の範囲内で「贈与」する方法があります。この方法に対する質問ですね。しかし、親御さんなどが、単に預金を口座へ移し替えるだけでは「名義預金」になってしまいます。

また、「贈与」については、以下の都市伝説を耳にすることがあります。

  • 都市伝説①:「基礎控除額以下でも、贈与税の申告をしておいた方がいい」
  • 都市伝説②:「贈与税の申告をして、少額でもあえて納税をしておいた方がいい」
  • 都市伝説③:「赤ちゃんや幼児が贈与を受けるときは、贈与契約書を作成しておかないと『贈与』と認められない」

今回は、これらの都市伝説を踏まえて、「贈与」について、掘り下げてみましょう。

みなさんはご存知だと思いますが、「贈与」は、あげる人の「あげましょう」と、もらう人の「もらいましょう」という意思が一致して、その目的物、現金などの所有権が移動することになります。要は、親御さんとお子さん、あるいはお孫さんの間で、この事実に基づいて、結果としてお子さんなどの名義の預金となっていれば、「贈与」によるものであって、「名義預金」とはなりません。

この点をめぐって、税務調査を想定して、国税調査官と想定問答をしてみましょう。

被相続人がおじいちゃん、調査でターゲットになっているのは、そのお孫さん名義の預金で、対応しているのは、その預金名義人の親御さん(お母さん)だとします。このお母さんが、今回の相続税の納税者にもなっています。

  • この被相続人のお孫さん名義の預金ですが、どういった経緯で、何を原資としてできたものですか。

    調査官
    調査官
  • これは、亡くなったおじいちゃんから毎年贈与されたお金です。孫が生まれたことをきっかけに、『孫のために何かしてあげたい。これから長い人生、お金もかかるだろうし』とか『残しておいても相続税がかかるし』と言って、その翌年から孫への贈与が始まりました。①

    預金名義人の親御さん(お母さん)
    納税者
  • そのお金は、実際にどなたが振り込んだり、預金されたりしていたのですか。

    調査官
    調査官
  • おじいちゃんが元気だったときは、私に『贈与のお金を振り込んでくる』と言って②、自分で銀行に出掛けて振り込んでいましたが③、入院して以降は、私がおじいちゃんから、『今年も贈与するから、100万円振り込んできてな』と言われて④、印鑑と通帳を預かって、振り込んでいました⑤。でも、おじいちゃんの容態が悪化して、亡くなった年には贈与していません⑥。

    預金名義人の親御さん(お母さん)
    納税者
  • 契約書などの書面は作っていますか。

    調査官
    調査官
  • いいえ、そこまではしていません⑦。

    預金名義人の親御さん(お母さん)
    納税者
  • 振り込んでもらっていた通帳や印鑑は、どなたが管理されていましたか。

    調査官
    調査官
  • 当時は未成年だったので、親である私が、私の通帳などと一緒に自宅に保管していました⑧。

    預金名義人の親御さん(お母さん)
    納税者
  • それは、亡くなった方の通帳などと同じ保管場所でしたか。

    調査官
    調査官
  • いいえ、住んでいるところも別ですし⑨。

    預金名義人の親御さん(お母さん)
    納税者
  • お孫さんは、贈与してもらった預金について、どのような認識でおられますか。

    調査官
    調査官
  • 物心ついたときに、『おじいちゃんから毎年お金をもらっているから、会ったときにお礼を言っておきなさい』と伝えていました⑩。以来、お金をもらうときには、『おじいちゃんが、今年も100万円贈与してくれるって』と伝えていました⑪。ただ、成人したときに通帳を渡そうとしたのですが、『お母さんが預かっておいてくれた方が安心だから、使う必要ができたら言うね』とのことでしたので、引き続き私が預かることにしています⑫。

    預金名義人の親御さん(お母さん)
    納税者
  • お孫さんは、贈与を受けた金額の総額を把握されていますか。

    調査官
    調査官
  • さぁ、それはどうでしょうかねぇ。無駄遣いする子ではなかったので、そのまま貯まっていますからね⑬。

    預金名義人の親御さん(お母さん)
    納税者

では、このやりとりを検証してみましょう。上記のやりとりの番号に沿って、ご説明します。

一般的に、人の行為には動機や経緯があります。「贈与」するに当たって、こういった事情を明確にすることは、意外と重要です(①)。

  • これは、亡くなったおじいちゃんから毎年贈与されたお金です。孫が生まれたことをきっかけに、『孫のために何かしてあげたい。これから長い人生、お金もかかるだろうし。』とか『残しておいても相続税がかかるし』と言って、その翌年から孫への贈与が始まりました。①

    預金名義人の親御さん(お母さん)
    納税者

お孫さんは贈与開始時において乳幼児ですので、おじいちゃんは、その法定代理人のお母さんに意思表示しています(②)。これに対して、お母さんは積極的に「もらいましょう」といった発言はしていませんが、この状況から承諾していることは明らかです。

おじいちゃんが元気な時はご自分で、入院後は、委任することによって贈与契約の履行をしています(③~⑤)。特に、おじいちゃんは、入院後も贈与の意思表示をしていることが分かります(④)。その対比として、おじいちゃんの容態が悪化した際、意思表示がままならない状況下では贈与をしていないことが分かります(⑥)。

  • おじいちゃんが元気だったときは、私に『贈与のお金を振り込んでくる』と言って②、自分で銀行に出掛けて振り込んでいましたが③、入院して以降は、私がおじいちゃんから、『今年も贈与するから、100万円振り込んできてな』と言われて④、印鑑と通帳を預かって、振り込んでいました⑤。でも、おじいちゃんの容態が悪化して、亡くなった年には贈与していません⑥。

    預金名義人の親御さん(お母さん)
    納税者

契約書を作成していないことについては(⑦)、身内のことですし、これまでの経緯からすると、そのことだけをもって「贈与」があったことを否定する理由にはなりません。

私が思うに、契約書があったとしても、その書式や署名押印の状況などから、いつ作成されたものか確認しますので、仮に、「複数年分の契約書が最近まとめて作成された」といった事実が浮かび上がってくるようなことになれば、逆に贈与の事実が否定される要因となりかねません。「契約書さえ作っておけば大丈夫」というお考えであれば、むしろ危険だと思います。

  • 契約書などの書面は作っていますか。

    調査官
    調査官
  • いいえ、そこまではしていません⑦。

    預金名義人の親御さん(お母さん)
    納税者

贈与契約の履行が完了した裏付けとして、目的物のお金が、贈与者からもらった人に対して、その支配及び管理が完全に移っています(⑧及び⑨)。

  • 当時は未成年だったので、親である私が、私の通帳などと一緒に自宅に保管していました⑧。

    預金名義人の親御さん(お母さん)
    納税者
  • それは、亡くなった方の通帳などと同じ保管場所でしたか。

    調査官
    調査官
  • いいえ、住んでいるところも別ですし⑨。

    預金名義人の親御さん(お母さん)
    納税者

また、お孫さんが成長し、意思能力が備わった(お金をもらっていることが分かるようになった)以降、親御さんが贈与の事実を伝えています(⑩及び⑪)。お孫さんが成人した後であっても、ご自身で預金通帳を保管していないことについて、預託していることを明らかにしています(⑫)。

  • 物心ついたときに、『おじいちゃんから毎年お金をもらっているから、会ったときにお礼を言っておきなさい』と伝えていました⑩。以来、お金をもらうときには、『おじいちゃんが、今年も100万円贈与してくれるって』と伝えていました⑪。ただ、成人したときに通帳を渡そうとしたのですが、『お母さんが預かっておいてくれた方が安心だから、使う必要ができたら言うね』とのことでしたので、引き続き私が預かることにしています⑫。

    預金名義人の親御さん(お母さん)
    納税者

なお、お孫さんが贈与による預金残高を把握していないことについては(⑬)、親御さんが通帳を預かっている経緯からすると、特に不合理なことではありませんし、一連の贈与を否定する要素にもなりません。

  • 無駄遣いする子ではなかったので、そのまま貯まっていますからね⑬。

    預金名義人の親御さん(お母さん)
    納税者

やり取りを一通り見ると、一連の証言が、「贈与」があった事実を示していることが分かると思います。

贈与の経緯など、事実に基づいてきちんと証言すれば、他に矛盾した証拠が出てこない限り、「贈与」を否定されることはないと思います。否定するには税務署の側にそれを証明する責任があります。

さらに、贈与税の申告がされていることについては、「贈与税の申告があるのなら、おそらく贈与の事実があったのでしょう」と、贈与があったことの事実に対する推測にとどまり、そのこと自体が、贈与があった証明になるわけではなりません。

つまり、「贈与」をめぐる都市伝説には明確な根拠がなく、むしろ「贈与」とは何か、正しく理解すれば税務署の視線を気にすることはないのです。

(記事は2019年9月1日時点の情報に基づいています)

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